見出し画像

【ミナリ】ハイライトはディンドンブロークン

やじ馬気分で観たら頭かち割られた


ぶっちゃけスティーヴン・ユアンの演技見たさに、ってかウォーキングデッドのグレンを観に行こう位の呑気な気分で行った映画でした。そしたらビックリ。ぶっ飛ばされました。

確かにバーニングでは怪しい?妖しい?いい演技をしてました。本作でもいい演技をしていました。ハン・イェリも母親としていい味を出しています。

ですが、そんなふたりをあっさりと上回ったのはユン・ヨジョンでした。まるで元々役柄と同じ人生観で生きてきたような深みをもって演技を見せてくれます。前半と後半の緩急も凄まじい。さすがアカデミー女優です。

寸評では淡々と家族模様を描くとされていますが、騙されました。確かに家族の毎日の小さな出来事にフォーカスしています。ですが本来日々のハイライトってこんな感じじゃないですか。そこを生き生きと描いているのでちっとも退屈ではありませんでした。

しかも後半にはめっちゃ大事件起きます。おばあちゃんはえらいこっちゃだし、バーニングもしちゃいます。

そんな人生山あり 谷ありを見事にうつしたこの作品。
父親と母親。おばあちゃんと孫。移民とアメリカ人。色々な軸で対比ができていて、1つの出来事もそれぞれの角度からきちんと考えさせてくれますよ。


父であること。母であること。


母は偉大なり、とはよく言ったものです。うちの子も卒乳するまで何があってもどこ行ってもひたすらママ!ママ!

自分だってそこそこいい父親してるつもりなのにどう足掻いたって母親に勝てない。子どもが生まれた時、娘とオカンと時々オトンくらいのバランスで生きていこうと思ったもんですが、それでも死ぬほど悔しくて悩みました。

とはいえ、今となっては仕方ないなと思い知らされます。母親は神様ですからね。父親なんか所詮ATMかそれ以下の存在です。

せめてATMらしくお金さえ持って帰れたなら父親としての存在意義は保てるでしょう。それが自身の夢と両立できたなら尊厳も保てるでしょう。

じゃぁ逆に夢破れ、お金さえ持って帰れなかったら?まさしくオスのヒヨコじゃんって話で。

彼はヒヨコの雌雄を判別しながらも、自分が存在意義がないと家族から見なされる事に如何に怯えていたか。タバコをくゆらせながらも、焼却場の煙を見て早く成果を挙げなくてはと如何に焦っていたか。痛いほど気持ちが伝わってきました。

そのジリジリとした感情が苛立ちや暴走に繋がり、それが家族からの妻からの反発を生み、孤立してしまう。

でもそれは夫の孤独や葛藤を妻が理解していないのが原因というわけではないんです。むしろ真逆で。どう考えてもこの父親は、究極自分勝手でトンデモな父親ですよね。

本来であれば現実と理想のすり合わせを夫婦で話し合うべきなんですが、悲しいかな父親はいつも暴走気味。

だからこそ、子どもたちには安定した生活をさせてやりたい。友達を作らせてあげたい。自分もコミュニティと繋がっていたい。そう思うのは当然のことです。むしろ父親があぁなので、そうやってバランスを取るのが正しい選択だったと感じます。

リスクを排除したい母親と、是が非でもリターンを得たい父親という構図が切ないくらいすれ違う。でも随所にお互いへの愛情が伺えるのが切ないを加速させます。


みんなミナリに救われる


韓国から来たばかりのおばあちゃんとそれを拒む孫。これはある種、移民とそうでない者との対比とも言い換えられる関係性でした。

言語や文化も異なって一見相容れないけれど、関係を積み重ねていく毎にふたりは打ち解けていきます。

ディンドンブロークンやらおしっこジュースのシーンなんか劇場でも声出して笑っちゃいます。すごく微笑ましい。幸せの1ページって奴です。

なのに、なのにです。心許せる存在になったとたん、孫の身代わりになったかのごとく脳卒中に倒れるおばあちゃん。

この映画、割とこのパターンが多いです。こっから上がるかな?と思ったら突き落とされる。

上がってから落とされるのと、上がる兆しだけ見せられて落とされるのと、どっちが辛いんでしょう?どっちもどっちかもしれませんが、とにかく観ていて悔しいばかりで、ついうつむいてしまいそうになります。


それでも前を向こうと思わせてくれるのはタイトルにもあるミナリのおかげでした。


「ミナリは貧乏人も金持ちも平等に扱ってくれる。丈夫でどこでも育つから家族を助けてくれる。」そんな説明をしながらおばあちゃんがミナリを植えてくれます。

この時植えたミナリが最後家族の希望として描かれるわけですが、観ている側にも大きな救いとなって映ります。

自分自身も父親として夫として上司として部下としてどうあるべきかというヒントをくれたように思います。

どんな環境でもしっかりと根を張って強くありたいし、その姿で周りの人へ平等に強さや優しさを与えることができれば未来はきっと明るいと。

めっちゃくちゃ綺麗事ではあるけれど、この作品を観たタイミングでやたらトゲトゲしていた自分を反省する意味でも強くそう思ったわけです。


家族について自分について考えさせてくれた本作は☆4.0/5.0ってとこでしょうか。しっかり心に爪痕残されました。

栗饅頭とか地味なルックスの焼菓子を頬張りながら観るのにいい作品ですよ。ぜひ。

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?