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展覧会ができるまで(美術館の舞台裏)vol.1

学芸員の視点から美術館で展覧会が開催されるまでの工程を、ひとつひとつ説明していくコーナーです。

全工程はこちら(↓)をご覧ください。

01 [始動]たいていの場合、何かきっかけがある

そう言えば、そもそも展覧会の企画がどこから始まるのかという話って、あまりよそで聞かないので、まずはそこから始めましょう。

純粋に、学芸員が研究しているテーマの中から面白そうな企画を考える、みたいなことはあまりありません(そういうことは常設展や所蔵品展で地味にやる場合が多いです)。
ある程度の予算をかけるような企画展は多くの場合、何かきっかけがあるものです。

例えば

  • 作家の遺族からまとまった数の作品の寄贈があった。

  • 美術館の運営母体(自治体、企業)の周年事業。

  • 新聞社などから巡回展の話が持ち込まれた。

こんな感じで、具体的な内容まで固まっている話が持ち込まれることもあれば

美術館の上層部に、関係者から「なんかこんな感じの展覧会できませんか?」とざっくりした話が持ち込まれることもあります。

02 実現可能性をざっくり計算してみる

こうして展覧会の芽といえるような、企画素案がポンと机上に置かれました。

この粗々の案は、ふわふわした「こんなことできたらいいなぁ」という夢物語に過ぎません。
それが本当に実現可能かどうかを考えるのが学芸員の仕事です。

  • 展覧会を一本やるだけの作品数が集まるだろうか。

  • 作品を借りられる当てはあるのか。

  • 予算規模から考えて非現実的な話ではないか。

そんな当たり前のところから考えますし、

  • うちの美術館で扱える作品だろうか。

みたいなことも考えます。
例えば、刀剣を扱える学芸員がいないのに刀剣展をやるとか、シビアな温湿度コントロールができない展示設備なのに脆弱な文化財を展示するとか、そういう話だったら他を当たってもらわないといけません。

そういった人的要因や設備環境的要因で断ることもあれば、もっと理念的な話で、美術館としてやるべき価値のある展覧会だろうか、もしくはやるべきはない展覧会だろうか、ということも考えます。

美術館は単なる貸し会場ではありません。大なり小なりコンセプトをもって運営するからこそ存在意義があると言えます。詳細は↓

やろうとしている展覧会は、このコンセプトから大きく逸脱していないか、逆にちょっとずれていても、拡大解釈すれば許容範囲か、そのようなことも考えた上で実現可能かを判断しなくてはいけません。

03 会期と担当を決める

前のステップで、一応「実行してよし!」と判断したとします。
ここまでの判断は、美術館の責任者レベルの者(館長や学芸部長)が考えることです。

ここからはもう少し具体的なステップに移り、まず展覧会をいつ頃やるか(会期)と、誰がこの企画を担当するかを決めなくてはいけません。

美術館は、多くの場合、1年後、2年後くらいまではある程度展覧会スケジュールが固まっています。
ただ、すでにフィックスして動かせない展覧会もあれば、まだ流動的で前にも後ろにもずらせるような展覧会もあります。

そうした全体のスケジュールを俯瞰して、ここなら企画を差し込めるという時期を判断し、仮押さえします。

そして、担当学芸員を決めます。
学芸員には専門分野があるので、その企画をカバーできるかどうかが判断基準となります。
もちろん狭い分野の「ここしかできません!」という学芸員はいないので、実際はそのものずばりの専門でなくても、「まぁなんとかなるでしょ」という感じでがんばってカバーするしかありません(そうやって成長していく)。

美術館の規模によっては、担当学芸員が複数名の場合もあります。だいたいは主担当と副担当という役割分担をして、若手を主担当にしてベテランが副で補佐する、またはベテランが主担当となり若手がサポートしながら経験をつむ、いろんなパターンがあります。

***

さぁ、ここからいよいよ担当学芸員が動き出します。

つづく>>

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