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足関節外側靭帯損傷のバイオメカニクス

はじめに

足関節外側靭帯損傷は足関節捻挫により発生し、スポーツ選手の怪我でよくみられる外傷の1つです。

足関節外側靭帯損傷の治療を行う際には、靭帯の解剖とともに、靭帯がどのように機能するかを理解する必要があります。

足関節・距腿関節の解剖とバイオメカニクス的特徴

足関節外側の不安定性を理解する場合、距腿関節とともに距踵関節(距骨下関節)の解剖と機能がポイントになります。

1.足関節の解剖と関節軸

足関節は脛骨と腓骨から構成されるほぞ穴に距骨がはまり込む構造で距骨の幅は前方で広く、後方で狭いため、背屈位で安定しやすいです。

足関節の関節軸は内外果の先端付近を通っています。
内果より外果が遠位方向に長いため、関節軸は下腿軸と垂直ではなく、少し傾きがあります。また、距骨の曲率は一律でないため、底背屈によって関節軸が変化します。

2.距踵関節の解剖と関節軸

距踵関節は前・中関節面と後関節面にわかれており、その間の足根洞に靭帯や下伸筋支帯が付着しています。

距踵関節の関節軸は、側面像で水平に対して41°・背屈像で足軸に対して23°の傾きがあります。この角度は報告によりばらつきがあり、個体差も大きいです。実際にはらせん様に運動すると考えられています。

靭帯の解剖

足関節 外側靭帯

足関節外側靭帯は前距腓靭帯・踵腓靭帯・後距腓靭帯の3本により構成されています。

①.前距腓靭帯

前距腓靭帯は外果前方に起始し、距骨滑車外側関節面の前面に付着します。

解剖学的な構造には個人差があり、Milnerによれば、前距腓靭帯の38%は1本の線維であるが、50%は上下2本に分かれており、12%では3本目の線維が存在したと報告している

2.踵腓靭帯

踵腓靭帯は足関節、距骨下関節をまたいで存在しており、両関節を同時に安定化する働きを持っています。
踵腓靭帯は外果前面の前距腓靭帯直下から起始しています。
起始部の中心は前距腓靭帯の下方線維は腓骨先端から約10mm、踵腓靭帯は約5mm上方と起始部が接しています。

踵腓靭帯は腓骨軸に対して平均約133°で後下方に向かって走行し、腓骨筋腱と距踵関節の間の深層を通って距骨下関節から13mm下方の踵骨外側に付着します。

踵腓靭帯と距踵関節の回転軸は平行に近く、この関係は距踵関節の動きを制限することなく、制動することを可能としています。

3.後距腓靭帯

後距腓靭帯は外果後方の内側面に起始し、起始部の中心は外果先端から約5mm上方に位置しています。後距腓靭帯は距骨後方に向かって扇状に広がり、距骨後突起外側結節とその外側に広く付着します。

距踵関節外側は後距腓靭帯に加えて、距踵靭帯、距骨頚靭帯、および、下伸筋支帯により支持されています。


足関節安定性に関わる要素

足関節安定性に関わる要素は靭帯組織以外にも、骨性制動や筋による制動があります。

1.骨性制動
足関節は背屈位では安定した構造をしています。
Tochigiらは荷重条件下の屍体標本において、関節面の接触圧の変化を測定することで、関節面の制動力を算出しました。
<関節面による安定性の関与>
前後方向:約70%
内外反:約50%
内外旋:約30%

Watanabeらの荷重条件下と非荷重条件下の制動の関与を調べた研究
<荷重条件下での骨性制動の関与>
前後:100%
内外方向:100%
回旋方向:60%

<非荷重条件下での外側靭帯の関与>
前方安定性:70~80%
回旋方向:50~80%
※骨性制限は前方で20%~30%以下・回旋で20%~50%以下

背屈時にはより骨性制動が働きやすくなる
前後、内外側へのストレスと比較して、回旋方向の骨性制性は低い


2.骨形態と不安定性の関係
足関節の骨性制動の働きが大きいことから、骨形態の異常が不安定性に大きく影響する可能性が示唆されます。

脛骨天蓋の内反が足関節不安定症の危険因子の1つ

Kanbeらは足関節側面X線像における脛骨天蓋前縁の形状を評価するためにanterior tip ratio(ATR)を算出しました。
ATRが前方引き出し距離と優位に相関することから、脛骨天蓋前縁の形状が前方不安定性に関与することを示しました。

Friggらは足関節不安定症の患者は、健常者と比較して、距骨滑車の曲率半径が大きく、距骨の曲面に対する脛骨天蓋に被覆される割合が少ないことを示しました。

<足関節不安定性の骨形態因子>
・距骨滑車の曲率半径
・脛骨天蓋の形状


3.靭帯の機能
【破断強度】
足関節外側靭帯の中で、前距腓靭帯の破断強度は最も弱く損傷されやすい
後距腓靭帯は最も強いため、単独での損傷は少ない

【緊張肢位】
前距腓靭帯は背屈で弛緩・底屈で緊張
(底屈16°を超える次第に緊張up)
回外・内旋位で張力が最大


踵腓靭帯は背屈で緊張・底屈で弛緩
回内・外旋位で張力が最大


※踵腓靭帯と後距腓靭帯は背屈18°を超えると次第に緊張up
中間位付近では、いずれの靭帯にも緊張がかかっていない状態です。


足関節前方引き出しテストでは底背屈の角度を変えることで、鑑別が可能
ex)底屈位で前方引き出しで前距腓靭帯のテスト
 背屈位で踵腓靭帯・後距腓靭帯のテスト

靭帯損傷モデルにおける実験


靭帯損傷モデルに前方引き出しストレスを掛けた際の変化を計測した実験は過去に多くなされています。
おおむねは前距腓靭帯切離後に前方移動距離が増し、前距腓靭帯と踵腓靭帯両方を切離するとさらに前方移動距離が増すという結果です。

しかし、前距腓靭帯と踵腓靭帯は機能が異なるため、前方引き出しのみで2つの靭帯を十分に評価することは難しいです。

Fujiiらは荷重条件下において靭帯損傷モデルに内反および内旋ストレスをかけて角度の変化を計測しました。
その結果、前距腓靭帯のみを切離した場合は、正常と比較して内旋不安定性は増大するが、内反の不安定性は増大しなかったと報告されています。
前距腓靭帯・踵腓靭帯両方を切離した場合は内反不安定性が著明に増大したとの報告がされています。

前距腓靭帯は距骨内旋の制動
踵腓靭帯は距骨内反の制動

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