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流浪の食微録

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知られざる美味の探求と出逢いを求めて彷徨う、ロンリー・ミニマリストの食紀行。
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#札幌

ナポカツスペシャルの舌を巻く破壊力。

ナポカツスペシャルの舌を巻く破壊力。

「めりめろ」

2021年8月21日(土)

最後の力を振り絞るような午後の日差し。

力強いのに、どこか儚く物憂げな光。
時折吹きつける強い風に身を預けた。
それは、どこへでも導いてくれる。
意を介するわけもなく、ただ気まぐれに。

見る見る都心を擦り抜けて導いてゆく。
それは、不意に訪れた緑の園だ。
外からは中を伺うことはできない。
手がかりは、壁一面の大きな看板だった。
さあ、メルヘンチック

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大衆天ぷらの多彩、かすぞばの斬新。

大衆天ぷらの多彩、かすぞばの斬新。

2021年8月22日(日)

天候のめまぐるしい変化によって昼食を逸した。

外に出歩くのが面倒な日は水道水で凌ぐこともしばしばだが、
入退院を繰り返した体にはさすがに心細い。
といって、冷蔵庫や食品を購入し、身近に置くことに抵抗感を覚えていた。
おそらく購入したからとて、料理もしなけえば冷蔵庫を使いもしないのは、
性分として分かりきっている。

意を決して外に出た。
横殴りの風は正面からも背後か

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レモンサワーが奏でる喧騒、遠い思い出。

レモンサワーが奏でる喧騒、遠い思い出。

「焼肉ホルモンジンギスカン酒場 れもん」

2021年8月25日(水)

寂しげな影を投げかける霧の雨。
鉛色の空から雲の分子が落ちてくる。
悲哀に満ちた目で街を見る。

殺風景な秋の街に濡れた夜。
鮮やかな黄色の灯火が煌めいている。
それは新鮮な顔をした焼肉店だった。
雨がやみつつあるというのに雨宿り。

人が少ないというのに騒々しい。
若者たち、しかも20代であろう。
溢れるばかりの活力と相塗

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爽快な鮮魚が踊る、刺身定食の愉悦。

爽快な鮮魚が踊る、刺身定食の愉悦。

「大衆酒場さぶろう すすきの店」

2021年8月19日(木)

晩夏の白んだ空。

暑熱を冷ましつつある陽の余韻。
数日振りの好天はすっかり秋に衣替えしたかのようで、
どことなく寂しく、どことなく憂いを纏う。
この夏の狂おしいほどの異様な暑さの反動かもしれないが、振り返れば名残惜しい。

この状況下で何を食べよう?
ひと気が疎らになって久しい通りに、ランチメニューの看板が寂しげに佇立していた。

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海の贅と絶妙の赤酢が絡まる、生ちらし定食の極み。

海の贅と絶妙の赤酢が絡まる、生ちらし定食の極み。

「和処 さゝ木」
2021年8月6日(金)

体に多様な変調を来した春が過ぎ、
そこからの未知なる体験と不安が過ぎ去った。
克服による安寧の回復は、当然なほどに貪欲なほどの食欲を取り戻した。

強烈過ぎる日差しを頭上から浴びて、その店へと汗を振り絞って急いだ。
5つの輪の空虚な熱狂、あるいは狂熱の空虚を尻目に、地下へと伸びるその店へ静かに足を延ばした。

地下街というには寂しい店が連なる中で、すで

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住宅街に密やかに仁王立つ、知られざる驚愕。

住宅街に密やかに仁王立つ、知られざる驚愕。

「居酒屋 かみがしま」2021年4月29日(木)

札幌という街は、東京よりもある種一極集中していて、
北海道のGDPの大半を占め、しかも街の構造も札幌駅、大通公園、すすきのという地下鉄3駅に連なるエリアにビジネスもショッピングも飲食店も集中している。
さらには再開発ラッシュによって新しいビルやホテル、タワーマンションが次々と乱立し続け、
現代風の都市設計で言うなれば、コンパクトシティと定義づけら

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春恋しい、おでんと魚料理に浸る夜。

春恋しい、おでんと魚料理に浸る夜。

「煮炊き屋 魚吉」2021年4月25日(日)

嵐のような突風は、容易いまでに体温を奪った。
ダウンジャケットはもちろんのこと、グローブも手放せない寒さであった。
まもなく5月だと言うのに、この寒さはいったいどこから襲来してくるのだろう?
こんな日々が続くと温暖化とは遠い未来の先のものに感じるのは、あくまでも端的な日々の断片にしか意識を向けていないことだとは、分かってはいるのだが。

久方ぶりの日

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斬新でボリューム溢れるランチと紫煙の漂い。

斬新でボリューム溢れるランチと紫煙の漂い。

「魚と銀シャリ せいす」2021年4月23日(金)

例年と比べて異例の早さで桜吹雪が街中を舞った。
ここ最近の傾向としては、決まった時間に食事をすることなどなく、極端な日は歩きながら、あるいは食事をすることもない日がしばしば生じた。
もちろん、身体や精神はその反動を余すことなく見逃すことはない。
インバウンドで殷賑を極めていた狸小路商店街も、今ではその余韻すらなく陰鬱とした落ち着きが定着していた

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多彩な料理と明朗爽快な空気を纏う。

多彩な料理と明朗爽快な空気を纏う。

「大衆酒場さぶろう」2021年4月22日(木)

良かれ悪しかれ、仕事の集中度が高まれば高まるほどに、昼も夜も食事の時間を削ぎ落とし、睡眠時間も縮まってしまう性格を有しているは否定できない。
この人生の中でも、幾度かその襲来を乗り越えては来たものの、加齢は作業効率や思考判断を鈍らせ、自ずと停滞の悪循環に陥る。
およそこの2ヶ月間は、自らの体力と精神、さらには自己肯定感の喪失さえ覚えるほどであった。

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うどん無法地帯に突如として現れた力量。

うどん無法地帯に突如として現れた力量。

「手打ちうどん 力」2021年2月23日(火)

“北の街の春の到来とは雪の喪失である”、と自ら定義づけている。

灰色の空からは、槍のような雪が鋭く重たげに降り落ちる。
突如として冬に逆行しては、歩幅が狭いながらも春へゆっくりと歩む日々が続いているが、静かに春を待つばかりだった。

午後とはいえ、夕刻の微かな兆しが街に漂う中、空腹に息絶えるように彷徨った。
強く降る雪に溶け合う白く大きな暖簾は、

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放浪の末に辿り着く無骨と寡黙。

放浪の末に辿り着く無骨と寡黙。

自己否定からの回避。それは孤独になることである。何があろうとも、自己を否定してはならないのだ。
大概、そんな時は焼鳥と酒が自らを救う。
直近の課題は、営業時短の中で早く店に滑り込むかである。
20時が過ぎる。
22時まで2時間を切った。
ネオンサインや暖簾を頼りに、小雪の舞う街中を彷徨うも、思いの外どの店も満席という想定外に、店さえも自己否定するのか、という思いに苛まれた。
焦燥感と諦念の間で雑居

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大衆中華料理に突きつける霧と影。

大衆中華料理に突きつける霧と影。

「東京五十番すすきの店」2021年2月14日(日)

晩冬を兆す重たげな雪が日を追うごとにその増減を繰り返し、街を薄汚れた灰色に覆う。
日中は雪を溶かして濁った水溜りを作ったかと思うと、夕刻ともなれば次第に表面を光らせ、ともすれば足を掬う危険を帯びていた。
しかも空腹ともなれば、その足元は頼りなく弱々しい。
休日の食難民…
まるで神に呪われたユダヤ教徒のように街を当てもなく彷徨うも、日曜日のパンデ

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新子焼への期待が弾む、焼鳥たちの躍進。

新子焼への期待が弾む、焼鳥たちの躍進。

「新子焼 鳥〼」2021年2月9日(火)

『日が長くなったね』
そんな会話が彼方此方ではびこり出す頃、この地の冬は頂きを迎える。
そういった日々が流れ去る。
流れ去る?
長い間、日々が流れ去ることに大いなる疑念を抱いていた。
それはもしかしたら、ひとつの自己欺瞞かもしれない。
“人生とは、虚構ではないか?”
ぬぐいようのない自己欺瞞のうえに、突きつけられる自己疑念…
日常を越境することを試みる。

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品位あるハンバーグランチへの忽然の回帰。

品位あるハンバーグランチへの忽然の回帰。

「ゴッドバーグ」2021年2月9日(火)

振り返ると、この1年程の世界の激変ぶりにどことなく不安と違和感を覚えながらも、いつの間にかその状況に慣れ、在宅勤務や適所勤務、テレワークやワーケーションといった新しい働き方を生み出すほど、人間は逞しくしなやかな存在である。

“ニューノーマル”のキーワードすら、数年後には“ニュー”が消えるほど、現在の生き方や働き方が当然の“ノーマル”のようになるのだろう

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