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【ビバリウム】橙色に焼かれる産毛が美しいサイコスリラー

期待通りの気持ち悪さ・後味の悪さは最高◎


不気味、不穏、気持ち悪い…そんな感情のお得な詰合せでした。随所にみられるビートルジュース的な演出もすごく好き。ゲット・アウトやUsで知られるジョーダン・ピール監督が好きな人には特にオススメです。

1時間30分そこそこでサイコスリラー欲を充分満たせる感覚は、居酒屋のちょい飲みセットばりの効率の良さだと感心しました。

これはひとえにカッコウの托卵のシーンのおかげだと感じました。このシーンを冒頭にもってくることでテーマやシステムについて余計な説明を省くことができているのだと思います。


そんなカッコウの托卵によって巣から落とされたヒナを見て可哀想という少女に「自然だから仕方ないのよ」と答えるジェマ。

確かに私達もそう思いますよね。自然の摂理だと…。でも本当に心からそう思えるの?って話です。

いつの間にか私達は自然の摂理から解脱したつもりになっていたのかもしれません。

カエル系宇宙人?が托卵をして地球で命を繋いでいる事も、言ってしまえば自然の摂理。なのに、いざ自分達の身に起こると理不尽と思ってしまう。

確かに現代ではヒトに天敵はいないし、天災は予想できるし、疫病でさえ薬を作ることができます。そんな生活では自分達を自然から切り離して考えてしまうのも仕方ないのかもしれません。

でもこれって自然界のことだけじゃないですよね。貧困や飢餓・戦争だって当の本人からしたらまっぴらごめんでしょうけど、関係ない人からするとどうしようもなく他人事なんです。

それを本当に他人事として考えていていいのかという問題提起にも思います。



自分なら理不尽とどう向き合うか(他人事じゃなく)


がっつり話のベクトルは変わりますが、この手の話を見てるとつい考えがちなのは夫婦・恋人の在り方です。

大なり小なり現代社会なんて理不尽に溢れてます。そんな中でもがきながらもカップルが家庭を築く。

ビバリウムですよね、それ。
子どもへの愛があるか否かは除いて、家族って案外こんなもんかもしれません。

最初は好き同士の男と女。理不尽に立ち向かうべく男は毎日何の為かもいまいち分からずただひたすら穴を彫り、女は子どもと1対1で自分を試される。気が付けば女と子どもは手を取り合い、男は孤立。家族間でいがみ合う…。パターンじゃないですか。

でもね、いつでも思い出したいと思うのは「最初は好き同士だった」って事です。次元の低い話だけど一番大事なんです。

大切な相手だからこそ腹割って、愛を持って向き合えば絶対無敵なんです。でもそこを忘れちゃうんですよね。取り返しがつかなくなってから、もしくはその直前でやっと気付くんです。何事も手遅れにはしたくないですよね。

改めて家族に愛してるよと言わなきゃ!と思わされた作品でした。


最後に、めっちゃ好きだったなってポイントを2つ紹介します。

まずはね、音楽まじでよかった!
ヨンダーの住宅地に向かう車内でかかる The Specials の A Message To You, Rudyが抜群。他の楽曲もめっちゃセンスいい。サントラ売ってたら買ってたと思います。

もう1つは記事タイトルにもある、夕日の中ジェマがトムを抱きかかえるシーン。夕日に照らされるジェマの横顔と産毛が最高に綺麗です。

産毛が綺麗って言うとキモいとか特殊な性癖とか言われそうですけど、そうじゃないんです。多分。

気持ち悪いくらい均質的で人工的な世界でリアルなものって超レアなんです。産毛なんて超リアルじゃないですか。そのリアル感がこれまでの人工的なものとの対比でものすごく崇高なものに見えるんです。このシーンのためにもっかい観たいなと思うくらいでした。


そんな私のビバリウム評は☆3.7/5ってとこでしょうか。ブルーレイ買うほどじゃないけどまた観ようと思える作品です。

皆さんはいかがですか?ねっとり甘い羊羹を口に含んで楽しみたい1本ですよ。おすすめです。

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