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美術館のコレクションにまつわる2つの制約とタブー視された解決法

美術館は収蔵品となる美術品をどうやって手に入れているのか、コレクションの成り立ちについて、まずは基本的な話を前回書きました。

購入、寄贈、寄託でしたね。まぁ、ここまでは教科書的な話なので、あまり面白くなかったと思います(でも基本を知ってもらわないと、今回の話もできないわけで…)。今回はもう一歩踏み込んで、美術館の作品収集には2つの制約があるよ、という話をしたいと思います。

さて、その制約とは?

《第一の制約》忘れるべからず美術館の基本理念(コンセプト)

美術館に作品の寄贈の話がきたとします。

寄贈ということは、当然無料です。美術品の購入予算が限られているような場合、もしくは購入予算が全く無いような場合、寄贈してもらえるなんてとてもありがたい話に聞こえます。

しかし、そこで冷静に考えなくてはいけません。その作品、その作家は、うちの美術館のコンセプトから外れていないか?

どのような作品を収集し、どのような展覧会を企画するか。美術館の活動にはすべて核となるコンセプトがある、という話を前にしました。

コンセプトを無視して自由気ままに、手当たり次第作品を収蔵し、やりたい展覧会だけをやっていては、美術館のカラー、性格が打ち出せません。そして美術館の性格が見えないと、応援してくれるファンも増えません。
だから、美術館にはコンセプトが必須

ちいさな美術館ほどコンセプトを死守すべし[弱者の生存戦略]

「地域に根ざした美術館」をコンセプトにしているのに、縁もゆかりも無い作家の作品を収蔵したり、「陶磁器の魅力を伝える美術館」をコンセプトにしているのに、刀剣を収蔵したりしたら、どうなるでしょう。

まぁ、ここまでいくとさすがに極端なのでやらないとは思いますが、寄贈してもらえるからといってホイホイ受け入れていると、気づけば収蔵庫は寄せ集めのガレージセール状態に、なんてことになりかねません。

大げさに聞こえるかもしれませんが、実は作品を寄贈したいという話はかなり頻繁にやってくるのです。高齢になった作家が自分の作品の行き場を求めたり、作家の家族が残された作品を管理しきれなかったり、親が趣味で集めていた美術コレクションが子供には興味がなかったり、まぁ色々な理由があります。

次々と舞い込んでくる寄贈の話を館のコンセプトに照らし合わせてきちんと吟味し、断るべき時は断る。これも学芸員の大事な仕事なのです。

《第二の制約》収蔵スペースの限界という現実的なカベ

第一の制約は理念的な話でしたが、もう一つはとても現実的、物理的な話です。

美術館が作品を収納するのは、収蔵庫です。温湿度コントロールができて、防犯体制が整った収蔵庫の中に、作品は大事に保管されます。

当然ながら収蔵庫の箱の大きさは決まっています。ホイホイと拡張したり、もう一つ収蔵庫を作ったりすることはできません。たいていの美術館は、収蔵庫に空きスペースがなくてヒイヒイ言っているのが現実です。

せっかく寄贈の話がきて、内容的にもぜひコレクションに加えたいと思ったとしても、点数が多かったり、巨大な作品だったりすると、収蔵庫に入れられる余裕がないので、泣く泣くお断りすることになります。もしくは、受け入れ点数を絞らせてもらったり。

どこの美術館の収蔵庫にも余裕がないのは、当たり前といえば当たり前の話です。なぜなら収蔵品は、増える一方で減ることはないから。

動物園(博物館の一種)の動物ならば寿命があります。しかし美術品に寿命はありません。厳密にいえば少しずつ劣化をしていくのですが、美術館の役割は美術品を保管し後世に伝えていくことですから、そのまま朽ちさせるようなことはしません。というわけで、収蔵庫はどんどん狭くなっていくことになるのです。

美術品専用の貸倉庫サービスを行っている会社もあります。

こうした外部の倉庫に、収蔵品の一部を預ける例もありますが、維持費がかさみますし、東京だとそうした倉庫の多くは湾岸部に集中しているので、立地的に離れすぎている美術館は利用できません。

収蔵スペース、単純なだけになかなか難しい問題です。

タブー視されてきたコレクションの新陳代謝

そこで近年、議題にあがるようになってきたのが、美術館の収蔵品の入れ替えです。新しいものを受け入れる一方で、少しずつ既存の作品を売却したり、手放すことを検討しなくてはいけないのでは、と語られるようになってきたのです。

大きな動きとして、2018年に文化庁が「先進美術館(リーディング・ミュージアム)」という構想を提案しました。これは国内の美術館・博物館の一部を「先進美術館」として指定し、国が補助金を出してその体制を強化しようというものでした。これだけ聞くと良い話のようですが、この先進美術館に指定された館は、作品を購入するだけでなく、オークションなどへの参加によって作品を売却もする、そのことによってアート市場を活性化する、という骨子でした。

ここで初めて、美術館のコレクションを売却する、という案が出たのです。さて、その後なにが起きたのか。

美術館業界からの大ブーイングです。大手新聞やメディアがそれを一斉に報じました。

全国美術館会議も公に声明を出し、「美術館における作品収集や展覧会などの活動が、結果として美術市場に影響を及ぼすことがありうるとしても、美術館が自ら直接的に市場への関与を目的とした活動を行うべきではない」と訴えました。

思うに、この先進美術館の話は、国がアートでお金儲けをしようとしていると受け取られたのが、大反発の原因でしょう。なんでアート市場を盛り上げるために、大事なコレクションを売却しなきゃいけないんだ!ということです。美術館の多くは非営利組織なので、美術とお金を結びつけて語られることに強い拒否感を示します。

後世まで大切に伝えていくべき美術品を売却するという話は、タブーとされているのです。

それっきり文化庁はこの話題を出さなくなりました。でも本来は、ブーイングではなく議論はされるべきだったと思います。どこの美術館も収蔵庫に限界がきているのは、まぎれもない事実ですから。

美術館が建設された頃に活動していた作家の作品はたくさん収蔵されているのに、これから活躍する作家の作品は収蔵してもらえない。これはアンフェアではないのでしょうか。

どれが正しい、どれが間違っている話ではありません。耳をふさいで議論を拒否するのではなく、どんな解決法があるのか話し合うべき時期にさしかかっているように思います。さてさて。

【ちょっと突っ込んだ話シリーズ】


バックナンバーはここで一覧できます(我ながら結構たくさん書いてるなぁ)。

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