母と歌えば2024⑥

「カーテンが落っこちてきました。」
朝、母からメールが来た。その日はもともと、夫が実家に行って、家庭用の火災報知器を取り付けてくれることになっていた。母はメールに写真も添付してくれたが、何が原因なのか、はっきりわからない。ようやく起きてきた夫に、状況を説明し、どうするか相談していたら、出かけるのが遅くなってしまった。
まず私が実家に行き、夫は午後1時半から2時の間くらいに到着するという段取りだ。
 「あー、これが割れたのね。」
実家に着いてカーテンを見てみると、カーテンをかけるところが割れている。
「これ、なんで言うんだろう?」
スマホで調べてみると、「カーテンランナー」と言うらしい。ダイソーでも売っているくらい一般的なもののようだ。
「何かで引っ張ったの?」
母に聞くと、そんなことはなかったという。
「経年劣化なのかなー?」
私が遅れて行ったので、母はすぐお昼ご飯にしようと言った。
「だめだよ、歌わないとー。」
前日がひな祭りの日だったから、『うれしいひな祭り』を歌おうと言うと、母は渋々承知した。
「歌詞知ってるよね。」
と聞くと、母は
「知ってるよ。」
言ったが、歌ってみるとなんだかおかしい。母は、1番の後半で2番の歌詞を歌っているみたい。
「5番くらいまであるのよねー。」
スマホで検索してみると、歌詞は4番まで載っていた。1コーラスずつ歌詞を読んでから、歌ってみた。
「くたびれたから、もうおしまい。」
昼ごはんの準備をしながら、母はひな祭りの歌を鼻歌で歌っている。こういうことがいいんだ、多分。
 お昼ご飯を食べ終わってしばらくすると、夫が到着した。カーテンの状態を見せると
「あー、カーテンのタマねー」
あー、そういう言い方あったね。
「どこに買いに行く?ダイソーかニトリ?」
「いやー、ホームセンターに行かなきゃダメでしょ?」
夫はしばらくカーテンを睨んでいたが、
「余ってるタマ、あるじゃん。」
と言い出した。あー、カーテンをつっていないタマ、確かにあるね。
 レールの端の留め具を外して、タマを一つずつ外す。そしてカーテンを開け閉めするための磁石のついた部分があるので、数が合わなくならないように注意しながらレールにタマを戻していく。はあ、なんとかできた。
 次は火災報知器。夫はキッチンのカウンターの上に立たないと、設置場所に手が届かない。なかなか大変そうだったが、器用なのでなんとか取り付けた。
 実は母はもうひとつ、困っていることがある。数日前から実家のWi-Fiが繋がらないのだ。パソコンを使うことができない。私は昼ごはんの前にN○○に電話をかけたが、なんと50分以上も「しばらくお待ちいただくか、おかけ直しください。」というアナウンスを聞き続ける羽目になった。諦めて電話を切り、調べに調べて別の番号にかけると、録音して先方からの電話を待つ形式の電話だった。電話はなかなかかかって来ず、かかってきたのは私がひと足先に家を出た夫の車に乗って、仕事に向かおうとした時だった。
「ご契約者様のお名前と電話番号が合致しません。」
オペレーターは言う。母の名前で請求書が送られてきているのに、そんなことはあるはずがない。とにかく合致しなければ、何の説明もできないらしい。押し問答の末、私はまさかと思いながら、十年以上前に亡くなった父の名前を言ってみた。
「その方がご契約者様です。」
「そんなの、ただの意地悪じゃない!」
私は思わず大声をあげた。苗字が合ってるんだから、それだけでもわかりそうなものなのに。それにしても、なぜ、母が契約者じゃないんだろう?
 私はふと思い出した。家の電話には加入権とやらがあることを。確か、そのせいで、亡くなった父の名義から母の名義に変更できていないのかもしれない。
 私が急いでいたせいもあり、Wi-Fiの問題は解決できなかった。それにしても、Wi-Fiが繋がらないという

「しおしおになっていたごぼうで作った」と母が言っていたけど、きんぴらごぼう美味。
山形の親戚が送ってくれたゆべし。

話をしているのに、家の電話の加入権が問題になるなんて、ニッポンは不思議な国。

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