ゆきりーな

カルチャースクール講師。ゴスペルとボイストレーニング&大人ピアノ、小学生の作文…

ゆきりーな

カルチャースクール講師。ゴスペルとボイストレーニング&大人ピアノ、小学生の作文を担当しています。月一回、辻堂の古民家カフェ 季楽で『うたごえ そよ風』の活動中。童謡、唱歌、世界の名曲、懐かしいヒット曲などを皆さんと一緒に歌っています。趣味は絵手紙を書くこと。

最近の記事

母と歌えば2024⑬

「はい。」 バス通の道端でつんできたキバナコスモスを玄関先で渡すと、母は予想通りとても喜んだ。  今年の母の日、私は十九歳の息子に 「びーちゃん〔母の呼び名)ちにプレゼントを届けて。」 と頼んだ。花屋で花束を買って行ってもらおうかと思ったが、息子が 「オレ、花って一回も買ったことないんだけど。」 と言ったので、少しハードルを下げることにし、プレゼントは前日に私が買って来た。風景と野鳥のぬりえ。治るまでに数ヶ月かかったひどい風邪のあと、気力体力が戻らず、水彩画教室を休んでいる母

    • 母と歌えば2024⑫

      「ピンポーン。」 その日は予定より早く、実家に着いた。マンションのドア越しに、室内でチャイムが鳴っているのが聞こえた。でも、母は出てこない。私は合鍵をバッグから取り出して、鍵穴に鍵を差し込んだが、鍵は回らない。 「あれ?」 この鍵じゃなかったのかな?ガタガタと鍵を動かしても、回る気配はない。母はおそらく室内にいるのだろう。きっと、まだ補聴器をつけていないだけだろう。そう思いながらも、少し心がざわついた。鍵が開かないなんて。母の携帯に電話をしてみたが、電話にも出ない。「おかけに

      • 母と歌えば2024⑪

        「きのう、病院に行って、たくさん薬をもらって来ましたが、自分としてはたいへんよくなったと思います。」 母のところに行く日の前日のメール。母は去年の秋頃風邪をひいて、年が明けてもそれが完全には治らず、もともと細いのにさらに痩せてしまい、すぐにくたびれてしまうようだ。 「もう、水彩画の教室には行かないことにしようかと思うの。何時間も座って描くの、無理だから。」 何回かそんな話をして、休会している間に世話役だった人から手紙が届き、 「卒業します。」と書いてあったのだそうだ。 「もう

        • 母と歌えば2024➉

           昨日はやたらと暑い日だった。4月半ばなのに、半袖でちょうど良いくらい。つい数日前まで寒くて困っていたから、まだ半袖は数えるほどしか出していない。私は慌てて洋服を引っ張り出して、五分袖くらいのトップスを探し出した。そんなことをしていたら、母との約束の時間に遅れてしまった。 「あの子も来るのよ。」 私が実家に着くと、母が言った。妹がランチの時間に来るらしい。  実は先週の日曜日、私と妹はニアミスしていた。フラダンスを習っている妹は12時から辻堂の駅前の野外ステージで踊ることにな

        母と歌えば2024⑬

          母と歌えば2024⑨

           昨日の昼前、花散らしの雨風の中、母の家へ向かった。すれ違う人の中には、壊れたビニール傘を抱えている人が、二人。私は濡れることを覚悟して傘を閉じ、上着のフードを手探りで被ろうとしたが、どうもうまくいかない。  なんとかバスに乗り、降りて傘を開き、ほんの数分の道を歩く間に、大の大人が飛ばされそうになるほどの風。母の住む団地内の小道には、桜の花びらが敷き詰められたように落ちていた。さらにスロープの手すりや、自動ドアのガラスにも桜の花びらが貼りついている。  「あの人、亡くなったの

          母と歌えば2024⑨

          母と歌えば2024⑧

          今、小学校は春休み。私はオンラインで小学生の作文指導をしているが、そのお子さんのお母様から 「レッスンの時間を午前中にしてもらえませんか?」 と、ご連絡をいただいた。うーん、今日は午前11時に母のところへ行く約束だけど、どうしようかな? 母に時間を午後にしてもらえないか、と頼むと快諾してくれた。そんなわけで私は今日、お昼過ぎに母の家に行った。  いつものようにお昼ご飯を食べていると、不意に母のガラケーが鳴り出した。 「あ、キタバタケさんからだ。」 北畠さんは母の親友で、長く看

          母と歌えば2024⑧

          母と歌えば2024⑦

          「先週の土曜の朝に、突然あの子が来たのよ。」 熱戦の続く甲子園のテレビ中継を見ながら、母は行った。その日母は遊びに来た妹と近所に桜を見に行ったそうなのだが、一つも咲いていなかったのだそうだ。 「じゃあ、今日も探しに行こう。」 歌の練習をし、昼食を済ませ、食後のコーヒーを楽しんだ後、実家の周りで、桜の咲いていそうな場所に行ってみた。 道沿いにある幼稚園の園庭の桜の木を見上げていると、可愛い幼稚園児に 「こんにちわ。」 と、声をかけられた。 「こんにちわ。桜が咲いているかな?と思

          母と歌えば2024⑦

          母と歌えば2024⑥

          「カーテンが落っこちてきました。」 朝、母からメールが来た。その日はもともと、夫が実家に行って、家庭用の火災報知器を取り付けてくれることになっていた。母はメールに写真も添付してくれたが、何が原因なのか、はっきりわからない。ようやく起きてきた夫に、状況を説明し、どうするか相談していたら、出かけるのが遅くなってしまった。 まず私が実家に行き、夫は午後1時半から2時の間くらいに到着するという段取りだ。  「あー、これが割れたのね。」 実家に着いてカーテンを見てみると、カーテンをかけ

          母と歌えば2024⑥

          母と歌えば2024⑤

          「ピーピーピー。」 日曜に母と眼科に行った。補聴器の無料オーバーホールをしてもらうためだ。 一週間くらい時間がかかるので、代わりの補聴器を借りてきたのだが、それが普段母が使っているものに比べるとあまりよく聞こえないらしい。その上、何かする度に母の左耳から異音が聞こえてくる。 「あなたに頼みたいことがあるのよ。」  月曜日、実家に行くと母は私にそう言った。米沢に住んでいる母の姪のヨーコちゃんが、今日、80歳の誕生日を迎えたので、電話をかけてほしいというのだ。 「自分でかければ良

          母と歌えば2024⑤

          母と歌えば2024④

          日曜の夜、電車に乗っている時、スマホに母から着信があった。 「今、電車に乗ってる。」 と伝え、降りたら電話する、と言うと母は 「10分くらいたったら、お風呂に入るから、補聴器外しちゃうよ。」 と答えた。  その後息子からの 「牛乳買ってきて。」 というLINEに気づいた。改札を出たところにある成城石井で見ると三百円くらい。高いなぁ。でも、時間は午後九時。コンビニには小さいサイズしかないかも知れないし、閉店してしまったら困る。私は渋々、三百円超えの牛乳を買った。  店を出ると目

          母と歌えば2024④

          母と歌えば2024③

           今朝、母に11時頃お邪魔します、とメールしたら、 「覚えてたんですね。お待ちしています。」 との返信。母は少しばかり人が悪い。もちろん、先週約束を忘れていた私が悪いのだけれど。 「昨日、プールへ行って、泳ごうとしたんだけど、ちっとも泳げないの。五十メートル泳ごうとしても、二十五メートルでターンした後、すぐに立ちたくなっちゃって。他の人に笑われちゃうから、泳ぐのはやめて水中ウォーキングしようとしたけど、やっぱりまた、すぐくたびれちゃって。」 母は去年の十月から約三ヶ月、風邪が

          母と歌えば2024③

          母と歌えば2024②

          母からの電話に慌てて出ると 「今日、ボイストレーニングじゃなかったのー?」 え?今日、火曜日だけど。大抵、母のボイストレーニングは水曜日だ。 「昨日から、何度も連絡してるのに。」 「ごめんねー。すぐ行きます。」 私の家から実家まで、約三十分。駅まで歩いて十数分。そこからバスで十分弱。バスを降りてから、約五分。  実家に着くと母は、昼ごはんを用意していた。私は昼前にカップスープとトーストを一枚食べたから、あんまりお腹は空いていない。でも、それは言わないで母の手料理を食べることに

          母と歌えば2024②

          母と歌えば2024①

          「そっちでゴチャゴチャ言っても、聞こえないっていってるでしょ?」 母八十八歳。立派に一人暮らしができているが、補聴器のお世話になり始めて、もう十年以上経つ。 ごめんごめん、気をつけるー。  「私、耳が悪くなってから、あなたに歌を習い始めたんだっけ?」 ううん、そうじゃないよ。私はカルチャースクールの講師で、もともとポピュラーソング講座っていうのをやっていたんだけど、生徒さんが少ないんだーって言ったら、お母さんが 「私が習う。」 って言ったのよ。だけど、コロナ禍で 「歌の教室は

          母と歌えば2024①