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ちいさな美術館ほどコンセプトを死守すべし[弱者の生存戦略]

どんな美術館にも、運営理念、いわゆるコンセプトというものがあります。これは会社だって同じでしょう。

美術館の事業は、このコンセプトがすべての核となります。コンセプトに基づいて、作品は収集され、展覧会は企画されなければいけません。

いけません、というか、コンセプトを無視して自由気ままに、手当たり次第作品を収蔵し、やりたい展覧会だけをやっていては、美術館のカラー、性格が打ち出せません。そして美術館の性格が見えないと、応援してくれるファンも増えません。
だから、美術館にはコンセプトが必須、以上!

さすがにこれで話を終えてしまうと物足りないので(私が話し足りないので)、もう少し噛み砕きつつ、掘り下げましょう。

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どんな美術館にもコンセプトがある、と最初に書きましたが、そのコンセプトの抽象度は正直美術館の規模によって変わります。そして、そのコンセプトをどれぐらい意識して事業を行うか、についても大きな美術館と小さな美術館では違いがあります。これは、博物館論の授業では語られないところだと思います。

大きな美術館、または博物館、たとえばトーハク(東京国立博物館)だったら、どうでしょう。ちょうど創立150年をむかえるところで特設サイトもできていたので、のぞいてみました。そこで掲げられていたステートメント(声明)を以下に引用します。

150年の歴史を振り返りながら、
文化財の魅力や、博物館の楽しさを、より多くの方と分かち合いたい。
そんな思いから生まれた、数々の企画をお届けしていきます。
すべては、かけがえのない宝物を、ともに守り伝えてゆくために。
私たちの、そして文化財の未来は、ここからまた、あなたと一緒にはじまります。

東京国立博物館創立150年記念WEBサイトより

かっこいいですね。ただ、ふわっとしてますよね(良い悪いじゃないですよ)。では実際にトーハクがどんな展覧会をやっているかと言えば、この間まで「ポンペイ」の展覧会をやっていたかと思えば、いまは「六波羅蜜寺」の展覧会をやっています。ふむ。

では次に、企業美術館を代表するサントリー美術館の理念を見てみましょう。

美しい、と感じるこころは、だれもがもっています。私たちは、毎日の生活の中で美を味わい、愉しんできました。絵や彫刻だけが美ではない。日常使う道具や調度に美を感じる。庭の石や植栽にも、人の立ち居振る舞いにも美を感じる。この国独特の美に対する感受性に守られ、育てられてきた名作、名品があります。そんな「生活の中の美」を、ひとりでも多くの方に愉しんでいただきたい。それが、1961年の開館以来、変わることのない私たちの思いです。

サントリー美術館WEBサイトより

「生活の中の美」か、そうだったんだ、私も今まで知らなかった。いい文章なんですけど、じゃあ、この理念に基づいてどんな展覧会をするか、と言われたらパッと思いつかないですよね。実際、最近では「正倉院宝物展」をやった次に、「大英博物館 北斎展」をやってます。理念の「生活の中の美」に縛られている感じはないですよね。

批判しているわけじゃないですよ。トーハクもサントリーもそれでいいんです。

箱(会場規模)も大きく、予算規模も大きい(メディアがスポンサーに入ることで)美術館であれば、求められるのは来館者数が見込める展覧会をやることですから。

しかし、中規模以下の美術館はそうはいきません。ここからが本題。

大規模ではない美術館の具体例を挙げるのは難しいのですが(怒られそうで)、そうした美術館はもっとコンセプトが具体的でなくてはいけません。

良い例として挙げるから、きっと怒られないはずと信じて、思い切って紹介しましょう。具体例を挙げないと伝わらないので。

それはずばり日本民藝館。ここの理念は

「民藝」という新しい美の概念の普及と「美の生活化」を目指す民藝運動の本拠として、1926年に思想家の柳宗悦(1889-1961)らにより企画され(中略)「民藝品の蒐集や保管」「民藝に関する調査研究」「民藝思想の普及」「展覧会」を主たる仕事として活動している。

日本民藝館WEBサイトより

はい、すごくはっきりしてますよね。「民藝」のことしかやりません!と。
そして実際にいつ行っても、「民藝」にもとづく展覧会が行われています。だからこそ日本民藝館は熱烈なファンが多いことで知られています。

これぞコンセプトを明確にした上で、作品収集の方針も展覧会のテーマも、すべてコンセプトに基づいて決定している好例だと言えます。

ここまで読んでくれている人なら分かっているとは思いますが、コンセプトに縛られない美術館運営とコンセプトありきの美術館運営、どちらがいい悪いじゃないんです。ただ、大きな美術館と小さな美術館では戦い方がちがうよ、という話をしたかっただけです。

小さな美術館は、海外有名美術館(ルーブル、オルセー、大英博、ボストンなどなど)のコレクションを一堂にあつめた展覧会ができるわけでもなければ、それ一点でたくさんの人が押し寄せるような作品(例、モナリザ、ひまわり、曜変天目、燕子花図屏風、若冲などなど)を展示できるわけでもありません。

それでも、美術館としてコンセプトをわかりやすく打ち出し、展覧会企画や収蔵品(コレクション)に個性を出すからこそ、言い換えればどこかにとがった部分をつくるからこそ、万人には無理でも特定の誰かにはひっかかるのです。そうして固定ファン、リピーターをコツコツと増やしていくことこそが、小さな美術館の生存戦略だと言えるでしょう。

結論:やっぱり小さな美術館はコンセプトがぶれないことが生命線!

[ここまで読んでくれたあなたに課題]
あなたはお気に入りの美術館がありますか?もしあれば、その美術館のコンセプトを想像してみましょう。その後で公式サイトで確認してみましょう。新たな発見があり、次に行く時に少し見方が変わるかもしれませんよ。

本記事は【オンライン学芸員実習@note】に含まれています。


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