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公認会計士のキャリア構造と踏み外した人の対処法

筆者が監査法人で見てきた公認会計士のキャリア構造と踏み外した人の対処法についてまとめた。

結論だけ先に言っておくと、監査法人で踏み外しても全然大丈夫だ。筆者はシニアスタッフで監査法人を辞めており、1年のFAS経験を挟んで翌年に転職し、給与水準はBig4のパートナー程度になった。

筆者の場合は特に会計・監査に対して強い思いがあるというより、いくつかの得意分野の一つとして会計知識も使いながらクリエイティブで楽しく稼げる仕事をしたかったので、むしろ辞めてよかったとさえ思っている。


公認会計士として最もキレイなキャリアとは?

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まず、公認会計士の最もキレイなキャリアとは何かについて考えてみよう。

公認会計士(以下、会計士)というのは、「会計監査」を独占業務とした資格である。会計士の活動領域としては財務経理・コンサル・税務など幅広いフィールドがあるが、あくまでも独占業務は前述の会計監査であり、それをしないのであれば会計士の資格は必要ないので、会計士である必然性はない。

つまり、監査をやっている会計士以外は、「会計士で、○○をやっている人」ということだ。


会計監査を行う主体は「監査法人」であり、その頂点は「Big4」なのである。

つまり会計士として、最もピカピカのキャリアは、4大監査法人で成り上がることである。

昇格については、昔の会社のように誰でも上がっていけるものではなく、よく「Up or Out」と言われるが、言葉どおり昇格するか辞めるかという世界である。

一般的にシニアスタッフ(入社後1度昇格した後のタイトル)までは誰しもが昇格できるが、その上のマネジャー、さらにその上のパートナーと昇格する中で絞られてゆき、筆者のいた監査法人で周囲の人にヒアリングしたパートナー体感昇格率(特定の世代の何%がパートナーになれているか)は5%くらいという意見だった。

もちろんパートナーになれなくて去ってゆく人、パートナーになりたくなくて去ってゆく人と様々だが、いずれにせよ最後まで残るのはそんなもんだということだ。

パートナーに「なりたくない」というのは決して言い訳とは限らない。パートナーの仕事は重責だし、そこに至るまでの激務を潜り抜けなければならず、相当なモチベーションと我慢強さを感じていなければそこまで気持ちも体力ももたない。そして、そこまでしてたどり着いた立場でありながら報酬水準は低い。このように、高い志がなければ目指せるものではないことは明らかだろう。

そもそも会計士は会計ばっかり研究しているわけではないので監査先の経理マンの方が会計知識があったりすることもあるし、感謝される仕事ではない(むしろカネを払ってミスを指摘されるという構造なので嫌がられることも多い)し、会計については専門領域であるがビジネスについてはそうでないので経営者とのディスカッションで上司がトンチンカンなことを言っていて、ここまで行ってもこんなもんなんだと思ってしまったりと、いろんな側面を見た上で「自分は会計士として一生やっていくんだ」という強い思いを持っていられなければ、モチベーションは維持できない。

さらに上り詰めるためには上司との相性や立ち振る舞いのうまさなど、運やセンスによるところもあるので、5%に入る人は相当会計士になるべくして生まれてきた運命を背負っている人だと思う。

そこまで残れた人たちこそが、「真の公認会計士」である。


そもそも会計士になる人はどんな人なのか

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会計士になる人で「会計士になりたい」と思ってなる人は実はほんの一握りだ。

なぜならば、仕事がとってもわかりづらいからだ。

会計監査は資本市場の信頼性維持という公の利益に資する目的でクライアントが自ら会計士の人件費を払って監査させてその指摘に対応しなくてはならないというピンとこない構造になっているので、一般的には説明しても理解してもらえない。

会計士の仕事が説明される際に、しばしば「会社のドクター」というような言い方をする人もいるが、それは全然違う。監査は会社の健康診断でもないし内科・外科治療をするものでもない。

近いものを挙げるとするならば、出版業界の校閲だ

監査業務は会社の経理の人たちがババっと作ってきた書類の間違っているところを見つけて指摘してあげて、会社が自ら直す補助をしてあげるという仕事だ。

と言っても、それでもよくわからないと思う。

このように何をしているのかがとっても分かりにくいため、目指す人も大体が何の仕事をするのかよくわからないまま、大学入学時のオリエンテーションとかで説明を受けて、「難関資格を持っていたら安泰だな」とか、「一発逆転できるかもしれない」とか、「エリートになれるかもしれない」とか思って目指す人が大半だ。


監査法人と自分を繋ぎ止めるもの

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そんな感じで会計士を目指してきた人が大半なので、多くの人は監査や会計をやりたくて入ってきたわけではない

とはいえ、5,000時間とかそういうレベルで机にかじりついてきた人たちが集まっているだけあって、真面目でしっかり仕事をやる人が多い。

ところが、この仕事はとっても激務なので、いくら真面目であってもモチベーションがなければ続けるのがなかなか難しい。

監査がやりたくて会計士になった稀有な人材や、会計士になった後に監査業務にやりがいを感じる人を除いては、会社と自分を繋ぎ止めているものは「評価」と「カネ」になる。

強いモチベーションを感じていなければ激務はダメージとして蓄積してゆく。そのダメージを治癒するのが自分の評価だ。

監査法人では、冒頭で述べた「公認会計士として最もキレイなキャリア」のルートに乗っている人がパワーがあるので、「評価」を得ることは非常に重要な要素になる。

ところで、筆者はパートナー直前のポジションにいる上司にサシで転職の相談をされたことがある。今回の評価が芳しくなければ転職したいという内容だった。

その上司は若くしてそこまで上り詰め、いつも朝から晩、晩から朝まで働いていた。よっぽど仕事が好きなのかと思っていたが、すっかり疲弊していた。

きっと彼の上司に何か言われたのだろうが、こんなに職位が下の自分に相談してくるあたり、ずっと悩みながらも相談できる相手もいないまま激務をこなしていたのだろう。

また、先日も上司が転職を検討していると聞いたが、理由を聞くとやはり評価の問題だった。昇格が期待される年次であったが、昇格しなかったという理由だ。

その他でも辞めていった人で「評価」を理由にした人は本当に多い


どうしてこんなに評価を重視している人が多いかについて、その理由は主に下記2点が挙げられる。

①評価が自分のアイデンティティそのものだから
②基本給・ボーナスに差がつくから

である。

「①評価が自分のアイデンティティそのものだから」というのは、これだけの激務をこなすとなると、人生のポートフォリオは崩壊する。

例えば昔、和民創業者の渡邉美樹氏が「夢に日付を」という書籍で「6つの柱」という概念を提唱していた。

簡単に言うと、仕事・家庭・教養・財産・健康・趣味の6つの項目についてバランスよく目標を達成すると幸せになるというところで、筆者はこれは人類にとって普遍的な鉄板理論だと思っているが、激務だとこれを達成することはできない。

激務が続くといくつもの柱のバランスを崩して柱は仕事だけになる。

そこで評価が伴わなければ、唯一の柱である仕事の柱が折れることになる。

仮に柱がいくつも両立している状態であれば、仕事がうまくいかない時に別の柱でカバーできるが、柱が全部なくなれば当然自己肯定感は全く失われ、うつ状態になる。

10年、20年と仕事だけ頑張ってきた人が梯子を外されれば待っているのは絶望だ。これで自らの命を絶ってしまった身近な先輩さえいる。


「②基本給・ボーナスに差がつくから」というのは、評価された人は基本給もボーナスも上がる。基本給が上がれば、管理職未満であれば残業代の単価も上がる。これは何を意味するかというと、評価が高い人に比べて価値が低い人であると認定されたことに他ならない。

同期だろうが後輩だろうが、自分よりも高い評価を得た人は、自分が働いている時間と同時間働いて、自分よりも高い収入を得ているということになる。

真っ当な会社なら、評価は複数の人によって多面的に行われるので、概ね実力を反映した結果になっているはずだ。

これが明らかな実力差で、さらに理解できる金額差であればきっと本人も納得できるのであろう。

しかし、例えば営業マンのように成果が数字に出る仕事ではないので、実力差のみならず、立ち回りによる見え方や好かれているかどうかなど様々な要素が影響する。その中で流石にこの評価は無いだろとか、自分がこの評価ならアイツもこの評価のはずなのに何故?とか、不満が生まれることはままある。

また、金額差についても程度の問題があって、例えば金額差が50万なら許容できたとしても、100万とか明らかな差がつくのであれば、実力差を加味してもアウトプット量と比較して許容できるレベルでなくなってくると感じるであろう。

そのくせ、評価が低かったチームから抜けたいと申し出て「君がいないと困る」なんて言われたりすると怒りも頂点に達する。必要なのに評価できないとは矛盾そのものである。

また、結局金銭的な差を自分の価値と考えると、波及して①のアイデンティティにも影響することになる。


これについて、パートナーになれる人が5%であるとするのであれば、95%はどこかでアイデンティティを失う日が来るということだ。

これはなかなか厳しい現実である。


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