エッセイ : 映画さらば友よと同じ別れ方をした友人

僕が就職した1984年当時、みんなタバコを吸っていた。今では考えられない時代だったが、僕も吸っていた。後に僕はタバコを止めたが、このタバコに
忘れない思い出がある。

1968年に公開された古い映画がある。
さらば友よ、という映画だ。
僕はこの映画をテレビの映画番組で見た。
アラン・ドロンとチャールズ・ブロンソンの2大スター共演の映画だ。
アラン・ドロンとチャールズ・ブロンソンはふたりで秘密裏に金庫に証券を戻す仕事を頼まれる。
ふたりは、同事に金庫の金を手に入れようとする。
ところが、これは罠だった。
ふたりは金庫室に閉じ込められた挙げ句、殺人容疑までかけられてしまう。
ふたりは金庫室から脱出し、お互い知らない者同士になることを約束し、別々に逃げる。 
映画のラスト、
チャールズ・ブロンソンが別件で警察に捕まる。
警察から出て来たチャールズ・ブロンソンを
アラン・ドロンが待っていた。
知らない者同士を通すため、何の言葉も交わさない
チャールズ・ブロンソンがタバコを口に咥えた
アラン・ドロンはライターに火をつけ
チャールズ・ブロンソンの前に出す。
チャールズ・ブロンソンはアラン・ドロンが持つ
ライターでタバコに火をつけ大きく吸って吐き出すとイェ〜と言って警察官と共に去って行く。
この男の友情を描いた映画は今でも僕が大好きな
映画のひとつだ。

僕は大学を卒業し地元長野県の企業に就職した。
入社すると直ぐに新入社員だけの飲み会があったので出席した。
僕は同じテーブルの男と話しをしながら飲んだ。 
僕は海外営業部だったが彼は技術部だった。
たまたま映画の話しになり、お互いに、さらば友よ 
という映画が大好きなことが分かり意気投合した。
そして1番仲の良い友人となった。
僕たちは時々一緒に飲みお互いの夢を語り合った。
僕は仕事でヨーロッパに行かせてもらうのが目標だった。彼は半導体ICの設計者になりたいと言っていた。今は違う技術の仕事を任されているが、いつか必ず半導体ICの設計者になるんだ、と言っていた。

翌年の夏、彼は会社を辞めると言った。
半導体ICの設計をさせてもらえる会社が見つかり、
その会社への就職が決まったと言った。
その会社は九州にあると言った。

彼が退職する前日、僕は彼と深夜まで飲んでいた。
彼は、落ち着いたら手紙を送る、と言った。

彼が退職する日、朝、技術部に行くと、彼は皆の前で退職の挨拶をしていた。
僕は会社の正門の外で彼が出て来るのを待った。

彼は大きなバッグを2つ持って会社の正門から出て来た。そして僕を見つけるとニコッとした。
彼はバッグを持ちながら僕の方に歩いて来た。
途中で彼は胸の内ポケットからタバコを取り出し、
1本口に咥えた。
僕はライターを取り出し、火をつけ彼の前に出した  
彼は僕のライターでタバコに火をつけると、大きく吸って吐き出し、さらば友よ、と言った。
彼はそのまま歩いて行った。
そして振り向くことはなかった。
1度だけ握りこぶしを空に向かって突き上げた。
そして、またそのまま歩いて行った。

彼から毎年年賀状が届く。
彼は毎年同じ言葉を書いて来る。
死ぬまでにもう一度会いたい、という言葉だ。
僕も毎年同じ言葉を書いて彼に年賀状を送る。
彼と同じ、死ぬまでにもう一度会いたい
という言葉だ。

その年賀状を昨日書いた。





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