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【無料】終末世界の英雄譚

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黒の城が上空に現れ、終末世界が訪れたシュプリッター大陸が舞台のダークファンタジー。 直情的で特殊な出生の主人公が活躍する王道のファンタジーとして執筆できたら、と考えています。 作…
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終末世界の英雄譚 あらすじ 第1話 諦念の英雄

終末世界の英雄譚 あらすじ 第1話 諦念の英雄

―――あいつらに会いたい。死に場所が欲しい

約20年ほど前に突如天空に出現した黒の城から、おびただしい数の魔物が飛来する。魔物を呼び出す元凶を断つべく、ルッツ、ブルンネ、クロードヴィッヒ、ジークリット、クヴァストは数々の激戦を繰り返し、ついに魔王の元まで辿り着いた。すんでのところまで追い詰めるも、魔王に敗北してしまい、かけがえのない仲間を四人同時に亡くした英雄クロードは、自堕落な生活を送っていた

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終末世界の英雄譚 第13話 悲壮な覚悟

終末世界の英雄譚 第13話 悲壮な覚悟

鏡の迷宮にて

迷宮の内部は左右をひび割れた土壁に囲まれた、圧迫感を感じる狭い通路が延々と続く。
灯り一つないトンネルのような暗闇の中で佇むと、またもや闇の中から何かが囁いた。

「……ワレノモトへ……コイ……」

(またか、この感覚……薄気味悪いな)

声が聞こえなくなると、迷宮はしんと静まり返る。

(……何か妙だな)

動物の直感が、クロードにそう告げる。
だがその微妙な違和感を言語化するの

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終末世界の英雄譚 第12話 奇怪な声

終末世界の英雄譚 第12話 奇怪な声

王国の中心には周りの煉瓦の家々から浮いた、コンクリート製の建物が目に映る。
建物の名は冒険者組合。
冒険者らが簡単な薬草などの採集や、魔物討伐の依頼を請け負う場所だ。
迷宮のある王都デンメルンク、港町アンゲルン、欲望の街フェアンヴェーでは、収集物が生活の基盤となっていた。
とはいえ大量に行方不明者が出ており、いつ迷宮が利用禁止になってもおかしくない。
失踪した冒険者らの探索に、時間はかけられないだ

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終末世界の英雄譚 第11話 人攫いとゾフィーの決意 

終末世界の英雄譚 第11話 人攫いとゾフィーの決意 

王国の広場からさほど離れていない、煉瓦の家が建ち並ぶ住宅地に、グントラムの暮らす住居がある。
一見しただけでは似たり寄ったりで、どれが誰の家なのかわかりづらい。
ただグントラムの家と周囲の民家は、簡単に見分けられる。
彼の住む家にある郵便受けの下には、夫婦のカラスの置物があるのだ。
冒険者は半分引退しているというのに、未だに彼の家のポストには、依頼の手紙がぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。
その手紙

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終末世界の英雄譚 第10話 涙の再会

終末世界の英雄譚 第10話 涙の再会

デンメルンク王国の大通りを外れた路地に佇む、石が積まれた壁の店“魔女館”。
二階建ての魔法雑貨屋は、辺鄙な立地にも関わらず、意外なほど繁盛していた。
リズ目当ての常連と、純粋に魔法雑貨を購入しにきた一般庶民。
観光客は街中にぽつんと建つ道具屋の妖しげな雰囲気と、常連の長蛇の列に誘われて、一人また一人と入っていく。
店前にはリズの母親が趣味で置いた手の平サイズの木製人形、ブープくんが野ざらしだ。

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終末世界の英雄譚 第9話 罪と救済

終末世界の英雄譚 第9話 罪と救済

青年との一件から数日後。
男女数名を引き連れた、刀を腰に掛けた男は戻ってくるや否や

「過去を引きずって歩みを止めた偽りの英雄など、組織(俺たち)に必要ない。消え失せろ」

失礼な物言いで、クロードを罵った。

(いきなりなんだ、この野郎……)

言い返せれば、どんなによかっただろう。
野良猫を彷彿とさせる、何人たりとも信じない鋭い目つきと、あふれでる闘気に気圧されて、彼は黙り込んでしまった。

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終末世界の英雄譚 第8話 電撃の抱擁(ほうよう)

終末世界の英雄譚 第8話 電撃の抱擁(ほうよう)

叫びを聞きつけて宿屋を飛び出すと、村の真ん中の井戸のあたりに、村人が群がっている。

「こうなったら、もうダメだろ。早く殺さねば、オイラたちが殺されるぞ」 
「だから言ったんだ。余所者は、災いを招くって」

物騒な発言に、クロードは眉をひそめて辺りの様子を伺う。
村人たちの手には棒切れを持っており、その先端にはで真っ赤な液体が滴っている。
近寄ると散歩で疲れた犬のような、激しい息遣いが聞こえた。

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終末世界の英雄譚 第7話 悪夢の叫び声

終末世界の英雄譚 第7話 悪夢の叫び声

「……ノーラ、無事か」
「……ええ」

俵でも担ぐように彼女を持つクロードは、奥歯を食いしばって一歩一歩進んでいく。
視線の先には、木の柵に覆われた木造の家々が建ち並ぶ村が見えた。

「あと少しだぞ、頑張れよ……」

ノーラに、そして自分に言い聞かせるように語りかける。
門番に会釈して、村に入ると

「この女性、シャーフに向かった冒険者の方ですよね。英雄様も、怪我してるようですけど」

鼻のホクロ

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終末世界の英雄譚 第6話 禍(まが)つ四つ星 

終末世界の英雄譚 第6話 禍(まが)つ四つ星 

「ただいま戻ったぞ」

コンクリート片が転がる、窓一つない古ぼけた遺跡で、死神の女が呟いた。
何度か声をかけるも返事はない。
だが、確実に何かがいる。
投げかけられた視線から、気配をめざとく嗅ぎ取って、カンテラで照らすと、大小3つの人影が映し出された。
一番大きな人影の側に寄ると、髪の毛と髭が獅子のたてがみのように逆立つ全身甲冑の大男が、彼女を出迎えた。

「無事で何よりだ、心配したんだぜ」

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終末世界の英雄譚 第5話 死神の女

終末世界の英雄譚 第5話 死神の女

平坦な道が続く道すがらを、2人は北東に進んでいく。
一旦デンメルンク王国と中間地点にあるミーエ村で、小さな種火の仲間と合流。
それから王国にて、武器や道具の調達をするという。
ノーラに聞くと、大陸を支配する七帝に反逆する組織のため、名前や構成員を、おおっぴらにするのを避ける目的があるようだ。
朱に交われば赤くなる。
その言葉通り、目的を共にする組織の人間たちも、彼女と同じように熱い心を秘めているに

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終末世界の英雄譚 第4話 旅立ちの日

終末世界の英雄譚 第4話 旅立ちの日

旅立ちの当日にて

ノーラに村の外で待機するように頼み、クロードはある場所に向かった。
彼にはただ一つ、シャーフ村でやり残したことがあった。
けじめをつけないと、前には進めない。
いつも何の気なしに開いていた木製の扉が、鉄で作られた扉のように重かった。
意を決して中に進むと、周囲の視線が、一斉に彼に向けられる。
鋭い瞳に見つめられ、背中に虫が這い回るような汗が伝う。

(ちくしょう、怖い、逃げ出し

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終末世界の英雄譚 第3話 信じる力

終末世界の英雄譚 第3話 信じる力

「あ、あいつが帰ってきたぞぉーっ!」

帰ってきた彼を捉えた村の門番が叫ぶ。

「邪魔すんな……教会で治療を受けさせる……」

彼を無視して突っ切ると小さな子供が寄ってきて、その次は噂好きな老婦人と、人だかりが人だかりを呼んだ。
民衆は

「またあいつが、よそからきた冒険者さんを」「やぁねぇ」

などと好き放題に陰口を叩いている。

「うるせぇ……見世物……じゃねぇぞ」

足に力を入れて踏ん張る度

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終末世界の英雄譚 第2話 尽きない闘志、絶対の意志

終末世界の英雄譚 第2話 尽きない闘志、絶対の意志

「昔の森は緑だったんだよ」

どこかの誰かが、そういった。
だが彼は生まれてこの方、緑の森を見たことがなかった。
魔族が占拠した森は、血塗られたような朱色の粘液によって、森中が染まっているからである。
シャーフ村付近の森も例外ではなく、魔物が自らの力と縄張りを示すかの如く、真っ赤だった。

「万が一のためにも、立会人を呼びませんか?」
「怖気ついてるのか? 戦場に立ち会うのは死神だけだ」

目的地

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