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マッチングアプリで出会った彼に伝えたいこと


今からちょうど1年前、新聞記者をしている彼と、マッチングアプリで出会った。
全く違う世界で仕事をしている彼と、話をしてみたい。
どんな人だろう? 少しずつ仕事の合間にメッセージを交わしながら、お互いの話をし、気づいたら1日でかなり話をしていた。

昔から知っている人のように、彼とはどんどん会話が進む。
出会ったばかりなのに、何ヶ月も話をした気分になっていた。そして、アプリで出会ったわずか5日後に、私たちは会う約束をした。

実際に会ってみると、何となく違和感があった。
メッセージを送り合っていた時の空気と違う。お気に入りの小説が映画化されたが、映画を観たら違和感があるかのように、彼が別人に思えた。
きっと緊張していたのかもしれない。「お会いしたいです」とすぐに誘い出した私を、警戒していたことだろう。

その後、フラのイベントに参加した私は、偶然、そのイベントを取材していた彼と会うことになる。
晴れ女の私にしては珍しく、その日は雨がかなり降っていた。
フラのイベントは、衣装などの持ち物が多い。
イベントが終わり、大きなバッグを肩から下げ、雨の中を走ろうとした。傘も持たずに帰ろうとした私を、彼は傘をさしながら雨の中で待っていてくれた。

外は、雨が降り続き、水たまりがあちらこちらにできている。
雨が降る中、彼が待っていてくれる姿を見て、アプリの彼と現実の彼が重なった気がした。
彼の傘の中へとかけていく。
ほんの数分間だったけれど、彼と歩いたあの瞬間が忘れられない。
彼の優しさが傘から伝わってきて、心が温かくなったのを今でも覚えている。

その後、私は彼に思いを伝えた。
彼からも同じように思いを聞く。
それなのに、いざ誰かと向き合おうとすると、遠ざけたくなる衝動に駆られる。
長い間傷ついた心は、そう簡単には元には戻らないようだ。
男性が、信じられなくなってしまう。

ありのままでいい。
彼は、何度となく、私にそう語りかけてくれた。
ゆっくり歩いていきましょう。
その言葉に、どれだけ救われたことだろう。

1枚の離婚届がどんなに重い物かを知っている私は、安易に男性に心を開くことができない。
彼と出会ったばかりの頃は、恋愛を楽しみたい自分と、遠ざけたい自分の間で心が揺れた。
それでも彼と過ごしながら、傷ついて冷たくなった心が、少しずつ癒えていくのを感じる。
少しずつ、少しずつ心の氷が溶けていき、彼と一緒にいつか暮らしてみたいと思えるまでになった。

一緒に暮らしたら、何が見えるのだろう?
また、壊れてしまうのではないか?
私が、誰かと暮らすことに向かないのではないか?
失敗したことをもう一度やり直すのは、とても怖い。
また失敗しそうな不安感が、大きな波となって襲ってくる。
もう我慢をしたり、苦しむくらいなら、一人で暮らすほうが無難かもしれない。

数日前、彼と仕事前に会う約束をした。
お店の前の駐車場に着き、彼の車の隣に私の車を停めた。
彼は先にお店に入っているようだ。降りようとしたとたん、雨が強く降り始めた。
あぁ、どうしよう……考えていると、激しい雨の中を、彼はお店から出て車までかけてくる。
ほんの少しの間なのに、彼の髪はシャワーを浴びたようにぬれている。

びしょびしょになった彼は、急いで傘を車から取り出し、私の車のドアの前に立った。そして私がぬれないようにと傘を差し出してくれた。
出会った頃のように、雨の中を彼の傘へと入っていく。
あの時のようなドキドキ感はないけれど、心が温まる感覚は1年前と変わりがなかった。

雨は、私に何を伝えてくれているのだろう?
人生の中で、雨が降る日も、彼はいつも傘を差し出してくれると言いたいのだろうか?
人生の雨が降る日に、彼と一緒ならば、何でも乗り越えられるかもしれない。
新しい1年が始まる今日、私は一歩だけ前進した私を感じている。

若い頃、結婚に憧れ、20歳で結婚した私は、他の何よりも結婚を恐れている。
見えない鎖で繋がれて、逃げられない、自由のない空気を感じるからだ。
彼とこの先、どう過ごしていくかは今は全く分からない。
それでも、「傷つく前の私」を思い出す一歩を、刻めたような気がしている。

1年が経つ今日、いつも同じ空気で私を受け止めてくれる彼に、「ありがとう」と伝えたい。