『爪と目』藤野可織/芥川賞受賞作[読了記録]⚠︎ネタバレ
「ずるずると細かい不穏な動きをするあなたの目は、見れば見るほどただの器官にすぎないことが明らかになった」
コンタクトレンズを愛用する「あなた」は他人の顔をただの、のっぺらぼうのように見る。
「あなた」の目はこれから結婚する男を見るときも、その連れ子を見る時も、感情を持たない。
ただ、ただ、「あなた」の持てる力で得られる男、子供、北欧家具なんかを集めるための器官。
実母を亡くした3歳の「わたし」は、新しく母親になるかもしれない「あなた」の目が、自分を見ていないと、とっくに気づいていた。
実母を失った心の傷は噛んでギザギザになった爪に表れているのに、「あなた」は見ないでいる。
それが「わたし」にとって都合が良かった。
見たくない「あなた」と
見られたくない「わたし」
けれども、あの日、「あなた」がコンタクトレンズをしないで幼稚園に迎えに来た日。
「あなた」は「わたし」を見ようとした。
だから「わたし」はその器官に過ぎない両の目をこじ開けて、乾いたマニキュアの破片をかぶせたんだ。
「これでよく見えるようになった?」