子育てエッセイ : 日本の昔話の改悪と世界最古の長編恋愛小説の源氏物語と世界最古の長編SF小説 竹取物語(かぐや姫)

今からもう30年近く前だ、僕は2人の娘たちに日本の昔話を聞かせてあげようと思い、書店に本を買いに行った。

最初に花さか爺さんの本を取って読んでいると、
おかしい、と思った。
花咲か爺さんのところに逃げて来た子犬が意地悪爺さんに殺されないのだ。
花さか爺さんのもとに来た子犬は、ここ掘れワンワンと言って大判小判をザクザクと花さか爺さんの手に入るようにする。ところが、それを見た隣りの意地悪爺さんはその子犬を借りるが大判小判が手に入らなかったため、その子犬を殺してしまう。
悲しみに暮れた花さか爺さんは子犬を土に埋める。
するとそこから見る見るうちに大木が生え、花さか爺さんはその大木で臼を作る。そして、その臼で餅をつくと大判小判がザックザク。意地悪爺さんがその臼を燃やしてしまうが、その灰が風に舞い枯れ木にかかると満開の桜の花が咲いた。
僕がその時読んだ花咲か爺さんでは、子犬が死なないだけではなく、意地悪爺さんが改心して、良いお爺さんにまでなってしまう。
何だこれは?と思った。

僕は次に、さるかに合戦を読んでみた。
さるかに合戦は、母親を猿に殺された2匹の子蟹が
臼、牛糞、蜂、栗の協力を得て猿に母親の敵討ちをする話しなのだが、まず母蟹は軽症で済む。猿は
敵討ちをされないどころか、臼、牛糞、蜂、栗に
説教されて改心し、良い猿になってしまった。
僕はだんだん頭に来るようになった。

カチカチ山も同じだった。
カチカチ山は、お婆さんが狸に殺され肉を刻まれ、鍋のなかに入れられ、婆婆汁にされてしまう。
それを狸に騙されて、お爺さんが食べてしまうという残酷物語から始まる。
そしてウサギが敵討ちをする。狸が背負った小枝に
火打ち石でカチカチと火をつけ背中に大火傷をさせ薬だと偽ってウサギは背中に唐辛子味噌を塗り苦しめる。最後は、木の船に乗ったウサギは、泥船とともに沈んで行く狸を溺死させる。
ところが、その本ではお婆さんは死なない、ウサギは泥船で沈んで行く狸を助け、狸も反省し良い狸になった。
僕は、ナメんなよとぶち切れそうになった。

僕は、日本の昔話を改変させることは改悪だと思っているし罪だと思う。
子どもの教育上良くないと思ってこのように変えたとしたら、大きな誤りだと思う。
僕は子どもの頃、母親に日本の昔話を読んで聞かせてもらったが、花さか爺さんの話しを聞いて、その時飼っていた子犬を大切にするようになった。
そして、悪いことはしてはいけない、良いことをしていると良いことがあると思った。
さるかに合戦とカチカチ山の話しを聞いて、命とは
大切なものだと学んだ。残酷な話しを聞いたから
残酷なことが出来なくなり、考えもしないようになった。
今の大人たちが残酷な話しは子どもの教育上良くないと考えているとしたら、完全な間違いだと思う。

かぐや姫は竹取物語から来ている。
僕は1990年代に仕事でヨーロッパに出張に行っていたが、その当時のフランスの大統領だった
ジャック シラクさんは大の日本好きだった。
愛読書は奥の細道と万葉集と遠藤周作さんの本、
ペットの犬の名前をスモウにし、50回近くも来日した。
そのため、フランスを中心に日本ブームが起きていて、フランスを中心に日本の古典文学が各国語で翻訳されるようになった。
フランスで1番注目を集めていたのが源氏物語。
フランスでは、世界最古の長編恋愛小説と言われていた。
僕はこの当時出張でフランスに行き、フランス人の
男性2人と女性1人の4人でディナーを食べた。
その時、日本の古典文学の話しになった。

源氏物語に対しフランス人の女性はこう言った。
「千年も前に、こんな完全な形で長編恋愛小説が書かれていたなんて驚きよ。しかも作者が女の人だなんて、女としてこれ以上嬉しいことはないわ、私たち女の誇りよ。紫式部を愛してるわ。」

竹取物語の話しになるとフランス人の男性はこう言った。
「世界最古のSF小説は古代ギリシアにあるが子ども向けのお伽噺のようなものだ。こんな完全な形での長編SF小説としては、竹取物語は世界最古のものだと思う。よくこの時代に、光る竹からプリンセスが産まれたり、月から使者が来てかぐや姫を渡そうとしない男たちを動けなくさせたりとか、こんな発想をしたと思うよ。凄いよ。
しかも、作者不明っていうのが尚更興味深いね。」

他にもこういう小説はないのか? と聞かれたので
僕が竹取物語よりも少し時代が遡るが、こんな
昔話が日本にはある、と言って浦島太郎の話しをすると、もう1人のフランス人の男性は、
「凄いよ、それはタイムスリップの話しだよ。」
と言った。

浦島太郎のラストは、浦島太郎が竜宮城から持ち帰った玉手箱を開けると白い煙が出て来て、浦島太郎が白髪の老人になってしまう所で終わっているものが多い。
ところが、浦島太郎にはこの続きがある。
この続きのストーリーは何種類かある。そのため、
日本各地に浦島太郎伝説が残っている。僕が住む長野県の木曽にも、目覚めの床という景勝地があり、
浦島太郎が玉手箱を開けた場所だと言われている。
僕が知っている浦島太郎のラストは、玉手箱を開け
老人になってしまった浦島太郎は、自分が竜宮城に行っている間に、何十年も月日が流れてしまったことを知り、悲しみに暮れて日本中を旅して廻る。
ある海辺で息絶えた浦島太郎は白鳥の姿になり、
西の空へ飛び去って行く。
ここに書いたラストシーンは、ヤマトタケル伝説に似ていると聞いたことがある。

日本で古くから伝わる昔話は、歴史上の事件や、
日本の神話等と関わりを持っている場合もある。
後世の人間が、そのストーリーを勝手に変えたりすることは、僕は改悪だと思うし、やってはいけないことだとも思う。

僕は母親の実家に昔ながらの、花さか爺さんやカチカチ山等の本があることを知って借りて来た。
そして、その本を娘たちに読んで聞かせた。
娘たちは、花さか爺さんを読んであげると、子犬が
可哀想だと言って涙を浮かべた。
さるかに合戦を読んであげると、2匹の子蟹を応援した。
カチカチ山を読んであげると、娘たちは怖くて怯えたような顔をしていた。
だが僕は読んであげたことに後悔しなかった。
娘は2人とも、人を傷つけるような人間にはならなかった。優しい人に育ってくれたと思っている。

僕は今、浦島太郎だけではなく、色んな昔話の研究するのを老後の趣味にしようか?とも考えている。
それほど日本の昔話は、僕にとって魅力的なものになっている。



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