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草間彌生はいつから価格が上がったのか

現在、最も高額で取引される日本人画家といえば、草間彌生です。
特に、近年の草間彌生作品の価格の高騰は、目を見張るものがあります。
例えば「かぼちゃのひるね」というシルクスクリーンの版画作品は、2011年と2016年で、落札価格に驚くべき差が出ました。
価格ばかりではありません。
2016年には文化勲章を受章し、2017年には国立新美術館で「草間彌生 わが永遠の魂」展が開催されるなど、政府にも認められた大作家になりました。
しかし、80年代の草間彌生は、そこまで有名ではなく、知る人ぞ知る芸術家の一人でした。
いつから誰もが知る人気アーティストになったのでしょうか。

1960年代、アメリカでヌードモデルを使ったハプニングアートを展開し、「前衛の女王」の名をほしいままにした草間彌生は、1973年、体調を崩して日本に帰国します。44歳でした。
具合が良くなればまたニューヨークに戻るつもりだった草間ですが、さまざまな病気を併発していて、幻覚などの症状もひどく、入院して病院に体調管理してもらうことになります。実は草間は、1977年から現在までずっと、病院から制作スタジオに通う生活を続けているのです。
こうして、いやおうもなく日本で暮らすことになった草間でしたが、アメリカの現代美術運動を牽引した「前衛の女王」も、保守的な日本のアート界では無名の一アーティストにすぎませんでした。ヌードやハプニングといったアメリカでの活動が興味本位に受け取られた結果、日本ではまともに評価されない時期が続きました。


「チューリップ(I)」 シルクスクリーン

それでも草間彌生はぶれることなく、己の信じた道を邁進します。
もともと幻覚や幻聴から始まった草間の芸術活動は、病に侵されてもその輝きを失うことはありませんでした。
1978年に処女小説『マンハッタン自殺未遂常習犯』を発表すると、1983年には二作目の小説で野生時代新人文学賞を受賞するなど、言語を用いた活動にも幅を広げます。
しかし、バブル景気で明るく華々しいものが好かれる日本の風潮の中、草間彌生の強迫神経症的な作品には、なかなか光が当たりませんでした。

草間彌生の作品が見直されるようになったのは、90年代からです。
1989年にニューヨークの国際現代美術センターで回顧展が開催されると、過去の存在になりかけていた草間彌生は、一周回って目新しいものとして脚光を浴び始めます。
1993年には、ヴェネツィア・ビエンナーレのたった一人の日本代表として参加することになりました。ゲリラ的な参加を敢行した1966年の「ナルシスの庭」から27年の月日が流れていました。
本格的に草間彌生の再評価が始まったのは1998年のことです。「ラブ・フォーエバー: 草間彌生 1958~1968」と題された、世界各国を巡回する大規模回顧展は60年代の草間彌生の輝きを世界中に知らしめ、多大な観客を集めました。

「かぼちゃ(BY)」 シルクスクリーン・ラメ

21世紀になってからも、草間彌生の快進撃は止まりません。
2001年には日本で最も有名な現代美術の国際展覧会、横浜トリエンナーレへの参加。ここで草間は「ナルシスの庭」を発展させた「ナルシスの海」を横浜港で披露し、2000個のミラーボールが海上に浮かべられました。
2002年には、故郷の松本市初の美術館、松本市美術館の開館記念展に選ばれ、2003年には、海外の美術館で相次いで草間彌生展が開かれます。
そして2005年、クリスティーズNYのオークションで、「No. B,3」が、草間彌生の作品として初めて100万ドルを超えました。手数料込みで1億2582万円という価格は、現在から考えれば安すぎるかもしれません。
この2005年、オークションマーケットにおける草間彌生作品の合計落札額は43 作品で約3億円と世界240位でしたが、10年後の2015 年、草間彌生作品の合計落札額は464作品で約70億円と、世界42位の人気作家になりました。
2015年のサザビーズ香港のオークションでは、代表作「無限の網」シリーズの「No. Red B」が手数料込み8億4500万円で落札されました。
前年の2014年にもクリスティーズNYのオークションで、同シリーズの「White No.28」が8億2300万円で落札されており、安定した人気を感じさせます。

年を経ても失われない旺盛な創作意欲とチャレンジ精神、そして初期から一貫して続く、強迫的に繰り返し描かれる模様の蠱惑的な魅力、さらに水玉やかぼちゃといったモチーフのポップさが受けて、草間彌生は人気作家に躍り出ました。
2017年現在88歳を超えた、この稀有な日本人作家がどのような作品世界を見せてくれるのか、今後も目を放すことができません。

参考文献
・草間彌生『無限の網―草間彌生自伝』新潮社
・『ARTcollectors'(アートコレクターズ) 2017年 2 月号』生活の友社
その他、サザビーズやクリスティーズなどのウェブサイト


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