あなたのせい
早朝。
体育館。
モップをかけてる2人。
「ありえねぇ~。
どう考えたって、
オレは悪くないのに…
なんでだよ!」
「だって…
学校の窓ガラス割ったんでしょ?
自分が蹴ったサッカーボールで」
「それは…そうだけど…。
違うんだって!
オレは確かに昨日の放課後、
部活の練習試合で、
シュートしたよ…いいボールきたから」
「うん」
「そしたらこれもまた、
いいところ…
ゴールポストの左隅に飛んだんだよ!
これは決まった!
と、思ったら…あいつ…
試合でも見せない、
横っ飛びなんかしやがって…
ボールがポーーーンと弾かれたんだよ」
「それで割れたの?」
「ちがうちがう。
そのクリアされたボールが、
隣で練習してる陸上部の方へ飛んでさ」
「うん」
「そのボールがハンマー投げの生徒の、
顔面めがけて飛んでったんだよ!」
「危ない!」
「そしたら…
ブンブン振り回してた鉄球に、
ボールがジャストミートしてさ!」
「え!?」
「ボール…加速しちゃって!」
「ええ~!!」
「それが校舎横にある、
校長の銅像の頭に直撃!
ナイスヘッドで、
ガラスが割れたんだよ…
校長のせいだろ?」
「いや、あんたでしょ?!」
「いやいや、よく考えて。
蹴ったのはオレ。
弾いたのキーパー。
それを加速させたのは、
ハンマー投げの生徒。
最後に決めたのは校長。
なっ?
校長だろ?」
「銅像でしょ?!
それは物であって固定物よね?
やっぱりあんたよ…犯人は」
「待って待って!
キーパーとハンマー投げは?!
あいつら共犯じゃん?!
オレだけ処罰っておかしくない?!」
「だってキーパーの人は、
ボールが来たから防いだ。
ゴールを守ったんでしょ?」
「まあ…そう言えばそうだけど…」
「ハンマー投げの人は、
ただ投擲の途中だった。
そこにボールが飛んできただけ…
何も悪くないんじゃない?
勝手にボールが、
当たりにきたようなものでしょ?
不可抗力じゃん」
「なんでその不可抗力に、
オレは入ってないの?!
なんでオレのせいなの?!
オレもガラスを割ろうとして、
シュートしたわけじゃないよ!?」
「でも、あなたが蹴らなければ、
事件は起きなかった…」
「名探偵みたいに言うな!
……まあ…
もう、いいんだけどさ。
こうやって早朝清掃してるわけだし」
「何で清掃なの?」
「いや、オレ部長だし、
代表して先生に謝りに行ったんだ。
そしたら…
反省文と早朝清掃どっちがいい?
って、聞かれて…こっちを」
「ふ~ん。
反省文書くの昔っから苦手だもね。
いっつも適当に書いて、
倍に増やされてたし」
「昔のこと言うなよ!
確かに苦手は苦手だけど…。
いつも…
オレが?ってことばっかりで、
反省文の書き方が分かんないんだよ。
小学校でお前と同じ飼育係の時。
お前が逃したウサギを追っかけて、
逃げ込んだ畑のニンジン踏んだとか。
廊下に落ちてたノートを、
職員室に届けたらそれが交換日記で…
その男の方に…
絡まれてるところを見つかって、
怒られたとか…」
「昔からスゴいよね。
それって才能じゃん!」
「なんの才能だよ!」
「悪運ピタゴラスイッチの」
「何だよ!
悪運ピタゴラスイッチって!
変なあだ名で呼ぶなよ!」
「あなた戌年でしょ?」
「そうだけど…なんだよ」
「だからじゃない?
犬も歩けば棒に当たるって言うから」
「お前も戌年じゃねえか!
オレだけはおかしいだろ!
あれ…
そう言えばさ…
お前、何でここに居んの?」
「え?」
「手伝ってもらっててあれだけどさ、
今日はこんな早くにどうした?
まさかお前…」
「………」
「昨日、職員室にいたから、
顧問に見張り役を頼まれたのか?
顧問、指示だけして来てないもんな?」
「ちがうよ…」
「じゃあ、なに?
バスケの朝練じゃないだろ?」
「ち、ちがう…。
………
昨日、部活中に…
髪留め忘れたみたいで、
授業前にと思って探しに来たの…」
「お前、髪留めなんかしてたっけ?」
「し、してるよ!
バスケの時だけ…」
「そうだっけ?
まあでも助かったよ。
ひとりでやるより誰かと一緒の方が、
なんか楽しいよな?!
まあ、オレがいなかったら、
お前もオレの掃除に、
巻き込まれずに済んだのに…。
お前も不運じゃねえ?
アハハハ」
(なによ…
………
あなたのせいじゃない…
………
もう……)
窓から射し込む…
温かな木漏れ日の中…二人。