街中の漁港 - 神戸長田港・駒ケ林 - /海辺の水彩画
絵・文 岡本幸雄
神戸の港といえば、ポートアイランドやポートターミナルなど外航船用の広大な波止場のイメージが強いですが、小型漁船が出入りする漁港も多くあります。
西の垂水、塩屋、須磨漁港のほか、知る人ぞ知る『長田漁港の駒ケ林地区』にも多くの漁船が係留されています。東西に伸びる長田漁港は、南に神戸の海が、北に神戸の市街地が広がります。波止場の中央には駒ケ林魚市場があり、連日、水揚げされた魚の競りで賑わっています。
神戸の海では、古くからアジ、イワシ、カレイ、タコ、チヌなどいろいろな魚が漁獲されており、長田漁港の漁船らは、港から近い前浜を主漁場として操業しています。
中でも初春に解禁されるイカナゴ漁は有名です。イカナゴ漁は、漁船二艘でパッチ網を曳く船曳き網で操業します。漁が始まると町内の各家庭から甘辛い釘煮の匂いが漂ってきます。イカナゴの釘煮は長田や須磨など神戸っ子の自慢でもあります。
5月半ばの昼下がり長田港を歩いてみました。白い船体が舫う漁船群を眺めながら浜をぶらぶらするのも乙なものです。
船で漁具を整備されていた漁師さんに声掛けをしてみました。今はシラス漁が中心で連日出漁しており今は多忙とのことでした。ここ数日の漁の様子から船のこと、漁網のこと、漁労電子機器のことなど、いろいろ伺うことができました。
興味深い話では、最近、漁業者と地域住民とのコミュニケーションの場を設け、町ぐるみで積極的な交流の場作りに取り組んでいるとのことでした。魚離れが進む昨今、特に若者への情報発信に力を入れているそうです。
その一環として、前浜で獲れた地魚が食べられる『子ども食堂』を開設したり、近くのホームセンターで『フィッシャーマンズマーケット』を開くなどいろいろ模索が続いています。
「駒ケ林に漁業があることを知ってもらいたいんです。地産の魚が増え、競りが盛り上がり、売り場がどんどん拡充すれば少なくなった漁師も増えますからね」とのこと。
自分たちが水揚げした魚が地元で消費されることが、駒ケ林の自慢になれば漁師にとってこの上ない喜びなのだと教えていただきました。
大都市神戸の海で魚が獲れること、そしてその魚が地元駒ケ林に水揚げされ町内の市場で競りにかけられていること、そんな街中の漁港の魅力を『漁師の未来の姿は地域とともにある』というコンセプトを通して、地元民や若い世代へ発信しています。