母と歌えば2024⑲

「今日、あの人お誕生日だと思う。」
母は山形に住んでいる自分の弟の名を言った。
「え?じゃあ、電話かけてみようよ。」
「嫌だ。今日じゃないかもしれないもん。」
母には十人も兄弟姉妹がいたから、全員の誕生日を覚えていなくても、不思議ではないのだという。
「誕生日を覚えているのは、マキコ姉さんと、それからー」
母は二、三人兄弟の名前をあげ、誕生日がいつだったか教えてくれた。残念ながら、その人たちは既に鬼籍に入っている。
「この間、新庄すごい雨だったのね。」
数日前、山形県に極地的大雨が降り、特に母の生まれ故郷の新庄は大きな被害があったようだ。新庄には今も二、三軒親戚の家がある。
「山形と新庄の間、まだ、新幹線が復旧していないらしいよ。」
鉄道マニアの話によると、山形新幹線は本当の新幹線ではなく、ミニ新幹線なのだと聞いたことがある。
「山形新幹線は新幹線用のレールじゃなくて、在来線のレールに新幹線を走らせているから、もともとトラブルが多いみたいよ。」
と、母が教えてくれた。それで、復旧にも時間がかかるんだな。
 私が訪ねて行った時、実家の部屋の中には、変な音が響いていた。
「あ、高校野球見てたのねー。」
球場の音がサラウンドで響き渡っていたが、それだけではない。エアコンからも雑音がしている。球場の音とエアコンの音が混じっていたのかー。母はエアコンをつけてもちっとも涼しくならないと言って、強風モードにしているようだ。耳が遠くなった母は、雑音に限ってよく聞こえることがあるんだけど、こういう音は気にならないのかな?
 甲子園の中継していた試合が、十分間の休憩に入った。今年から、暑さ対策のため、試合の途中で休憩を入れることになったらしい。
「じゃあ、試合も休憩になったから、歌の練習をしよう。」
体操と発声練習をした後、母に何を歌おうか?と尋ねたら、
「旅愁。」
と答えた。こんなに暑いのに?
「もう、立秋だもん。」
まぁ、そうだけどね。
昔ながらの唱歌「旅愁」は、メロディーの起伏がありながら、音域は1オクターブに収まっている。母にはとても歌いやすい曲のようだ。母は何を歌っても「難しい歌だね。」
ということが多いが、「旅愁」は気分よく歌えたようだ。
 練習を終えて、テレビをつけると、甲子園の試合も再開し、九回表に大量得点が入った。後攻の学校も最後まで粘ったが、及ばなかった。
 この試合の後、長い休憩を取り、夕方次の試合をするらしい。
「試合の日程、長くなるねー」
開会式から集まっていたら、出番の遅い学校も自分たちの試合まで、ずっと宿に泊まっているのかしら?
 ケチな私は、お金がいくらあっても足りないな、と思った。まぁ、ウチには甲子園に出ることはおろか、応援に行きそうな人もいないから、いいけど😅

母曰く「取り止めのないおかず」
いやいや、美味しかったけどー。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?