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流浪の食微録

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知られざる美味の探求と出逢いを求めて彷徨う、ロンリー・ミニマリストの食紀行。
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2021年2月の記事一覧

放浪の末に辿り着く無骨と寡黙。

放浪の末に辿り着く無骨と寡黙。

自己否定からの回避。それは孤独になることである。何があろうとも、自己を否定してはならないのだ。
大概、そんな時は焼鳥と酒が自らを救う。
直近の課題は、営業時短の中で早く店に滑り込むかである。
20時が過ぎる。
22時まで2時間を切った。
ネオンサインや暖簾を頼りに、小雪の舞う街中を彷徨うも、思いの外どの店も満席という想定外に、店さえも自己否定するのか、という思いに苛まれた。
焦燥感と諦念の間で雑居

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大衆中華料理店の賑わいの喪失。

大衆中華料理店の賑わいの喪失。

「天壇」2021年2月22日(月)

日の長さ、砂利が散らばる歩道の露出。
まだまだダウンコートは脱げないものの、日中の気配は冬の終末を予告していた。
身を切る風も冷たくても、その気配は希少なエリアへの誘惑を駆り立てた。

ビジネスビルやホテルの犇めく札幌駅の西エリアは、人の気配は著しく少ない。
有給休暇取得による4連休のせいもあろう。
しかも在宅勤務や時差出勤、あるいは適所勤務という目まぐるしい

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大衆中華料理に突きつける霧と影。

大衆中華料理に突きつける霧と影。

「東京五十番すすきの店」2021年2月14日(日)

晩冬を兆す重たげな雪が日を追うごとにその増減を繰り返し、街を薄汚れた灰色に覆う。
日中は雪を溶かして濁った水溜りを作ったかと思うと、夕刻ともなれば次第に表面を光らせ、ともすれば足を掬う危険を帯びていた。
しかも空腹ともなれば、その足元は頼りなく弱々しい。
休日の食難民…
まるで神に呪われたユダヤ教徒のように街を当てもなく彷徨うも、日曜日のパンデ

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新子焼への期待が弾む、焼鳥たちの躍進。

新子焼への期待が弾む、焼鳥たちの躍進。

「新子焼 鳥〼」2021年2月9日(火)

『日が長くなったね』
そんな会話が彼方此方ではびこり出す頃、この地の冬は頂きを迎える。
そういった日々が流れ去る。
流れ去る?
長い間、日々が流れ去ることに大いなる疑念を抱いていた。
それはもしかしたら、ひとつの自己欺瞞かもしれない。
“人生とは、虚構ではないか?”
ぬぐいようのない自己欺瞞のうえに、突きつけられる自己疑念…
日常を越境することを試みる。

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品位あるハンバーグランチへの忽然の回帰。

品位あるハンバーグランチへの忽然の回帰。

「ゴッドバーグ」2021年2月9日(火)

振り返ると、この1年程の世界の激変ぶりにどことなく不安と違和感を覚えながらも、いつの間にかその状況に慣れ、在宅勤務や適所勤務、テレワークやワーケーションといった新しい働き方を生み出すほど、人間は逞しくしなやかな存在である。

“ニューノーマル”のキーワードすら、数年後には“ニュー”が消えるほど、現在の生き方や働き方が当然の“ノーマル”のようになるのだろう

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ザンギの弾力を削ぐ、揚げ過ぎの硬直。

ザンギの弾力を削ぐ、揚げ過ぎの硬直。

「札幌ザンギ本舗札幌駅北口店」2021年1月28日(木)

ザンギのルーツは釧路にあるという。
鶏肉の下地から味を漬け込んだものをザンギと言い、そうでないものは唐揚げである、といった説もあるらしい。
それは民族と国家の差異と同様、ザンギと唐揚げの峻別は困難なのかもしれない。

ザンギの店名を冠したこの店を知ったのは、つい最近のことである。
しかもオープンして間もないようで、どことなく真新しい相貌の

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北の大地で、牛タンの本場の味を求めた幻。

北の大地で、牛タンの本場の味を求めた幻。

「牛タンの笑や」2021年1月23日(土)

この店の情報を得た時、砂浜で折り重なる波のように記憶と思い出が沸き上がった。
仙台の老舗の一角を成す店の分店と知れば、ことさら高波となって襲いかかる。
仙台に住んでいた頃、食べ歩き求めた牛タンの数々。
あの食感、あの風味、あの満足…
すべてが“あの”という代名詞に変わるほど、記憶と思い出の只中に埋もれてしまったのだ。
確かに、チェーン店化した牛タン専門

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丁寧な味を紡む焼鳥の本領に導かれて。

丁寧な味を紡む焼鳥の本領に導かれて。

「紡gi」2021年1月25日(月)

むしろ孤独によって不安を回避して生きて来たような気がした。
他者から理解されまい。
それこそが数少ない誇りのひとつでもあると自覚し続けていた。
この夜は、あらためてそんな自分と対座し、自らを労い、自らと語らうことを目指したのだ。
とはいえ、現状の危機迫る情勢はその夜を迷走させた。
道端の冷たさに、足先が次第に感覚を喪失してゆくのに、これといった店が見つからな

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色鮮やかな海鮮丼とザンギの密やかなる饗宴。

色鮮やかな海鮮丼とザンギの密やかなる饗宴。

「寿司・中華料理 福禄寿」2021年1月21日(木)

四季折々の豊かな表情を見せる札幌の中でも、冬はただひたすら白に染まり、しばしば生じる寒暖差は町を灰色に染めたかと思うと、路面を凍らせては住み慣れた者でさえ転倒を余儀なくされる。
しかも、この街の都心部の構造は端的に厄介で、札幌駅と大通駅をつなぐ地下歩行空間の存在によって分断された地上のビル群は、白い季節の間は地上の寒さを避ける人々との隔絶に悩

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