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江戸和竿の経験 シーズン2 その9

稲荷町東作本店の注文伝票 5月末の昼すぎ。天気快晴すこぶる良し。 そろそろハゼですかね 6月になってからですから、そろそろですねえ と通ぶった会話を東作本店でする。 実は季節を感じるほどハゼに慣れ親しんでもいない。 今日は地下鉄稲荷町からではなく大江戸線の新御徒町駅から歩いた。竿庄のコミ調整をお願いするために訪問したのだ。 最近の高齢の竿師の様子、引退した竿師の話し、関釣具閉店セールの話し、沖堤防への渡船が禁止になったことなど話をする。 お店に出前のそばが届いた。 「ま

    • 江戸和竿の経験 シーズン2 その8

      ヤマベ竿で小鮒を釣る ヤマベを釣りにきたが「ヤマベは不在であった。しかし小鮒の群れを見つけた」ということがある。その時はヤマベ用の竿で鮒を釣る。この場合小鮒のサイズが問題になる。釣りはじめのころは、小鮒や中鮒の定義がとても気になっていた。理由は、竹という素材に対して「弱い」というイメージが強くあったからである。何センチくらいを小鮒と呼ぶのか。竿師のところに通うようになり、小鮒の手前の「柿の種」なるカテゴリーがあることを知った。柿の種とはそのとおりのサイズのミニミニブナのこと

      • 江戸和竿の経験 シーズン2 その7

        タナゴ竿で小鮒を釣る 4月、花粉症がいったん小康になりくしゃみの頻度が減ったようである。人がいうには花粉の種類が変わったのだという。本当だろうか。 数年前から通う用水路に水が戻っていた。口コミでいずれロコアングラーたちがやってくるだろうが、地元民として地の利を活かし、早めに数釣を楽しみたいと考えた。ここのポイントは例年鯉、鮒、ヤマベ、カワムツ、アブラハヤ、クチボソ、カマツカ、ドジョウ、タモロコが釣れる。しばらく同じ場所で季節問わず頻繁に通っていると「みえてくる」ものがある。ダ

        • 江戸和竿の経験 シーズン2 その6

          青鱚竿で鯉を釣る 「継竿と1本竿どちらが良いのか?」という質問をある親方に訊いたことがあった。「竿は本来1本の方が良い」といわれ少し驚いたことを覚えている。素材として竹1本そのままの方が強いという説明だったと思う。継ぎ竿はコンパクトに運搬できるようになるというメリット以外に、穂先の素材をセミクジラとか布袋に代えて、アタリをとれるようにするというように機能的な目的もある。その時はあまり竿の強度について考えを巡らすことはできなかった。 潮見三郎による「竿師一代(1996年つり

        江戸和竿の経験 シーズン2 その9

          江戸和竿の経験 シーズン2 その5

          根津にてヤマベ竿を購入した。 見せてもらった際に、収納する際に少し摩擦を感じるところがあり、ストンと入らないので気持ち悪く、それを親方に伝えると、「すぐ直せる」といわれた。持ち合わせがなく、2か月くらいあとに引き取りに行くと、その私が伝えた部分はすっかり調整してあった。口栓がキツイような気がしたが、それはどちらかというと私の手が乾燥して「潤い」が足りないかららしかった。すると「これでやってごらん」とゴムの板のようなものを渡された。もっていっていいよ、といわれる。ゴム板の正体は

          江戸和竿の経験 シーズン2 その5

          江戸和竿の経験 シーズン2 その4

          この稿を書いているのは3月頭でまだ少し寒い。例年私が良く通っていた釣場は水路のようなところであり、シーズンオフが無かった。フナとヤマベが1月でも2月でも釣れたのだ。すぐ足元を釣り、水深は深いところで60センチくらい、タナゴでいう「エンコ釣り」のスタイルが可能だった。釣れるのであれば、温かいお茶かコーヒーを水筒にいれて、昼前後の数時間は平気で頑張ることができる。しかし昨年のある時期、上流で完全に水を堰き止められてしまい、いまは完全に水が枯れているので釣りにならない。本当は少し遠

          江戸和竿の経験 シーズン2 その4

          江戸和竿の経験 シーズン2 その3

          焼印の是非 岩手県に出張した際に盛岡駅の名産品のお店で、南部鉄器と柳宗悦の文庫「茶と美 (講談社 2000年)」が並べてディスプレイされているのを目にした。印象が残り、帰京したのちにすぐ南部鉄器の鉄瓶、急須、柳の本を注文するに至る。 柳は「茶と美」において、総じて出版時(初版は1941だからそれよりも前の時期)の「茶の世界」に対してとても批判的、ときに切れ味鋭く、相手の面目をすっかりつぶしてしまうくらいの勢いで攻撃している。茶の世界の素晴らしさを解説するものだと予想していた

          江戸和竿の経験 シーズン2 その3

          江戸和竿の経験 シーズン2 その2

          カニ穴釣り 現代はインターネットで広く微に入り細に入り情報を検索することができるとても便利な世の中である。だから知られたくない情報はなるべくネットにはアップロードしないという警戒の心理が働く。いまでも秘境といっては言い過ぎだが、ほとんど誰も知らない釣場あるいは釣り方で人知れずこっそり楽しんでいる釣師、釣師のグループはいると思われる。 竿師の親方からそれとなく「ハゼ」の話しは聞いていた。しかしハゼは「船の釣り」だと決めつけていたこと、あとは何よりも釣場まで遠く時間がかかるという

          江戸和竿の経験 シーズン2 その2

          江戸和竿の経験 シーズン2 その1

          江戸和竿の経験シーズン1においては、ルアーとフライフィッシング熱が冷めてしまったのち、江戸和竿の工芸品としての魅力に気づき、江戸和竿への距離という観点で、私よりも手前にいる諸兄のガイド、道標になるように、構成を考えて記述した。「まったくわかっていない人が書いた紹介」と「詳し過ぎて、またはアドバンス過ぎて初心者に伝わらない解説」の間を埋めるものになるように努めた。私もどちらかというとまったくわかっていないグループに近いとは思うが入口近くにいる人たちを主たる対象としてこの文章を書

          江戸和竿の経験 シーズン2 その1

          江戸和竿の経験 その8

          SDGsと江戸和竿 アウトドアメーカー、パタゴニアがThe complete fishermanという動画をリリースしている。日本のテンカラそっくり、というかテンカラそのもののような釣りをするイタリアの老釣師を紹介している。竿の素材は竹なのかヘーゼルナッツなのかわからないが1ピースである。自分で竿を作り、糸は複数本の馬の毛をより合わせて作る。毛ばりも当然鳥の毛で作る。パタゴニアという会社はアウトドアを愛するがゆえに、環境に特別にやさしい企業を目指し、消費者にも自然にダメージを

          江戸和竿の経験 その8

          江戸和竿の経験 その7

          工芸品としての江戸和竿 江戸和竿の経験というタイトルなので、読者の中には「この人はいつ江戸和竿を作り始めるのだろうか」と期待されている人もいるかもしれない。これまで紹介してきた文献にも確かに和竿の作り方は紹介されているので、どういう工程を経て和竿が完成するのかについてはまったくの無知ではない。しかしたいへん申し訳ないが、いまのところ自分で竿を作ってみる予定はなく、ご期待には応えられない。竿作りに興味がある人は、より詳しい専門書をあたってほしい。 さて、このテーマでの冒頭に紹介

          江戸和竿の経験 その7

          江戸和竿の経験 その6

          江戸和竿の名家 御三家といえば、東作、竿忠、竿治、四天王といえば竿辰が連なるだろう。 上記以外の数多くの竿師が存在し、存在した。2024年春現在店舗を構えているのは、稲荷町東作、北千住の竿忠、押上の竿辰である。しかし東作はお店としてのブランドでもあり、竿師としての東作は空席である。東作の血筋は続いているので、いずれ実力をつけた東作が世に出てくるだろう。私が過去数年で、入手した和竿のうち、「江戸」和竿師としてリストアップされている竿師の手によるものは、2代目竿辰、3代目竿辰、(

          江戸和竿の経験 その6

          江戸和竿の経験 その5

          江戸和竿の購入方法 江戸和竿を買い求めるという行為は竿師あるいは店舗から直接が望ましいと思う。江戸和竿という伝統技能をサステナブルなものにするには竿師に収益がいくようにしなければならないからである。 竿を買うというプロセスのひとつに「誂える」つまり自分の個人的な釣りのためにカスタムしてもらうという贅沢なやりとりがある。いわば特注である。竿師との複数回にわたるコミュニケーションにはたいへん大きな価値がある。お金を払って、ハイどうぞ、という世界では味わえない満足感がある。竿のデザ

          江戸和竿の経験 その5

          江戸和竿の経験 その4

          江戸和竿の「江戸らしさ」 竹を素材とする竿は東京以外でも作られており、それぞれ歴史を持っているだろう。郡上竿、庄内竿、加賀竿など各地に存在したと聞いているが、それぞれの盛衰はお恥ずかしながら江戸和竿ほどには把握していない。江戸和竿が特徴的なのは、竿師が大事にしている哲学と贔屓筋とのやりとりによって育まれた「スタイル」が残っていることではないか。もう一点、江戸和竿としていままで生きながらえているのは、高品質であることは当然だが、「ブランド化」に成功したことが大きいのではないか。

          江戸和竿の経験 その4

          江戸和竿の経験 その3

          江戸和竿の実用性と機能 長らくルアーやフライロッド(一部バンブーロッド含む)を使ってきた私が当初想定していたイメージと比べて、和竿は「丈夫」であり、機能面では「工夫」され、また意匠面で「洗練」されている印象を受けた。単にしなやかな素材の竹を継げるようにしてあるだけではなく、「釣りやすさ」を追及している。 しかし「いい話」ばかりしていてもしょうがない。江戸和竿で釣りをして、「おや?」と思った経験をお伝えしよう。 ある初夏の曇天の日中、いつものポイントに鮒釣りにいった。何匹か釣っ

          江戸和竿の経験 その3

          江戸和竿の経験 その2

          江戸和竿の対象魚 「江戸」というからには江戸という土地柄の文化と釣場環境に強く関連がある。いま江戸和竿というとタナゴ、小鮒、あるいは鯊(はぜ)を釣るための道具と考える人が多く、実際に竿師もそれら小物竿が主な収入源になっているのではないか。 5代目東作松本栄一による「和竿辞典(1966年つり人社)」において和竿の対象魚が紹介されている。 川の部 フナ、ヘラブナ、タナゴ、ワカサギ、ヤマベ、ハヤ、ヤマメ、イワナ、マス、アユ、コイ 海の部 ハゼ、シロギス、アオギス、カレイ、アイナメ、

          江戸和竿の経験 その2