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風夏鈴
2024年5月17日 22:47
あなたが事故に遭うまで毎日使われていたヘアオイルのMG5は事故のあと、まったく使われなくなりましたけれど長い年月をかけてMG5の中身は確実に蒸発してゆきました初めは減らないようにと祈っていた私だけれど、あなたはだんだん、私の知らないあなたに変わってゆきましただから私は、こっそりそれを少しずつ捨てました早く中身が消えるように、と私は天使なんかじゃない愛は
2024年3月8日 23:48
病院手前の橋の上で父の車とすれ違ったクラクションを鳴らして降りてきた父は 今夜の付き添いは俺に頼むと言った東京から逃げて、家からも逃げてきた、この俺に個室に入ると起き上がれない母は曇りのない眼差しで天井を仰いで「いまに私はペシャンコにされるのよ」と指差して笑ってみせた「大丈夫だよ」と俺は力なく笑い、いったい、何が大丈夫なのか?こんなになるまで、こんなに
2024年2月8日 21:54
この手のひらが温かいのは、なぜでしょう浅い眠りの中で小さなスコップを片手に散歩するあなたの指先はいつも冷たいけれどベランダの挿し木の鉢植えで沈丁花の花がひとつ、ふたつ咲きましたその中心は白く、紫色に縁どられ甘やかな匂いに包まれてその隣りの姫椿も誘われるように咲きました幾重にも重なる花びらはその中心にまた、つぼみがあるようなひとつおき、咲かぬものまたその
2024年2月24日 16:21
名も無いロシア兵の写真が壁一面に貼られた広場では雪の降るなか、ひとり、ふたり、三人と人々はどこからか集まりそれぞれに花を手向ける広場を取り囲む護送車と警官はメドゥーサの様な光る眼で市民を狩り立て人々が足早にそこを立ち去ろうとも、降り積もる雪のなか、ひとり、また、ひとり、ふたりと花束の行進は続き 2月16日、ソロヴェツキーの石の中へ葬り去られた男の声無
2023年12月1日 21:22
ねえ、ボクが死んだらキミ、笑ってよ今日というこの、おめでたい日にさ何を生きて何を夢みて誰を愛した?モノクロ写真のキミは耳に光るピアスをしてふふっと笑い、あの日のキミの耳たぶはオレンジの光りに透けてとてもキレイだったよね黒い車にキミを乗せて走るよ後ろの荷台に溢れるような花束でキミを抱きしめて遠い砂漠までたったひとつのキミは光りでボクは影だった荷
2023年11月17日 22:47
街に撃ち捨てられた 遺体のあいだを、 ただ、 ジグザグに歩いてゆきましたもし、 それらの中にあなたを 見つけても、 私の瞳は、きっと それを信じない 数秒後には バラバラにさ れる かもしれない 自分の細胞を掻き集め何度も転びかけては瓦礫の山を 超えて ゆく星の数だけある愛は
2023年3月29日 20:35
桜の花びらが流れてゆきます僕の町を、君の町を明日のことなど思いもしないでつくしの子は伸び始め僕らはいま確かに歩いています桜並木のトンネルを花びらがこぼれてゆきます僕と君が手を繋ぐ指と指のあいだにときおり風に揺れる君の髪にも若い夫婦がベビーカーを押す赤ちゃんの膝掛けの上にも桜の花びらほろりほろり落ちてゆきますスニーカーの少女たちははしゃぎなから笑い転げとき