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美術館は金食い虫でいいのか?

これはペーペーの頃は考えもしなかったことなのですが、美術館運営ってお金がかかるんですよね。

そもそも施設・設備に多額のお金がかかります。

なぜなら、作品を保存・管理するために温湿度コントロールがしっかりできる空調設備が必要だし(収蔵庫はもちろん、できれば展示室も)、展示ケースには透明度の高い大型ガラス、様々な展示作品に対応できる照明設備、独立した移動型の展示ケースだって値が張ります。

もちろん建てたら終わりのはずがなく、ランニングコストがこれまたかかります。それこそ日々の空調の電気代だけでも年間いくらかかるんだろうってレベルです。

そして人件費。私たち学芸員の他、受付や監視を行うスタッフ、事務作業を行う職員、館長などの役職も必要ですね。

うちのような小さな美術館でもそれですから、上野や東京、六本木にあるような大きな美術館はそれこそ天文学的なお金が必要でしょう。

翻って、美術館はそのコストに見合うだけの収益を上げることができるのか、というと、まったくそんなことはないのが現実です。

美術館の主な収益源は、入館料ですが、1日の入館者数から計算した額では、パートさん一人の人件費にもならないと気づいて、私は愕然としました。

つまりやればやるだけ赤字を出し、一番お金がかからないのは閉館している状態。

これはうちに限らず、どこの美術館も同じでしょう。だからこそ、新聞社などに後援に入ってもらい、話題になるような巡回展をやったりするわけです。

もちろん美術館の目的は収益化でないと言えば、それはそうかもしれません。各自治体が、県立、区立、市立の美術館を運営するのは、文化政策の一環だからだし、企業が美術館を運営するのは、企業イメージへのプラス効果を見込んでのことでしょう。企業メセナって言葉もありますね。

企業メセナとは
企業が行う、直接的には見返りを求めない芸術文化支援のこと。メセナはフランス語で「芸術文化支援」の意味。    美術手帖より

でも、私は学芸員が「文化振興は国や地方や企業が当然取り組むべき事業である」と我が物顔で語り、予算はつけてもらって当たり前とするのは、違うんじゃないかなと思うようになっています。

自分の給料への不満をもらす若手学芸員をみて、なぜ自分がそれだけもらえると思っているのか、疑問に感じるのです。学芸員は院卒が大半ですし、博士号を持っている人も少なくありません(私は持ってません、キリッ)。しかし学歴とは関係なく、平均年収が高い職種とは、すなわち動かすお金が大きい職種、流れているお金が大きい職業です。銀行しかり不動産しかり。いまはWEB界隈なのかな。美術館は、それらとは対極にあると言ったら言い過ぎでしょうか。

これは、私が館の予算計画に携わるポジションにつく年齢になったからかもしれません。

すぐに結論というか答えが出るわけではないのですが、

自分はもらっている給料分の収益をあげる仕事はできない。それで腐るというわけでは決してなく、だからどうするかと一歩踏み込んで考えていきたいな、と思うわけです。伝わってるかな。

つまり学芸員だから論文かいて業績をあげていればいい、地道な調査をして意義深い展覧会をすればいい、他のことは誰かが考えるべきだ(一昔前の学芸員はこのタイプが多いですね)、ではなく、美術館が生み出す価値を最大化する方法は何か、という視点を常に持っていたいなと思います。

では、その価値とは何か。収益なのか。運営母体のイメージアップなのか。来館者の満足度なのか。それともまだ私の気づかない価値があるのか。難しいだけに考え続けるべきテーマだと思います。

どうですかね?


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