岩間 玄(映画監督)

1966年生まれ。在京テレビ局に入社後、20年以上番組を企画・制作。ギャラクシー賞・A…

岩間 玄(映画監督)

1966年生まれ。在京テレビ局に入社後、20年以上番組を企画・制作。ギャラクシー賞・ATP賞等受賞。今回、写真家・森山大道さんを追った劇場用ドキュメンタリー映画を監督させて頂くことになりました。映画の舞台裏や、本編に入りきらなかった大道さんの姿をお伝えしていきたいと思います。

最近の記事

映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記 番外編~韓国NEWSTOF 監督ロングインタビュー(日本語版)

韓国・全州国際映画祭正式招待の際に受けたインタビューが、韓国メディアNEWSTOFで紹介されました。本掲載はもちろんハングル語ですが、僕がもともとお答えした日本語の原稿があるので、それをそのまま監督日記に載せさせて頂きます。少々長い記事ですが、お読み頂けると嬉しいです。 全州国際映画祭招待作品 『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道』 岩間玄監督インタビュー インタビュアー:홍상현(洪相鉉)【NEWSTOF】 表現と実験精神でインディーズ映画が競合

    • 映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」特別寄稿~演出家・小山和行

      「精度の高い地図」としての映画。  映画の序盤、こんなシーンがあって 試写室の席で思わず前のめりになった。 …都内を走る一台の乗用車。 映画のカメラがそれを並走しながら追う。 助手席に大道さんが乗っている。 どこかに撮影に向かう途中らしい。 大道さんがカメラを構える。 手のひらサイズの小さなカメラだ。 それなのに、 まるで街並みを切り裂いてゆくような殺気が走る。 車窓に映った景色が流れ、 都庁が一瞬現れて消える…。 岩間玄監督の劇場用ドキュメンタリー映画、 「過去はいつも

      • 映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記㉘ ~最終回「写真とは、想い出です」

        撮影が終わる、ということ2018年の正月から始まった撮影は 2019年の正月に終わりました。 ドキュメンタリーの撮影とは不思議なもので ある時、「よし、これで撮影終了だ」と思う時が訪れるのです。 それは何も特別なイベントや出来事を撮り終えた瞬間ではなく、 ある時、何の脈絡もなく監督(撮影者)の頭の中で 「はい、カット、OK!」と声が響くのです。 それは、例えば画家が絵を描き上げるとき 「よし、これでOKだ。あとは何も足してはいけない」 と判断する時に近いのかもしれません。

        • 映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記㉗ ~森山大道と中平卓馬、特別な時間

          ここが森山大道と中平卓馬の聖地だ灰色の厚い雲に覆われた 寒い寒い冬の一日でした。 「大道さん、 思い切って長者ケ崎に 行ってみませんか?」 中平卓馬さんと過ごした聖地のような場所に、 僕らは向かっていました。 行きの車の中で 僕は大道さんの言葉を反芻していました。 「岩間さんが撮る葉山の海の向こう側にさ、 中平を”感じさせる”ことができたら、 映画の勝ちだよね」 東京から車で二時間。 長者ケ崎の浜辺に立ち、 僕は感無量な思いでした。 ここか。 この場所で25歳の森山大道

        映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記 番外編~韓国NEWSTOF 監督ロングインタビュー(日本語版)

        • 映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」特別寄稿~演出家・小山和行

        • 映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記㉘ ~最終回「写真とは、想い出です」

        • 映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記㉗ ~森山大道と中平卓馬、特別な時間

          映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記㉖ ~長者ケ崎に行ってみませんか?

          一卵性双生児…大道さんと中平さん中平卓馬。大道さんの”魂の聖域”。 大道さんと中平さんは 「一卵性双生児」とからかわれるほど いつも一緒でした。 しかし中平さんはある時病に倒れ、 それまでの記憶と言葉をすべて失ってしまいました。 記憶を失ってからの中平さんは 大道さんのいる場所に出没しては アポロキャップを前後逆にかぶり、 首からカメラをぶら下げて ニコニコとしていたそうです。 森山大道さんと過ごした日々の記憶を失っても、 その頃交わした熱き会話の言葉を失っても、 中平さんは

          映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記㉖ ~長者ケ崎に行ってみませんか?

          映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記㉕ ~大道さんの魂の聖域”中平卓馬”

          "中平卓馬"という聖域大道さんとの会話に その人の名を軽々に持ち出すのはためらわれました。 なぜならそれは大道さんの 魂に関わることかもしれないと思ったからです。 2015年に亡くなったその人の名を、 中平卓馬さんといいます。 中平卓馬さん。 大道さんと同い年、1938年生まれ。 25歳で知り合った無名の二人は、 互いに強く魅かれ合うものがあり、 青春を共に過ごしました。 そしてその後共に写真家デビューを果たしました。 激動の時代を熱く駆け抜けた二人は、 いわゆる「アレ・ブ

          映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記㉕ ~大道さんの魂の聖域”中平卓馬”

          映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記㉔ ~「今現在の森山大道」を描くこと

          ドキュメンタリーの定石からの逸脱「にっぽん劇場写真帖」の一点一点を 照合検証し、再構築していく。 そんないわば”森山大道解体計画”は、 大道さんの深い深いところに 立ち入っていくことになりました。 そしてついには大道さんの”魂の聖域”にまで 足を踏み入れるようになっていきました。 僕は興奮していました。 この映画は「写真家の記録映画」ではなく 「写真家の魂の物語」になるに違いない。 僕はそう確信し、ある重大な決意をしたのです。 それは一般的なドキュメンタリーの 基本や常識

          映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記㉔ ~「今現在の森山大道」を描くこと

          映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記㉓ ~それは息詰まる攻防戦だった

          森山大道を未来に伝えていく日本写真史に燦然と輝く名作 「にっぽん劇場写真帖」が いつ、どこで、どのように撮られたのか。 その聞き取り調査は、 森山大道という存在を未来にきちんと 伝えていくためにどうしても必要な作業なのだ。 そう編集者の神林さんは言いました。 膨大な写真を撮ってきた大道さん。 しかしそのネガフィルムや オリジナルプリントは相当数散逸しています。 撮影データを含めたアーカイブ作業は 追いついていないのが現状なのです。 これだけの巨匠の存在と作品群を いかにきち

          映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記㉓ ~それは息詰まる攻防戦だった

          映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記㉒ ~グラグラの映像でそれは始まった!

          「にっぽん劇場写真帖」いつ、どこで、どのようにその瞬間は、不意に…唐突に訪れました。 いえ、正確に言えばこうです。 編集者・神林豊さんは まるで世間話の延長のように装いながら、 実は明確にタイミングを狙いすまして こんな風に切り出したのです。 「…森山さん、例の『にっぽん劇場写真帖』なんですけどね。 【いつ】【どこで】【どのように】撮られたのかを… 一点一点、全部聞いていきたいわけですよ」 それまで和やかだった空気は 一瞬にして張りつめました。 それは僕がカメラを三脚に据

          映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記㉒ ~グラグラの映像でそれは始まった!

          映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記㉑ ~伝説復活、ついに計画は動き出した

          映画の背骨「にっぽん劇場写真帖」復活計画1968年に出版された森山大道さんの 伝説的写真集「にっぽん劇場写真帖」。 実物は手にすることが困難なこの傑作を、 50年ぶりに新たに世に問うプロジェクト。 何と掲載された全149 点の写真、 その一点一点が 【いつ】 【どこで】 【どのように】撮られたのかを 大道さん本人から直接聞き出し、 「にっぽん劇場写真帖~決定版」として 新たに出版するというのです。 編集者・神林豊さんが組んだパートナー 造本家の町口覚さんは僕に 「写真集は

          映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記㉑ ~伝説復活、ついに計画は動き出した

          映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記⑳ ~編集者と造本家、途方もない計画

          「にっぽん劇場写真帖」復活計画編集者・神林豊さんの話は衝撃的でした。 森山大道さんのデビュー写真集 「にっぽん劇場写真帖」(1968)。 そこに収められた149点一点一点が 【いつ】【どこで】【どのように】撮られたのか。 それを森山大道さん本人から聞き出して解明し、 すべて明解なデータとして残す。 「にっぽん劇場写真帖」決定版を世に放つ。 気の遠くなるような作業を前に 神林さんは飄々と言うのです。 「なぜって。それが森山大道さんのアーカイブを 後世にちゃんと残すために必

          映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記⑳ ~編集者と造本家、途方もない計画

          映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記⑲ ~「にっぽん劇場写真帖」復活計画

          構成なんか作らないぞ!はいいけれど…あえて構成を作らずに、 大道さんをひたすら記録し続ける。 事前に構成台本を作ってしまっては それ以上の映画にはならない。 作り手の想像を超えるドキュメンタリーにはならない。 だから黙々と淡々と記録していこう。 記録の先に見えてくるものに じっと目を凝らし、 耳を澄ましてみよう。 これから起こる物語の微かな予兆を 決して見逃さないよう 感覚を研ぎ澄ましておこう。 そう決めて大道さんを追いかける日々でしたが、 当然焦りとプレッシャーもありま

          映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記⑲ ~「にっぽん劇場写真帖」復活計画

          映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記⑱ ~テーマやコンセプトを捨てること

          大都会を徘徊する男二人森山大道さんと僕。 二人だけの映画撮影、 マンツーマンの収録が続きました。淡々と、黙々と。 撮影がスタートした当初、スナップ中の大道さんは 「あの…これ、なんか喋った方がいいですか?」 と僕と映画のことを気遣って言ってくれました。 「いえ、何も喋らなくても大丈夫です」と僕。 すると大道さんはホッとしたように笑うのです。 「そうだよね、スナップ中、普通は喋んないもんね。 撮影しながらベラベラ喋ってたらおかしいもんね(笑)」 「ですよね(笑)、いつ

          映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記⑱ ~テーマやコンセプトを捨てること

          映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記⑰ ~録音部がいないということは…

          とにかくカメラを止めない!一秒でも長く回せ撮影・編集・監督は僕一人。 丸一日、大道さんの姿を撮り続ける。 美しく端正な映像を撮ることが目的ではない。 それよりも、大事なのは 大道さんの動きをちゃんと記録することだ。 誰にも頼れない。 自分がそのとき、カメラを回していなかったら、 もうその瞬間は永久にどこにも残らないのだ。 現場には僕と大道さんしかいない。 だから回す。撮影する。 徹底的にカメラを回して、記録する。 大道さんの一挙手一投足を映像に収める。 それが僕の役割だ。

          映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記⑰ ~録音部がいないということは…

          映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記⑯ ~録画ボタンをいつ押すかという問題

          電源は常時ON!しかし大道さんの常時スナップ臨戦態勢に備えるために、 僕のムービーカメラも常時電源ON。 あとは録画ボタンをポンと押しさえすれば いつでも大道さんのスナップを収録できます。 もう3~4秒かかるカメラの立ち上げに 焦ることもイライラすることありません。 大道さんのスナップワークに こちらのムービーワークが間に合わない ということも理論上はなくなりました。 常時スタンバイでどんどんバッテリーが減っていくため 大容量バッテリーを複数持ち歩かなければなりませんが、 そ

          映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記⑯ ~録画ボタンをいつ押すかという問題

          映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記⑮ ~大発見⁉森山大道は何とカメラの…

          スナップワークに追いつかない!森山大道さんのスナップに同行させていただき ムービーカメラを回し始めた僕でしたが…。 早くも壁にぶち当たっていました。 大道さんのスナップワークに 僕のムービーワークが追いつかないのです。 コンパクトカメラをプラプラさせながら 悠然と街を歩く大道さん。 何かに反応し、 そこにスーッと近づいていきます。 「お、きたきた」と ビデオカメラを起動させる僕。 しかし、僕のカメラが立ち上がるのに3~4秒。 その間に勝負は終わっているのでした。 「全然、

          映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記⑮ ~大発見⁉森山大道は何とカメラの…