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魚の骨が刺さった、二の腕に。殺される、と思った。【ちえちゃん Part2】

初めましての方は下記初回記事から!
この記事は前記事【ちえちゃんPart1】の続きです。

https://note.com/genkinamaigo/n/n9922fad22a02

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 最後に見たちえちゃんはきちんと死体の顔をしていた。それはもうその場にちえちゃんがいない事を暗に私に悟らせているようだった。ちえちゃんは、どうして死んでしまったのだろう。私はまだここにいるのに。私のいる世界に、ひいては私に、価値がないとわかってしまったのだろうか。ちえちゃんを失った世界の価値は大暴落だ。なんとか保っていた私の価値も、ちえちゃんの死を以って殆ど無くなってしまったように感じた。家電製品の保証期間が過ぎたみたいだとおもった。ちえちゃんに保証されていた私の価値は、ホスト不在の今、誰がつけてくれよう。

 ちえちゃんのお葬式が終わってから、2日ほど出勤してすぐにシルバーウィークと呼ばれる連休が訪れた。あくせく予定を入れていたのだが、なんとなく外に出る気にもなれず何もかもやめて家で過ごした。私はその休みを、布団とトイレを行ったり来たりして過ごした。風呂に入る必要性も感じなかったし、洗濯物もほとんど溜まらないので洗濯をする必要がなかった。冷蔵庫のなかのものを順番に食べて、なくなったらコンビニに行った。そうしている間に、今まで外へ出歩いていた自分の方が嘘のような気がしてきた。何故全く無意味になった身体を、2日だけでも会社へと運べたのか今となっては不思議なほどだった。私は本来マルチタスクをテキパキこなせるような人間ではないのだ。誰かがやってと言われればやるし、自分で考えろと言われるから考えて動いているだけのようなもので、中身はほとんど空だった。そんな気さえした。誰が来るでもないので部屋の片付けも後回しにしていた。その「後」もいつか来るべきときがくるだろうと踏んでいたが、なかなか来なかった。そんな様子で、連休が終わる頃には、到底会社に行けるような身体ではなくなっていた。会社に行くには風呂に入らねばならない。しかしもう私は風呂に入ることができなくなっていた。ストッキングを履く自信もなかったし、電車に乗れる気もしなかった。このまま友人の死のショックで私も死んだ事にしてしまおうか、と本気で考えたが、今後会社に行ったときの居場所確保のため、会社に連絡を入れた。自分のそういうところも本当に嫌になった。私は取り合えず3日間有給を使用して休むことにした。休みの日に来ていた電話は無視した。メールには何通か返して、あとは寝て過ごした。
 そうして私は少しずつ死んでいった。私が私を事実上死んだと判断したのは有給を取った最後の日だった。このまま有給を取り続けても、何かできる気がもうしないと明確に判断した。もう後輩になんの責任も持てないだろうし、もともと上司が私に期待しているようなことは見当違いも甚だしいと感じていた。そうだ、もともと誰かからの評価を得ないと動けないポンコツで、蟻のように働ける性格ではなかったのだ。はっきりとそうわかった。すると、私のなかにいる名医が私の死亡診断書を書いてくれて、これで私のなかでは正式に人生を終えた。死んだのだから、会社に勤めているのはへんだな、と感じ、会社に辞めますと連絡をした。本当に死んだ場合はこれを親や兄弟にやってもらわないといけない事を考えると、既にかなり家族孝行なのではないかとさえ感じた。

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Part2は以上です!
この書き出しの文はまだげんまいがげんまいになる前に谷口が書き出しのみ作成していた文でした。小出が遊びでその続きを書き出したのがきっかけでこのアカウントの作成に至りました。みなさんにも遊び心を持って見ていただけたらなと思います!

次回Part3もお楽しみに!

小出

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