母と歌えば2024⑦

「先週の土曜の朝に、突然あの子が来たのよ。」
熱戦の続く甲子園のテレビ中継を見ながら、母は行った。その日母は遊びに来た妹と近所に桜を見に行ったそうなのだが、一つも咲いていなかったのだそうだ。
「じゃあ、今日も探しに行こう。」
歌の練習をし、昼食を済ませ、食後のコーヒーを楽しんだ後、実家の周りで、桜の咲いていそうな場所に行ってみた。
道沿いにある幼稚園の園庭の桜の木を見上げていると、可愛い幼稚園児に
「こんにちわ。」
と、声をかけられた。
「こんにちわ。桜が咲いているかな?と思ってみに来ました。」
私は怪しまれないようにそう言った。金網越しに幼稚園の中をのぞいていたら、怪しいもんね。その少し先が小学校だ。
「あそこが一番、早いはずなのよ。」
母が言ったが、その枝に花を見つけることはできなかった。蕾は今にも弾けんばかりに膨らんでいるけれど。
「きっと、明日だね。」
そうだね。しばらく母と一緒に歩いていると、鋪道の反対側に高い桜の木があった。
「あれ?咲いてる。」
私と母は少し来た道を戻り、横断歩道を渡ってほんの何輪か桜の花の咲いている枝を写真に撮った。
「ほら。」
スマホの写真を拡大して見せると、母は
「本当ね、咲いてる。」
と言った。三、四本並んで植えられている桜の木には、それぞれほんの少しだけ花が咲いていた。
「咲いてたね。」
私はそのまま自分の家に帰ることにして、しばらく歩いてから母に、
「じゃあね。」
と言って、それぞれ反対に向かって歩き始めた。しばらく歩いていると、遊水池の上にいくつも桜の花が見える。急いでそばに寄ると、見えなくなってしまった。私はもう一度花が見えた場所まで戻り、見当をつけてから、木の真下に行った。さっき写真を撮った時より、ずっとたくさん咲いている。
「でも、ソメイヨシノじゃないかもしれないなぁ。」
思えばなぜ、私たち日本人ははこんなに桜に、しかもソメイヨシノにこだわるのだろう?他の花だって、それぞれに美しいのに。
 今年は桜の花が咲くのが遅い。そして、早く散ってしまうのだという。そんな季節の移り変わりを感じ、言葉にすることが大切なのかも知れない。


デザートはキウイとイチゴ。
母の用意してくれたランチ。
どこかに咲いている桜があったんだけどー。
これはソメイヨシノではないかも。

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