「ずるずると細かい不穏な動きをするあなたの目は、見れば見るほどただの器官にすぎないことが明らかになった」 コンタクトレンズを愛用する「あなた」は他人の顔をただの、のっぺらぼうのように見る。 「あなた」の目はこれから結婚する男を見るときも、その連れ子を見る時も、感情を持たない。 ただ、ただ、「あなた」の持てる力で得られる男、子供、北欧家具なんかを集めるための器官。 実母を亡くした3歳の「わたし」は、新しく母親になるかもしれない「あなた」の目が、自分を見ていないと、とっく
ある日 心臓が火事にあって アツくてアツくて 早鳴る音が止まれば全部 おわる だけど心臓は相も変わらず ビート刻んでるし 火を消せばスローテンポの平和 訪れる 煙がもくもく やっと火は消えた 消えたのに 消えない どれだけの涙を注いでも よみがえる
×××より深く繋がる 型にはまらないカンバセーション トサカのシルエットは手のひらと重なる 子供じみた「すき?」のことば 小手先のまやかしはとっぱらう ×××より近くに感じる メリケンサックをはめた拳が 耳の輪郭をなぞって愛撫する 面の皮の厚さなら負けないが そろそろ暑いから脱いでみる 大人しそう、と心配して顔を覗き込んだ人々は 一様に鼻をつまんで逃げかえった ボールペンの芯を手の甲に突き立てて 真っ赤な生き様を見せつける ×××より満たされる ピアスをつけ
ふるさとの空はひどく狭く 細く黒い線で切り取られている 私の趣味は散歩で 隣町もまたその隣町も 家の中を歩くのと変わらない 太陽が出てる時も 薄暗い曇天の日も ふるさとに変わったところがないか 確かめるように歩く この煉瓦の建物は知っているし その先にトランクルームがあることも知っている 電柱にある見知った住所 なんとなく見覚えのあるマンション でも、その隣に黒焦げの家はなかったし 道の反対にぽっかりと口を開けた空き地もしらない しらない 足元がゆらゆらと揺れる 知らない
パズルのピース ばっちりハマる 止まらない制御できない 加速する風 無防備な私 花へ勝手に中に這入ってく ダメ ヤメテ あなたの心は遠い山にあって 世界のすべては潤んで見える それでもいいやって 花のむず痒さがなくなるならって 大きく はっくしょん
あなたを好きになった日のこと 寒くって 腕を前で組んでいた だけど 星の照りがすごくって 熱くって まぶしくって 貴方 私の好きな貴方 どんなだっけ 真剣に話してるときの表情だとか 自慢も、自虐もしない等身大な姿 とか いくつか好きにこじつける だけど 貴方の季節が去ったあと いつも冷たい私の右手が 暖かい ようやく気づいたって嬉しくって 見上げてる星たち ひんやり瞬く
わたしの正義が許さない 好きの感情は見ないふり 隙のない正義は見ている 一部とは言えない好きを 不甲斐ない心の弱さが今 どうしようもないと叫ぶ 現実に混じり合えない夢 好きは明け方の夢と消え 正義はいつしか枷となる 十字架の枷は重しとなり 身体は深く深く沈みゆく 右も左も上も下も心自身 沈むという感覚すらない そのとき、音が聞こえる 現実にゆっくり溶けゆく 夢の混じりゆく静かな音 正義の道を生きていく夢 好きに飲み込まれた現実 背負う十字架は重すぎて 途中で休
或る男は私を背負っている 長く緩やかなのぼり坂を歩んでいる 関節がギシギシと音を立てて 円滑油が挿されるのを待っている 額に滲む脂が光る 薄雲を通り抜けた鋭い矢が額に、関節に、刺さって燃える 私はもっと重くなる 壊れそうな関節は、それでも動く 終ぞ背骨を折ってしまったのだろう 男の背骨は曲がったまま動かない 前を向けなくなった視界には影しか映らない 影しか映らない未来から逃げ出してしまいたい 男の悲痛な叫びは私へと吸われて消える そしてまた、重くなる 背負うことをやめ
今日のシリウスが次に輝くのは50年後 その頃には僕らなにをしてるかな 君は笑って、空話をする タイムマシンに乗れたらいいな、 宇宙に行けたらいいな そんな先のことなんて、だれも分からないけどね 次は分かる未来を想像しよう 30年後は子育ても落ち着いてるかな てことはあと10年くらいしたら結婚してたりしてね なんてだれかとの明るい未来がみえる じゃあ1年後はどうだろう 売れる夢かなうといいね、 試験に受かるといいね、 だからいま、励ましあって努力をしよう だけど未来、笑い合
この愛はつづく、 地球がオレンジ色になるまで 証明の証、ブルーの海に誓ったリング その恋は中をたぎらす、 海の温度は上がってる ガガーリンを信じないあなた 鮮烈な、オレンジ色の地球に 輪廻する私のリング
おぼえている中で1番最初の記憶 柔らかく降りそそぐ雨の心地よさ 土が雨を含んだ時の大好きなにおい それから10年、私たちは上へ上へ光を求めた 銀杏の木も、松の木も、追い抜かした それから13年、私は他の枝と違う方へ伸びた なぜって よく陽の当たる場所を見つけたからね 少しでも多く、みんなに栄養を届けたかったんだ それから130年後、私はそこにいなかった 毎日、毎日みんなに栄養を届けながら 立派な枝になった私 立派になりすぎた枝は重たくて ゆっくりと木を傾けた そし
電気をつけるか迷う午後3時 ひとり まぶしい冷蔵庫にザクロ ひとつ 物珍しくて買った得体の知れない果物、らしきもの スマホで食べ方を調べよう ふと指を止める スマホの奥に得体の知れない実が ある ザラザラと赤い 得体の知れない実 歪な まる たこさんウインナーみたいな足 ポキポキ折ってシンクへ散らす やみつきになる 中は どんなだろう 包丁の刃 入れると変な感触 きもちわるい 親指 切れ間にぐっと押し込む メリメリ裂ける 親指の爪 果肉を覆う薄膜を破る あっけな
マクトゥーブ 上から下へ水は流れる 浮かんだ言葉は過去へ流れる マクトゥーブ 無造作に掬い上げた言葉に 小川だった煌めきはもはや、ない 手から溢れそうになるのを慎重に、慎重に 遠くのあなたへと運ぶ そのちいさな水たまり 一緒に植えた水草で緑がかった水色 マクトゥーブ 私たちだけの水たまり 言葉たちがはらはら落ちて 水草の緑が心に澱る
熱でた〜ニキビたくさん〜もう回復するしかないですね伸び代いっぱい
ここに風船がある 大好きな緑色の風船 すぐどこかへ行きそうになるけど、 振り向くと見える緑色 私を見守って少し後ろをついて来てくれるみたい かわいい 大好き 大好きだから もっと知りたいのか 知るから もっと大好きになるのか 緑色の風船 なでて なぞって 引っ掻いて また好きになる 少ししぼんだ緑色の風船 掴んだひもを離す時がきた そう悟った この世に永遠はないと 不条理だと 手を離された緑色の風船 まだ手を伸ばせば届く距離 いつも一緒にいたのに どうして遠くへ行
私の天気がドンヨリでも 上司の理不尽な怒りは、 どこかで受けた傷に流した涙だから 傷口にそっと手を当てる マザーテレサになりたい 私の天気がサンサンのとき 友が無理に見せる笑顔は、 懸命に戦っている証拠だから いつか戦い疲れたときに もたれ掛かれる木になりたい 私の天気がザアザアでも 見知らぬ人がうずくまっているのは、 心身のコップから水が溢れた時だから 叩かれるのを恐れずに 母によく似たこの手を差し出したい そんなふうに 愛をふりかけたところに 淡い虹が出