見出し画像

美術館のコレクションて、どうやって集めているの?

美術館(博物館)の命ともいえるもの、それが収蔵品(コレクション)です。

作品を収蔵して、それを管理する学芸員がいる。これが、ギャラリー・貸し会場・展示会場と、美術館の決定的な違いと言っても過言ではありません。

博物館法を見ても、このことがきちんと定義されています。

「博物館」とは、歴史、芸術、民俗、産業、自然科学等に関する資料を収集し、保管(育成を含む。以下同じ。)し、展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資するために必要な事業を行い、あわせてこれらの資料に関する調査研究をすることを目的とする機関

博物館法  第二条第一項(定義)

博物館は、前条第一項に規定する目的を達成するため、おおむね次に掲げる事業を行う。
一 実物、標本、模写、模型、文献、図表、写真、フィルム、レコード等の博物館資料を豊富に収集し、保管し、及び展示すること。

博物館法 第三条第一項
(博物館の事業)

このように美術館は美術品を収集することが事業の大きな柱なのです。コレクションをもたない美術館としては国立新美術館が有名ですが、これはあくまで例外です。

では、収集するといっても実際にどうやって美術品を館のコレクションに加えていくのか、という話をしたいと思います。大きく分けると購入、寄贈、寄託という3つの方法があります。

美術品の購入

収集の基本は、この購入です。多くの美術館は、事業予算の中に美術品の購入予算を組み込んでいます。とは言え、現実的には購入予算は減少傾向にあり、新規購入を全くしていない美術館も少なくありません。

いま、美術館の目玉作品としてお客さんを呼んでいるのは、たいていの場合、潤沢な予算があったバブルの頃に買い集められた作品です。SOMPO美術館(旧・損保ジャパン東郷青児美術館)のゴッホ《ひまわり》などがそうですね。

さて、予算が少ないとは言え、がんばって作品を購入をするわけですが、誰からどうやって買っているのか、なんて普通は知りませんよね。

美術品が盛んに売り買いされている場として、サザビーズなどの海外オークションがありますが、ここに日本の美術館が参加するようなことはありません。画商、画廊、古美術商、骨董屋などの専門業者(資料系の博物館なら他に古書店なども)から、購入することが大半です。
あとは美術コンクールを主催して、その受賞作を作家から直接購入するとかですね。

そして作品の購入を決めるのは、学芸員ではありません。公立の美術館の場合、公平性・妥当性が求められるので、一個人の判断で買う買わないを決めることはないのです。どうするかというと、外部の有識者(どこぞの館長さんだったり)を集めた専門員会を設けて、購入候補作を見てもらい、そこで購入の是非が決まります。真贋の問題もここで当然検討されます(怪しいものは購入が見送られたり)。

ちょっと複雑ですが、大きなお金が動くことなので、こういうシステムができあがっています。まぁ、なかには学芸員だったり館長だったりの独断で購入を決定するところもありますが、やはりそれだと口利きとか業者との癒着とか、よからぬ方向に行きかねませんのでね…。

美術品の寄贈

購入予算が限られる、もしくは予算がつかない中で、美術品を新たに収集する方法となるのが、寄贈の受け入れです。
作家本人や個人コレクターから美術館に作品が寄贈されることは、実は珍しくないのです。なぜでしょうか。

まず作家の場合、自分の作品が美術館に収蔵されているというのは大きな実績となります。
前に「美術館がアートというラベリングをする役目を果たしている」と書いたことがありますが、美術館に展示され、美術館に収蔵されることで作品はアートとして認められるという側面があります。

そのため、公的な美術館のパブリックコレクションに、自分の作品が加わることを求める作家は少なくありません。展覧会などで作品が展示されたタイミングなどで寄贈の話が持ち上がることは少なくないのです。

次に個人コレクターからの寄贈についてです。コレクターといっても、投資目的で美術品を購入・所蔵している人ではなく、作家のご遺族や関係者で結果的にたくさんの美術品を所蔵している個人の方が日本には多くいます。

しかし、一点二点ならまだしも、大量の美術品を保管するのは相当難しいです。ずさんな保管方法では傷んだり、カビがはえたり、虫に食われたり。
また、著名な作家の作品を所蔵しているとなると、代が替わる時には多額の相続税がかかることになります。

それだったら、いっそ美術館に寄贈して、未来永劫適切に保管してもらい、また展覧会でたくさんの人に見て楽しんでもらいたい、と考えて寄贈を希望する人は珍しくないのです。

美術品の寄託

最後に寄託についてですが、これも寄贈と同じく作家本人やコレクターから持ちかけられるパターンが多いです。寄贈と違って、所有権はもとの所有者にあり、美術館は作品を預かるだけです。

寄贈はできないけど、かといって自分で保管するのは困難なので、美術館の収蔵庫で適切に保管してもらいたい、というパターンですね。

寄託を受け入れる美術館側のメリットとしては、寄託作品を展覧会に使用できる、作品の調査研究がじっくりできる、といったところでしょう。これを条件にして寄託を受け入れることが多いですね。

このことから分かるように、寄託が成立するのは、作品が貴重なものであったり、著名な作家の作品である場合が大半です。そうでないと、預かる側の手間が増えるだけで特にメリットがありませんので。

一筋縄ではいかない作品収集

美術館のコレクションがどうやって充実していくのか、美術品の収集について購入、寄贈、寄託という基本の話をしました。

基本の話だけだとつまらないので、もう少しつっこんだ話をしたかったのですが、長くなってきたので、次回に続きます(一度に長々しい記事を読むのは大変でしょう?)。

本記事は【オンライン学芸員実習@note】に含まれています。


バックナンバーはここで一覧できます(我ながら結構たくさん書いてるなぁ)。


この記事が参加している募集

仕事について話そう