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零売薬局からヘルスケアと薬剤師の新たな未来を創る

零売(れいばい)という言葉を聞いたことはありますか?病院にかかり処方してもらう薬(医療用医薬品)約15,000種類のうち、処方箋なしで購入できる約7,300種類を対象に、必要量だけ販売することを言います。やむを得ない事情やさまざまな事情で病院を受診できない方に零売薬局は強い味方になってくれます。この零売という販売形態、高齢化が進み医療費が一層膨らむ昨今、医療費削減や健康増進の観点からも注目されています。その零売薬局を業界で初めてチェーン展開されたGOOD AID株式会社 代表取締役薬剤師の服部 雄太さんに、目指す未来を伺いました。

第三の医療の選択肢、「零売薬局」

― GOOD AIDが展開する零売薬局とは、どんな薬局ですか?

処方箋無しで病院の薬が買える「セルフケア薬局」という零売薬局を運営しています。調剤と零売の両方を取扱う「おだいじに薬局」もあわせると、自社の零売薬局は現在、東京、大阪、名古屋を中心に28店舗となります。最近は『第三の医療の選択肢』と言っていただけるようなポジショニングになってきました。国民の皆様に、セルフメディケーションについて相談する場所として「セルフケア薬局」を使っていただけるように、普及していきたいと思っています。

ちなみに、皆さん、少し体調がすぐれないときにドラッグストアで気軽に薬を手に入れることもあるかと思いますが、ドラッグストアで店頭に並ぶ薬は一般用医薬品と言い、医師が診断し処方箋に基づいてお渡しする医療用医薬品とは異なります。医療用医薬品をより身近に気軽に手に入れていただけるのが、零売薬局なのです。

日本は、皮膚がちょっと赤いなどの軽度な症状でも、すぐに医療機関にファーストコンタクトで行く慣習があります。医療機関にアクセスするハードルが低いという点ではメリットですが、医療費高騰という社会課題にもなっています。一方、欧米諸国は、国民皆保険でないので、医療機関に行く前に、まず街の薬局の薬剤師に相談しに行くというカルチャーが浸透し、薬剤師はセルフメディケーションを促したりクリニックの受診を勧奨したり、健康の水先案内人のような役割を担っています。

GOOD AIDは、日本でも欧米諸国のように、街の皆さんに愛され気軽に相談できる、日本の新しい「薬局」のあり方を零売薬局で創っていこうとしています。日本には、医療機関の近くに処方箋の受け皿として「調剤薬局」が多く存在していますが、この「調剤薬局」を、街の皆さんの健康を守っていく「薬局」にしていきたいと考えおり、そのきっかけを「零売」で作っていきたいと考えています。

起業の原点、地域医療に対する問題意識の芽生え

―薬剤師である服部さんが、零売を強みとする「セルフケア薬局」を経営者として展開しようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?

高校の頃から、漠然と将来は自分で何かやりたい気持ちがあり、ビジネス書などを好んで読んでいました。それが具体的になったのは、大学の薬学部を卒業後、医療機器メーカーに勤めていた時です。当時は200床以上の地域の基幹病院を対象に、大型の医療機械を提案する仕事をしていました。その際、病院内のドクターや検査部の方、さらに事務部門の方や販売代理店の方など、色々な方と接点を持つことで、地域医療の現状や課題の全体像がみえてきたんです。その頃から、地域医療分野で何か事業をやりたいと考えるようになりました。

そんなことを考え始めたある日、自分の地元である愛知県一宮市に帰った時のことです。昔あった商店街の薬局を思い出しました。僕たちが子供の時、その薬局の薬剤師さんは「お母さん元気?」とか、「おばあちゃん腰悪くしていたけど治った?」とか、街の人と自然にコミュニケーションを取っていましたし、何かあったら、病院じゃなくて薬局に行っていました。僕も、そんな薬局を創って地域医療に貢献したいと思うようになりました。

そこで、医療機器メーカーを辞め、大手の調剤薬局に1年間修行をさせて欲しいとお願いし、働き始めました。独立を意識し、オペレーションがしっかりしている会社を選びました。1日1000人超の患者様を相手にし、薬剤師間での分業が徹底され効率化された職場でした。例えば、調剤室から上がってきた薬を患者様にお渡しする投薬係だと、窓口で1日に500人の患者様を対応することになります。そのため、薬の説明も一人の患者様に対応する時間は1〜2分です。また、患者様も、先生の診察に1〜2時間も待った後ですし、どんな薬を出すかは先生からお話があるので、薬をさっさともらって帰りたいと思われているので、対応が短くても問題ないことではあるのです。しかし、僕は「この投薬係の仕事は機械でもいいのではないか」と思ってしまった。もちろん、そういう効率的に患者様に薬をお渡しする薬局が求められることもあると思います。でも、僕は、昔、地元の商店街にあったような、地域の方の健康を見守っていくコミュニケーションがある薬局を作りたいと改めて思いました。

そこから徐々に、自分の理想とする薬局のあり方について、イメージを膨らませていきました。そして、零売という新しい薬局の選択肢を見つけ、それはセルフメディケーションの大きな手段になり、人々の考え方やカルチャーを変える起爆剤になると確信しました。

―「零売薬局」を今後どのように広げていく予定ですか?

そもそも零売の仕組みは以前からあるのですが、ビジネスとして成立させるのが難しく、実際に経営されている零売薬局は個人経営ばかりで、日本でチェーン展開できているのは、現在GOOD AIDだけです。零売自体の知名度も低く、独自に2021年末に1万2000人の20代〜70代の男女にアンケート調査をしたところ、97%が零売を「知らない」と回答しました。そこで、まずは大都市圏に直営店を構え、ビジネスとして成り立つように仕組みを構築してきました。

そして次の段階として、零売の認知度を10人に1人、5人に1人とどんどん広めていくために、日本全国にある薬局に対し「一緒に零売の市場を創っていきませんか」とパートナー戦略を取っていきたいと考えています。日本には薬局が6万店ぐらいあり、コンビニより多いといわれています。2年に1回、調剤報酬の改定が行われ、マイナス改定が続いており、その多くの個人経営の薬局は、年々厳しい状況になっています。これは、国の保険診療に頼ってきた薬局業界の在り方を見直す機会がきているともとれます。零売に取り組んでみたいという薬局オーナーの方々と協力しながら、地域医療を一緒になって盛り上げていきたいと考えています。

一方で、患者様は、コロナ禍で病院に足を運びづらくなり、セルフメディケーションへの注目が高まりました。とりあえずクリニックに行くというよりも、ちょっとクリニックに行くかどうか迷っている時に、聞きにいける駆け込み寺として機能するような薬局を、皆様と一緒につくっていきたいです。

―零売は過疎地域の医療の問題解決にもつながりそうですね。

そうしていきたいと考えています。実際に取り組めるのはまだ先ですが、地方の医師がほとんどいない地域に対するファーストコンタクトの医療機関の役割を、零売薬局が担えるようになれたら嬉しいですね。医師を派遣できないような田舎の地域でも、零売薬局は8坪ぐらいでオープンできます。零売薬局が存在すれば、その地域住民の皆さんの健康も大きく変わってくるのではないでしょうか。

―最近地方の薬局の事業承継を目にすることも増えてきました。そういった分野もGOOD AIDの活躍の場になっていくのでしょうか?

はい、実際に取り組み事例もありますね。後継者が不在で撤退せざるを得ないけれども、撤退されると地域が困る薬局に対して、GOOD AIDが零売機能を新たな柱として付け加えさせていただきながら業績を改善していってもらっています。

薬剤師の活躍の可能性を広げたい

―薬剤師の活躍についても、ミッションをお持ちだそうですね。
現在、薬剤師になりたい人が減り、私立大の薬学部は、ほとんど定員割れしているそうです。この背景の1つとして、薬学部が4年生から6年生に変わり、学費が高額になったにもかかわらず、薬剤師として社会に出て行う業務が、ほとんど変わらないことが要因だと思います。さらに、給与面も、薬剤師として大手薬局に就職しても、給与は300万円台とかなんですね。そうなると、6年間一生懸命勉強したのに、業務面でも給与面でも、この先30〜40年と薬剤師をやりたいと思えない、というのが現状です。
薬剤師である僕がミッションとして思っていることは、今60代70代の先輩方が、1990年代から医薬分業の中で、コンビニより多くなるほど薬局を増やしてくれたことは、ものすごい功績であり、それを無駄にしたくないということ。もう一つは、薬剤師はもっと活躍の可能性があって「かっこいい!」と言われる世の中を創りたいということです。それを実現できるのが零売薬局だと考えています。

事実、薬剤師としては零売はやりがいがあります。例えば、頭痛でお悩みのお客様と「今までどういうお薬をどれだけ飲んだことありますか?」と会話しながら、日々学んだ臨床の中で推論を立てアプローチをしていきます。“街の保健室”みたいな役割をしながら、地域に貢献できるのです。実際、そんな働き方を希望する20代〜30代前半の薬剤師の方々から、GOOD AIDで働きたいとたくさんのエントリーをいただいています。
このように、未来の薬剤師に何かバトンを繋げられるような世界を創っていきたいです。

IPOは業界変革のための通過点、そのためにファンドから資金を調達

―想いの実現にあたり、ファンドから資金を受け入れられたのは何故ですか?

GOOD AIDにとってIPOは、私たちの考える「地域の皆さんのセルフメディケーションの啓蒙や健康に寄与するような街づくり」の実現のために、100%通らないといけない道だと考えています。また、零売を取り巻く規制を変えていくには、 IPOにより社会的な信用を得ていくことが一つのステップになると思っています。さらに、IPOによってより多くの方にGOOD AIDを知っていただくことで、零売の認知度向上にも繋がると考えています。

一方で「時価総額がユニコーンになります」と打ち出しながらIPOをゴールとするような会社ではありません。僕たちソーシャルベンチャーにとってIPOとは、その先にどんな未来が実現されるのか、ということが非常に重要です。ですから、この想いを汲み取っていただけたFVCのようなファンドから資金を出していただくことを決めました。
FVCの石坂さんは、事業に対してコメントやアドバイスをくださるなど、積極的に僕たちとコミュニケーションをとってくれます。僕たちから求めたりFVCさんからもきていただけたりする双方向の関係が、僕たちの成長をとても支えてくれているなと感じています。

―今後、社会に対してどのような役割を果たしていきたいですか?

零売は、セルフメディケーションの一つの手段です。最終的にやりたいのは、セルフメディケーション、プライマリーケア、未病・予防、そういった領域で薬局薬剤師がしっかり輝ける市場を創り、軽度な症状であれば、まずは薬局に来てもらえるような導線を構築し、医療とセルフメディケーションの橋渡しで薬局が機能できるようにしていきたいですね。


 服部社長の”座右の銘”
「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き残るものでもない。唯一生き残るのは変化するものである」
ダーウィンの進化論で有名なフレーズです。医療業界もコロナで様々な変化を迫られたり、テクノロジーにより時間軸が一気に短くなっていたりしています。常に固定観念や前提を疑いながら、変化し続けていきたいですね。


投資担当者からひとこと
GOOD AID社は、従来の医療・ヘルスケアの常識にとらわれず、お客様の利便性向上、医療費の削減、薬剤師の活躍機会創造を目指すスタートアップです。服部社長の想いは大変すばらしく、初めてお会いした日のことを今でもしっかり覚えています。新たな地域医療のあり方を追求されている服部社長率いる同社を、今後も全力で応援させていただきます。(石坂 颯都)

インタビュアーからひと言
コロナで改めて人とのリアルの接点の大事さを感じた今、服部社長の構想は人の温かさ、人が介在する意味を大切にされていると、より一層感じました。目の前の情報を冷静に捉え、柔軟に考える、まさに薬剤師ならではの推論で事業を進化し続ける服部社長、今後のGOOD AID社の創る未来が楽しみです。

投資ファンド
しらうめ第1号ファンド


◆GOOD AID株式会社 ウェブサイト
◆セルフケア薬局 ウェブサイト

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