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[詩]ふるさと

ふるさとの空はひどく狭く
細く黒い線で切り取られている
私の趣味は散歩で
隣町もまたその隣町も
家の中を歩くのと変わらない
太陽が出てる時も
薄暗い曇天の日も
ふるさとに変わったところがないか
確かめるように歩く
この煉瓦の建物は知っているし
その先にトランクルームがあることも知っている

電柱にある見知った住所
なんとなく見覚えのあるマンション
でも、その隣に黒焦げの家はなかったし
道の反対にぽっかりと口を開けた空き地もしらない
しらない

足元がゆらゆらと揺れる
知らない顔をしたふるさとが
私をすっぽりとおおい、逃げ場を失う

あの戦争で
ふるさとの中を逃げ惑った人々
空の切れ間から月だけが
今のあなたを、未来の私を
ただ変わらずに照らし続ける

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