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エッセイ

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#猫

トイレ貯金

トイレ貯金

それは焼肉を鱈腹食べた日曜日。いかに、「明日は会社」へと通電したがる思考を「まだ日曜日」に誘うか、脳内熱戦を繰り広げている最中だった。トイレ掃除に興じていた同居人が、頗る不機嫌な足音でリビングに帰ってきた。なんや話しかけられたくないなあという表情が完成した辺りで目が合う。「ミズガナミナミアガッテル!」「え?なになんて?」「トイレの水が溢れそうなくらいあがってるの。もうダメかもしれない!」越してきて

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捨てた庭訓

捨てた庭訓

新の服は洗ってから着るのが当然だったし、たくさん服を買った日はたくさん洗濯を回す日だったし、干す日だった。子供の頃からそうしなさいと言われてきた。ピンピンだった服がびちゃびちゃの皺皺で整列している姿を眺めながら、今すぐにでも着て出たい気持ちにケリをつけて、早く乾けよの想いを募らせた。だから初めて袖を通す日は断食明けのお粥くらい沁みる。唯一の例外はお店で試着をして、それから「このまま着て帰ります」と

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ヨンヒキ

ヨンヒキ

とんでもなく暑い夏に、今年も我が家だけが置いてけぼり、永久不滅の小春日和だ。心地の良い室温に保たれ、1猫につき1つずつ、つまり4つもある窓の全てには光彩を匠に操る麻のカーテンが吊るされている。どこをとっても最高の居場所になり得るよう、随所随所にやれハンモック、やれ爪研ぎなどと媚売り設計にしているにも関わらず、ダイニングテーブルで寝ているところしか見たことのないでっかいハチワレ。お母さんの隣席は譲ら

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器用貧乏サヴァラン

器用貧乏サヴァラン

中学生の時、好きになった人が28歳だった。その28歳に先月わたしも成った。「クォーターライフクライシス」の真っ只中、「リベンジ夜更かし」によって得た、長い空白を埋めるために書いています。誰もが表し難く感じていた凡ゆるモノへ上手いこと名付けてくれる時代に、ほうかほうかこれはクライシスやったんか、それなら仕方がないね、と甘えながら日々を貪ってはいるけれど、唯一憤りを禁じ得ない名付けが在る。

「失われ

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昨日のウェルチ

昨日のウェルチ

おじいちゃんはボーイスカウトに熱心だった。私は女の子だけど3歳の時にはボーイスカウトの一員としてキャンプに行ったり慈善活動に参加したり、家庭内のお困りごとより世間のお困りごと、なおじいちゃんに着いて回った。性別への無頓着さと偽善はここで一通り身につけて、肌身離さずあったはずなのだけれど、最近は偽善の方が偽善たらしめない態度である。無垢無垢な頃の偽善には必ずきちんと見返りが折り込み済みでそれこそが偽

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