エッセイ : 欧州で食べた朝ごはん 2 / 朝からビールを飲むミュンヘンの朝ごはん

日本人の特に僕の様なおじさん達は、ミュンヘンと聞くと直ぐにビールを思い浮かべますが、ドイツの方にミュンヘンと聞いて何を思い浮かべる?  と聞かれたら、ビールと答えないでください。人によってはムッとしてしまいますから。

確かにミュンヘンはビールで有名ですが、それ以上にドイツ1の自動車産業の街として有名です。
BMWの本社もBMW博物館も、その他車に関連する産業で栄えている都市です。
ですので、ドイツの人にミュンヘンと聞いて何を思い浮かべる、と聞かれたら、自動車産業と答えてからビールと答えましょう。

ドイツで車を運転する場合、気をつけなくてはならないことがあります。日本の交通ルールとまるっきり違うところがあるからです。
ドイツでは車は右側通行ですが、日本の場合で言うとドイツの交通ルールでは、交差点では右折車優先です。つまり、右折する車を全て行かせてからでないと左折出来ない、ということです。

もう1つが、高速道路の交通ルールです。
ドイツの高速道路は世界でも有名なアウトバーンと呼ばれるものです。
片側4車線で制限速度の設けてある所もありますが
基本的に制限速度無制限です。僕が仕事で欧州に出張で行っていたのは、1989年から2001年までで、近年、制限速度を設けている箇所が増えているそうですが、この当時は殆ど制限速度無制限でした。しかも無料だから料金所もありませんでした。

僕の子どもの頃からの疑問が、この時漸く解けました。ポルシェやイタリアのフェラーリやランボルギーニは時速300キロで走れるのですが、何処にそんなスピードで走れる所があるのだろう?  と思っていました。少なくともドイツのアウトバーンでは、
時速300キロで走ってよいわけです。

日本の高速道路では、早い車が遅い車を追い越して行きます。ところが、ドイツのアウトバーンでは、
速い車ほどセンターライン寄りの車線を走ります
そして、後方から速い車が来ると、遅い車は外側の車線に移って速い車を行かせてあげるようになっています。
つまり、自分は誰よりも速い、と思ったら、1番センターライン寄りの車線を走っていればいいのです

僕と一緒に営業をしていたマックスという男は自慢のBMWでアウトバーンを時速240キロでいつも走っていました。
だから200km離れたお客様でも1時間足らずで着きました。
ですが、皆さん、時速240キロの車に乗ると、
G(重力)みたいなものがかかり、身体がシートにへばり付いてしまいます。自由に身動きが取れなくて大変です。
ですがある時、マックスが時速240キロで運転しているのに、急に外側の車線に移動しました。
するとセンターライン寄りの車線をポルシェが一瞬の内に通り過ぎて行きました。
さすがポルシェ博士の作った車だと思いました。

ですので、ドイツ車が安全で乗り心地が良いのは当たり前です。時速300キロで走っても安定して走れるように、そして、昔ながらの石畳の道も快適に乗っていられるように設計されているわけですから

マックスとミュンヘンでの営業を始めた2日目の朝 マックスはホテルのレストランてはなく、ホテルの外のレストランに連れて行ってくれた。
ミュンヘンの朝食をご馳走してくれると言った。
ホテルのレストランでも食べられるが、このレストランの方が旨いと言った。
運ばれて来たのは、器のお湯のなかに浮かんだ
ヴァイスブルストという白いソーセージと、グラスに注がれたヴァイスビアという白ビールと、面白い形をしたブレッツェルという塩パンでした。

マックスに朝からビールを飲むのか?  と聞くと、
そうだ、と答えた。
ミュンヘンとは何という素晴らしい街でしょう。
朝食にビールが飲めるのです。

まずお湯に浮かんだ白いソーセージをお皿の上に置いて、ソーセージの皮を剥がして、中の部分に少し甘みのあるマスタードをつけて食べます。
この甘みのあるマスタードがよく合って美味しいです。また、これに塩味のブレッツェルというパンが非常によく合い、そして白ビールを飲むと最高です
ですが、この白ビールはアルコール度数は低いです
最後に珈琲を飲みましたが美味しい朝食だったと思いました。

レストランを出てマックスの車の助手席に乗った。

「ちょっと待てマックス、車でお客様のとこに行くのか?」
「当たり前だ、歩いて行けるわけがないだろう。」
「マックスはビールを飲んだよな?」 
「それがどうした?」
「ビールを飲んだ後、車を運転してもいいのか?」
「1杯や2杯大丈夫だ。」
「えっ?  ミュンヘンの人たちは皆、朝ビールを飲んで車で会社へ行くのか?」
「当たり前だ。歩いて行くわけないだろう」
「えっ?」 

後で知ったことですが、ドイツの酒気帯び運転の基準値は日本のものよりも緩いです。
例え検問で基準値を超えていても、口頭注意位で終わってしまうそうです。
要は事故さえしなければ良いということなのだと、
僕は思います。

マックスはフランスも同じだと言った。
僕は、そう言われてみれば、と思った。
ドイツに来る前に、パリにあるフランス支社に行った。確かに皆、ワインを飲みながらディナーを食べた後、車で帰って行きました。
僕はマックスに、時速240キロでアウトバーンを走る前にビールを飲んだか聞こうと思いましたが、止めました。背筋に冷たいものが走ったら困るからです。
数年後、僕は日本の技術部の係長に同行してもらってミュンヘンに来ました。
その時、このレストランで朝食をご馳走しました。
係長は旨い旨いと言ってビールを何杯も飲み、朝から酔い酔いになってしまいました。

ビールにストイックでない方には向かない街なのかもしれません。





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