なぜ成長企業の歯車は急に噛み合わなくなってしまうのか? ~100話で心折れるスタートアップを考察してみた~
3連休に思うところがあったので、久々にnoteを書きます。テーマは、『100話で心折れるスタートアップ』となります。
話題や議論を呼んだ本作ですが
など、組織運営のリアルが描かれており、企業の歯車が噛み合わなくなり、急激に衰退していく様子は、胸にくるものがありました。
また、ウサギさんは、何か意図を持って悪い判断をしたというわけではありません。
その時々で事業の生存のために合理的な判断をしただけであり、誰よりも真剣に事業に向き合っていたはずです。
なお、起業家のメンタル強度としてどうなの?みたいな議論が出てますが、「描かれていない苦難」もたくさんあるわけで、漫画は漫画です。
また、リアルな人間関係の世界でも、「プライベートとか語られてない部分で、人それぞれ大変なことがあるんだろうな?」といった想像力を働かせて人に接した方がよいのではと個人的に思います。
といいつつ、上記はマネジメントの話であり、起業や経営は覚悟を持ってやるものだよね?という主張は真っ当であるとも感じます。特に、個人の会社ではなく、調達しているのであれば。
話を戻すと、今回改めて読んでみる中で、「ここで組織は崩壊のトリガーを引いてしまうんだな…」という部分があったので、私の考えを書いていきます。
1.組織カルチャーというか、人材密度の問題
「採用拡大して、開発スピードを上げたい」と思うのは当然です。
ただし、本作品で描かれているように、人員拡大を進める中で、組織カルチャーに合わない人材を入れた場合、組織は水槽なので一気に濁ります。
本作品の課題を組織カルチャーと捉えると抽象度が高いので、より具体的に定義すると、「自分の守備範囲とか関係なく、事業を成長させよう!」という文化が大切であったという話と考えています。
外発的なやりがい搾取とは別にして、内発的な貢献意欲によって、個人のコスパ度外視で事業を成長させる人材の密度が、組織の勢いを生み出します。
ビジョナリー・カンパニー3にあるように、どんな企業でも、業績はいつか必ず頭打ちになり、成長の踊り場を迎えるので、そこを突破するために、"この仲間とならやれる"という組織効力感が必要になります。
ここのフェーズで、「個人のコスパを意識して、やることをやれるスピードでやる」という性質の人材を入れると、上記の人材が一気に白けてしまいます。
人間が何を不平等に思うか?というと、「自分よりも努力していない/能力が低い人間が、自分と同等以上の待遇を受けている」と知った時です。
※実態はそうでなかったとしても、そう思った時点で、不満感情が増幅します。
本編には書かれていませんが、例えば、トカゲさんとニワトリさんの給与がほぼ変わらない、もしくは、ニワトリさんの方が低い場合、この不満が段々とニワトリさんのモヤモヤを生み出してしまう可能性があります。
現実世界においても、Windows2000問題はそうですし、みなさんも職場で「あいつ仕事できないのに、私達より給与高いらしいよ」という噂話を聞いたことがあるのではないでしょうか。
こういった噂は、たちまち広がっていきますし、マネージャーや人事への不満へと繋がります。
また、このモヤモヤの矛先は、ウサギさんにも向かっています。
本編で、「ウサギさんって、飲み会ばっかり行ってるよな?」というヒソヒソ話がなされています。
ウサギさんは会社のために全力を費やしているにも関わらずです。本編の中でも、最も切ないシーンのひとつではないでしょうか。
なお、このときの対応策として、経営者が誰よりも実態的に努力をし、その姿勢を示すというのが必要だと思います。
役員報酬などの実態はどうであれ、経営者は役得に見えるので、なおさらこの姿勢は大事ですし、経営者のコミットメントが組織のコミットメントの天井になるので、頑張らないといけないなと思います。
逆に、あれ社長、経営に興味なくなっちゃった…?という気配は嗅がれますし、メディアの出方や会食は気を付けるべきだと思っています。
承認欲求と事業成長の狭間を行くエッジランナーみたいになっちゃいますし、一度承認欲求側に張ってしまうと、その快楽のコスパの良さから戻ってこられなくなり、相当の意思がないと、起業家のタレント化が生じてしまうのが現代のようにも感じます。(アニメ:『サイバーパンク: エッジランナーズ』に倣い、承認欲求エッジランナーと名付けますが、それくらい紙一重だという話となります。自分だけはそうはならない!は危険。)
さて、もう一度念押しで書きますと、人間は、「自分よりも努力していない/能力が低い人間が、自分と同等以上の待遇を受けている」と知った時に不平不満が増幅します。
その時の人間の反応として、自分だけ頑張っていることが虚しくなってしまうのです。
その結果、手を抜いたもの勝ちの組織ができてしまえば、リーダーシップを取る難易度も上がっていき、活きの良いコア人材から抜けていきます。
※いわゆる大企業で起きがちな現象ですが、下記の図の赤のボックスにある「組織硬直化の魔のトライアングル」に陥ります。
「周りに流されて、やる気を失うようなやつはいらない!」と思うかもしれませんが、マネジメントは人間の自然性質に対する理解が必須ですし、理想論を言っても仕方ないと思います。
また、経営者が、メンバーに対して、同じコミットメントを求めるのは無理があります。
性善説は聞こえがいいですが、冨山和彦さんの「人間性弱説」が現実なのではないかと、泥まみれのM&Aなどを経験して思っています。
先の経営者の承認欲求問題も同じで、紙一重の世界で生き、環境次第で善にも悪にも転んでしまうのが人間の本性なのではないでしょうか。
2.トカゲさんは変えられるのか?
結論、難しいと思います。
企業の人材育成/組織基盤の強化を担当している立場からすると、ジョブ・クラフティングやオーセンティックリーダーシップ理論などの技術を用いて、トカゲさんのマインドセットにアプローチすることはできます。
ただ、トカゲさんの場合は、面接段階でそういう価値観ではないですし、それ前提で採用をOKしてしまっているので、相当難しいです。
面接段階で、「世の中を変えるプロダクトを作りたいです!」とかを発言していれば、「当初の気持ちを思い出しましょうよ!」などの原点回帰話法などが使えるのですが、それも難しいかなと。
よって、トカゲさんに対して「うちは自分の守備範囲関係なく、事業を成長させる気のある人しかいりません…」と言おうものなら、「最初からそう言えよ!!!」と突き返されるだけです。
トカゲさんの立場からすると、経営者や採用担当者の方がよっぽど理不尽です。
本問題は、下記の企業の凡庸化メカニズムでいう、Aの人材採用/登用の基準の誤りに該当しており、組織OSの整備だけでは解決できない問題となります。
そして、組織OSが未整備の状態だと、下記のような最悪な結末を迎えます。
上の図でいうと、優秀人材の離脱⇔残存メンバーの疲弊の連鎖です。
この2話で起きたことは、企業の凡庸化メカニズムに記載した通りの結果です。
前の話で、「風向きが一気に変わるはず」という期待を抱いていたこともあり、凄く悲しい出来事です。
3.成長企業がモメンタムを失わないために
まず最初に言っておくと、人材だけに依存したモメンタムには持続性はありません。
もうひとつ言うと、あなたの会社にいるコア人材は、やがていなくなります。(その前提でいた方がいいです)
私は2012年頃からIT業界やスタートアップに近しいところで仕事をしておりますが、この10年間だけでも、業界や企業のホットスポットはどんどん移行していきました。
世界史の勢力図の移り変わりくらいのダイナミズムで、「あぁ今、強い人材が集まるホットスポットはここに移ったんだな」と思って見ていました。
特に、2020年前後から採用トレンドが大きく変わった肌感があり、2000年代/2010年代等にメガベンチャーで活躍した人材がスタートアップに分散移行し、そのコア人材を中心に求心力&採用力の高いスタートアップが次々に生まれる流れが加速していると感じます。
メガベンチャーの人材の解体という話だけでなく、スタートアップ間の人材移行も激しいという話です。
この結果、「あれ、A社のエース人材、全員B社に移ってないか?」「あの会社の人、よく見たら全員元A社の人じゃないか?」という民族大移動も見てきました。
これにより、企業は事業のモメンタム失速の前に、組織基盤がごっそり抜け落ちしてしまうという現象が起きているのだと思います。
また、就活の時にはわからなかったのですが、「優秀な人材は、企業についているのではなく、優秀な人材についている」という方が近いのかなと思います。
ただし、ホットスポットは移行し続けるものなので、コア人材はさらに別の場所に移動します。うちは優秀な人材ばかりだから大丈夫!ではなく、だからこそ危ないのです。
自分たちは特別だから大丈夫だ!という自己有能感と(自分たちは特別でないかもしれないが)自分たちが頑張れば乗り越えられる!という自己効力感は異なる概念です。
冒頭に書いたように、「コア人材がずっといてくれる」という幻想は持たない方がよく、これを織り込んでしまうと、企業の歯車が急速に噛み合わなくなる原因のひとつになります。
コア人材の移行を避けられないものとすると、企業の対抗策としては、一部のコア人材に依存しない組織効力感の醸成の仕組みを作った方がよいと考えられます。
下記でいうと、右になってしまうシナリオを左へと変えることが重要だと考えています。
坂井が行っているのは、この持続的なコア人材供給システムとしての理論基盤をインストールしていく事業となります。
なぜなら、利益を作る<事業を作る<人材を作る<人材を作る仕組みを作るの順に、無形資産的になるが持続性が高いと考えているからです。(※利益軽視という意味では決してないです)
何やってるの?と聞かれることがあるのですが、具体的には、下記のようなトレーニングプログラムを提供しています。(+人事制度や採用に問題がある可能性があるので6ヶ月間くらい伴走)
ご興味がある方は、ぜひTwitterまたはMeetyからお問い合わせください。
※来年であれば多少空きがございますし、困っている企業を救いたいと思っています。
という宣伝はさておき、自分がなぜこの事業をやっているのか?を最後に書いて締めくくりたいと思います。
4.せっかくの良い事業/人材がしおれていくのが悔しいから
これだなと思っています。本作品を読んでいても、とても悲しいというか切ない気持ちになっていました。
私は父親の会社が倒産していることもあり、「事業の失敗」「企業の倒産」は、他人事ではなく、現実に訪れるものとして体験しています。
家族の倒産・自己破産経験者なら分かると思いますが、「自分は落伍者である」という感覚は非常に辛いものがあり、私自身、父親の憔悴しきった背中や、督促の手紙、競売物件にかけられる実家の光景が、今も目に焼き付いています。
不幸とは誰にでも等しく降りかかるものであり、自分だけは特別で、回避できるなんて甘い幻想はないんだなと思いましたし、正常性バイアスは、この時期に焼き切りました。
それ以降も、企業に属しながら、経営を預かる立場を経験してきましたが、「どうして企業は歯車が急に噛み合わなくなるんだろう?」「衰退を切り抜けられる組織とそうでない組織の差分はなんだろう?」というのが、私の人生に深く根ざした問いでした。
原因について、様々なことを考えてきましたが、下記の5つの問題が根深いのかなと思っています。
これらを乗り越える方法論を研究し、勢いのあったはずの企業が急激に衰退し、今までと違う生活を強いられる苦難や、自分はもう無理なんじゃないか?と責めるような状態を避けたいと思っています。
組織サイドだけの問題ではないと考えていますが、経営や事業活動の全ては人や組織から生産されるものであり、ここの歯車が狂うと一気に衰退してしまいます。
折しも、LayerXの福島さんが下記のnoteで人材/組織への投資の重要性を語っておりましたが、私も同感です。
▼企業文化に投資する
https://comemo.nikkei.com/n/n97cb404f4013?gs=f4eb67295ac6
逆に言えば、「自分ならなんとかできる」という灯火が、「自分たちなら何とかできる」という炎に変わっていくことで、組織や会社は変わっていくんだと思います。
強い組織とは、しぶとい組織であり、しぶとい組織には組織効力感があると感じます。
モメンタムとは、打ち上げ花火的な性質のものではなく、しぶとさという地に足ついたマインドの上での積極性を示すものなのではないでしょうか。勢いの良い時に勢いを持つことは難しくなく、勢いのない時にどれだけしぶとく頑張れるかが本当の組織の強さだと思います。
いつか来たる/必ず来る事業の失速に備えて、組織基盤の構築をしていくことを心から推奨します。
なので、「なんかうちの会社、企業/事業の歯車が噛み合わなくなってきたぞ…」「なんか組織やメンバーに問題がありそうだぞ…」という場合には、ぜひご相談いただけますと幸いです。
吹かしでもなく、来年度の枠も埋まり始めておりますので、ご興味のある方は、話を聞いてみたい!だけでも大丈夫なので、お早めにご相談いただけますと幸いです!(10月中でないと埋まってしまうと思います)
※補足事項
・プログラム以外にも、セミナー&コンサルティングも受け付けております。(ご要望にあわせてアレンジします。)
・ただ、現在ご契約くださっている企業様を何よりも大切にすべきと考えておりますので、数は限定させていただいております。
・担当企業としては、スタートアップ企業から時価総額1兆円前後の企業様まで支援しておりますので、「うちの規模にはハマらないのでは…?」という懸念はないかと思います。
・また、坂井の出自であるDeNA色に染められるのでは…?という懸念もなく、資料に記載した通り、普遍性&再現性の高い理論基盤を元にしています。
https://speakerdeck.com/futa/zu-zhi-osatupudetopuroguramu?slide=5
▼問い合わせ先
futa.sakai@momentor.jp
https://twitter.com/fuuuuuta21
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