fuyusemi

age of 22.

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【小説】ブリキの眼鏡

今はまだ、君の輪郭なぞれるんだ。 伸び縮み、揺らいでいく、実態のない日々。 幸福には名前がなくて、それはつまり形にもなくて、コマ撮りになって残った記憶だけが積み重なって、引き出しの中を圧迫する。 法学部の棟を跨ぐ、渡り廊下を歩く君を遠目に見て、ようやく俺は外にいる君を知った。 どう頑張ったって救いようのない場所にいる君を、他人事のように埋もれてしまった君を、少しまひの残る脚を引き摺る君を、奇跡なんてないままの世間を、 見なかったことにできる、ふたりという檻。 遠視の俺

    • turn.

      受け入れたいのその気持ちの 少し手前にある慣れなさ 変わってしまうことが怖い 変わってゆくその鏡が怖い 考え過ぎてしまうからねと あの子の言葉に頷いたけれど 本当は通り過ぎてゆく 波の満ちに押し出されただけ 揺れるすすきのこの頃に 髪を黒色に染めたんだわ 陽の周りを一周回って 歩き疲れた帰り道 離れてゆく前に小夜が来て 良かったなと思っているの 忘れられないでいられたから 気付かなくていられたわ 振り向いて転けないでね 長い影が笑うのは 空を埋める人々の夜

      • 終点より

        これからはこの街で、 きっと新しい悲しみも見つけていくのだ。 阪急電車、河原町から続く商店街のダイソーで即席に買ったヘッドホンを頭から被り、人混みを乗せた箱はくぐもった思い出で結露した。 終わりより先に来るのは始まりだと、いつか聞いた言葉を今更思い出す。 急かさせると閉じ篭りたくなるのは、まだちゃんとさよならを言えていないから。 時折知らないはずの景色の下に、止まったままの時刻の印字が見える。あの日あの時の気持ちや陽の光や風や声や痛みの全てを、私はちゃんと手の上で受け止

        • 【日記】22歳の引越しについて

          ドレッサーを解体した。 ドレッサーというのは化粧をしたり身嗜みを整えたりするための、洗面台のような家具のことである。 私の部屋のドレッサーに関しては、確か私が大学2年生の頃に、ネットショッピングで安く購入して、3日くらいかけてひいひい言いながら組み立てた覚えがある。 詰めの甘い19歳の私が組み立てたそれは半年ほどで既にバランスを崩し始め、その度に叩かれたり壁に立て掛けられたりしながら、なお凛として部屋の真ん中に鎮座していた。 高校生だった頃の私は殆ど地元から出たことが

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        【小説】ブリキの眼鏡

          【小説】朔望月

          冗談地味た寒さのベランダに、風に煽られたカーテンが迷い込む。真昼の白い月が現実味の無い平行世界のように見える。遠くに見える飲み屋の光の群れが、天然の暖房のように熱を放っている。 冬になると、人の居る場所は近付くだけで暖かみが分かる。まるで突き動かされるように、はっきりとあそこは寒さを凌げる場所だと分かるのだ。 レオンという飼い猫のことを思い出す。高貴なグレーの毛並みを撫でると、何故か反転して自分が撫でられているような気分になった。 よく覚えているのは、夜中に寝てしまった

          【小説】朔望月

          【小説】22

          ーねえ私らってめちゃくちゃ仲良いやんね、 洋子は5ミリのタールを唾を吐くように慣れた顔で、よく晴れた夜に放って言った。 ー最後にはあんたがいるって、死ぬほどプライドが傷付いた時にふと思えて、ああこれが友達がいるってことなんやって思えたんよ。おとといのバイト帰り。 私は4千円払ってようやく使える店の前の灰皿を眺めながら、この街の夜の匂いに溶けているような心地良さに身を委ねて 今なら空も飛べそうだと煙たく曇った夜空にそうっと乗ってみようとしたりした。 ーでもさ、どうせ私ら

          【小説】22

          海【小説】

          風で海がめくれ上がって、細胞膜のような波が遠くまで連なっている。そこに、曇り空から覗く僅かな太陽の光が映り込んでは数秒で波の底へ沈み、もう時期消える星のように断末魔に近い瞬きを見せていた。 モーターのすぐ上の席に座っていると、まるで自分がこの大きな船の主のような気がしてくる。泡の下に入り込んだ泡の白色が水面に透け、まるで真っ白の海のようになった船の轍を見下ろして、硝子細工や向こうの透けるグミを想った。 ごおんごおんという大きな振動に身を任せたまま転寝を繰り返す。海風がスプ

          海【小説】

          【小説】椅子

          咄嗟に君の椅子を引いてみたらどうなるだろうと、ずっと考えていた。 君とは3年間クラスが同じだった。何度も何度も席替えをして目まぐるしく私たちは大人になったが 記憶の中の君はいつも、前の席で居眠りをしていた。 君は授業中に寝るのが上手かった。起きているように寝ることが出来た。普段の字は汚いが、硬筆コンクールになると必ず賞を取った。 世の中にはこういう時にこう振る舞うのが一番格好が付く、という決まりがあって、君はそれを地でなぞっていた。他人の目が最も気になるちぐはぐな時期に、

          【小説】椅子

          パセリ

          冷凍パスタを解凍しようとして 冷たい床を裸足で歩く アラームが鳴る 過去は他人事になる 綺麗に解散することも 時には必要なのかもね ニュースにも載らなくなった あのアイドル ふと思い出す くらいじゃ君の何かにはなれないし 人生このためにあったと 思える日が来たなら 後は余韻で生きていける そんな気がする パセリを残す君は 座右の銘は 何とかなる、だと笑う 底抜けに明るい声を聴いて 何とかなったその先を 案ずることは辞めようと 思った

          ちきゅうより

          君は宇宙人で 私の言葉を少し覚えた 君の命は私より短い きっと全部を伝え終えることはない 寝ている君の腹が 上下する 知らなかった星から来た 知らなかった顔 色彩も、痛覚も、味覚も、記憶力も 君のせかいはちがうかたち 同じ言葉が違う意味 単語カードを捲るように 表裏一体になれるといい 私は地球人で すこしとがってみても 君の親戚になれない いつか私は君の敵 そんな気がして それならば少し遠い隣人でいましょう

          ちきゅうより

          きっと駅前の広告看板のように、覚える間もなく変わる背景に 僕の手に入れた君の一瞬だけが 確かな名前だ 数年後には言葉も 通じなくなって 続きを待っている漫画は完結している そのあと僕は どうやって次の理由を探すのだろう 俯いて 俯いている 瞬いて 俯いている 開いて 結んでいる 都会には 塵のような雪が降る 退屈に並ぶ天気予報に 似た後ろ姿見つけてはまた 街は少し色めきたって 明日には溶けるだろう 赤信号に待ちくたびれる頃 道路が黒く濡れて往く道が見えたら その後僕は

          結露

          飽食しているということは 飽きるほど好物を食べたということ これも幸せ これもまた幸せ 結末を知っているということは 絶望の淵から また戻ってこれたということ これも幸せ これもまた幸せ 迷ってそのまま投げ出して 何も出来なかったと苦笑する そんな日を何度か繰り返して 私も昔はと 笑うようになれるのか 寝ても起きても 見えるのは同じような日々 手に入れるには両手がふさがって 後は失うだけ 巻き戻しても 擦り切れているままの日々 だから進むだけ 約束のように

          気楽に行こうぜ

          気楽に行こうぜ、とか言えない感じになってきたじゃんね 少しずつ、でも後ろを見れば 自分だと思っていたものも遠い 志半ばで死んだ親戚が こんなことならと笑ってた それ見て泣いてた 小さい頃のことを思い出すだけ 君のための作り話 だけどよくある話 妄想でしか僕は主人公になれない 気楽に行こうぜ 無責任なこと言えないけど SNSよりドキュメンタリーより 漫画の主人公みたいに 生きられる 主役だった君が羨ましい 長い休みが終わって 僕も君も変わらなかったね 孤独だと思っていた

          気楽に行こうぜ

          午後7時

          午後7時の電車でもこんなに人が少ない 鏡のようになった車窓には まだ今日が残っているよ 流れて行った病院は君の苗字と同じ 偉人が死んだ夕方に 流れた出鱈目なニュースの色 電線の海の向こうには デジャヴのようになった虹 覚えた頃には重荷になって 忘れることは哀しくて 同じような日々を繰り返せば 退屈になって意味を探す 君は何度も名前を変えて 私に付いたり離れたり もう少しまともになってよと 互い言い合う鏡のように 許せない私を許したけど 許した君のことは許せなかった、ね

          午後7時

          部屋

          随分遠くまで来てしまった。 何処まででも行ける日や、自分には何処に行く資格もないと思う日。気付けばまた一人になったり、見ることの出来ないものを見ようとしたり、している。 起きる度、一瞬ここはどこだと誰ともなく頭の中で問う。ここはどこだろう。大人のいない場所。18の私達が、ドンキの地下1回で私に無防備に笑いかけている。何処でも行けるのは、今だけ?自由は、ここだけ。 好きな物をシェアできなくてもいい。得意なことがお金にならなくてもいい。死ぬ前に、多くの人に覚えて貰わなくてもい