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ふむもくエッセイ

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ふむふむと思ったことと、もくもくと感じたうれしいことを集めました。
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160 光がそこにあるなら

ある雨降りの夜。うっかりベランダのあかりをつけたままにしていた。 その日は昼から薄暗かったので、ベランダに出る時にあかりをつけ、その後すっかり忘れていたのだ。就寝時に部屋の電気を消した時、ぼわっと外が明るくて、ライトをつけっぱなしにしていることに気がついた。 消さなくちゃと思い、ベランダの近くに行くと薄オレンジのあかりが雨の雫を輝かせていていた。その美しさに目を奪われ、スイッチに手をかけたまましばらくガラス越しに外を眺めていた。夜と水と光。そろそろ蛍が出てくる頃だろうか。

159 お茶と言葉と降り暮らす

雨の音が聞こえると心静かになるのはなぜだろう。 しとしとしと ぽつぽつ ぽちゃんぽちゃん 天から降る恵みの水は、降り立つ場所によって音が変わり、それが奥深い自然の音楽を生み出している。雨自体を見なくても、音を聞くだけで水滴の大きさが想像できることもある。 ------------------- 新年度が始まり、四月からばたばたと忙しく過ごしていた。 新しい仕事内容に新しいメンバー、業務形態も少し変わった。 休日はなるべく気分転換をするようにしていたが、なんとなく仕事の

157 文字が音もなく記憶を呼び覚ます

雲はたくさん浮かんでいるけれど、概ね晴れた朝。 本棚の整理をすることにした。 私の家に本棚は四つある。 一つは画集や写真集、刺繍の図案など大型の本をしまっている棚。リビングのソファ横にあり、芸術棚と呼んでいる。棚の上には気に入った単行本もずらりと並べている。 二つめは文庫本だけびっしり入った薄い文庫棚。棚の上は辞書類や仕事の本を寝かせて乗せている。廊下に置いているので、そこで入浴のおともを探すことが多い。 三つめは絵本ばかり入れた絵本棚。これには引き出しが二つ付いているので

156 カラフルタオル

たっぷりの雲が浮かんでいる朝。 ベッドから出たもののまだまだ眠たくて、ふわふわしながら紅茶を淹れていました。 ピンポーン ドアを開けると、郵便局の方が大きな段ボールを抱えて立っています。 「お届け物です。受け取りサインいただけますか」 なんだろう? シャチハタを押して受け取った段ボールは、大きさの割に軽いのです。 差出人は母。郵便局の方にお礼を言って部屋に入りました。 居間でびりびりと音を立てながらガムテープをはがします。 いつものことながら、必要以上に厳重な梱包。

154 アネモネ散歩

今月、お花屋さんから届いたお花はアネモネでした。 あざやかな赤や紫や白のアネモネは、シンプルな花瓶が似合います。 窓辺とリビングの棚の二箇所に飾りました。 一本の茎にひとつのお花。 その下にくるりと一周葉をつけています。 窓を開けていると、やわらかな空気が部屋を訪れて、ふわふわとアネモネを揺らします。 アネモネの学名は、ギリシャ語で「風」の意味があります。 私も風に吹かれたくなって、お出かけしました。 心地よい陽光が道も木も信号も平等にあたためる春。 この季節は動植物

152 春の夢

春の光が地上を包み、目に映るものすべてが輝いています。 うららかな昼下がり。せっかくのお休みなのにお昼を食べたらねむたくなりました。 蛙(かわず)の目借り時。 この季節は、やわらかな気候のおかげでまぶたが重たくなります。 それは、蛙が目を借りていくからだという言い伝えがあります。 せっかくのお休みなんだから、寝たらもったいない。 眠気に対抗するため、カフェインを摂取しようと思いましたが、お尻に根がはっているようです。 やれやれ。 立ち上がるのはあきらめ、頬杖をついて窓を

151 ビスケットピクニック

前の晩、ビスケットを焼きました。 薄力粉と牛乳とバターとお砂糖のシンプルなビスケット。 生地を冷蔵庫で休ませている間、ビスケット(やクッキー)のイラスト(↑)を描きました。 これまで食べたビスケットたちを思いながら。おめかししたビスケットは心おどりますが、素朴なビスケットもしみじみおいしい。 みんな、私のエネルギーになっています。 冷蔵庫から生地を出したら音楽をかけて、成形していきます。 フォークで模様をつけるのはいちばんの楽しみ。 さくさくさくと自由にバランスよくひとり

149 春のひかり

やさしい光は春の気配をたっぷり含んで、洗濯物を照らしています。 まだまだ風はつめたいけれど、外に出ればそこかしこに漂う春の粒に心躍ります。 ここ最近の休日は、お天気に恵まれることが多かったので、よくお散歩に行きました。 1〜2時間ほどの小さなお出かけ。 いつも見る景色もゆっくり見渡すとさまざまな発見があります。 川に沿って歩くと、鳥が仲良く泳いでいます。 びっくりさせないように、少し遠くからながめます。 よく見ると、水中で足をぱたぱたさせているのが見えます。 小さな足で

148 星の下、風のなか

新年早々、仕事に追われてしまいました。 一瞬で暗くなる一日。走るように過ぎていく日々。 家に帰っても、くたくたな状態のまま仕事の調べものをしたり、情報収集をしたり。 今日はお休みだから午前中だけ、と思っても、気がついたら夕方…。 そんな風に過ごしていたら、ある日、仕事中に激しい頭痛に襲われました。 肩や首のこりからくる頭痛だとわかったのですが、鎮痛剤をのむ気にもなれず…。 結局、その日は残業をせずに帰ることにしました。 電車の中で鞄を開けようとしましたが、手が動きませんでし

146 冬のサイダー

ゆるやかな年末。 12月はきんと冷たい日が何日かあって、やさしい雨が紅葉とともに何日か降って、そして今年が終わろうとしています。お天気は上々。空の青さに惹かれて、お散歩に出ました。 プラネタリウムは、もちろん休館日でした。 周りに人もいないので、まぁるいドームを抱えて静かに佇んでいます。 ふと見上げると、3階の窓が開いていました。 お休みなのに?と思いましたが、よく見ると電気もついているようです。 プラネタリウムもきっと仕事納め。 中の人が来年を気持ちよく始められるように

145 受け継ぐ毛糸

コートを着てもすっと冷たい空気。布団から出るのが億劫な朝。 毛糸が恋しい季節になりました。 毛糸といえば、真っ先に祖母を思い出します。 祖母はいつも編み針を持っていて、さくさくさくといろいろなものを編んでくれました。 靴下、手袋、セーター…。 それらにおしげなく毛糸を使うので、どれももこもこであたたかさは抜群でした。 今日は、そんなもこもこのお話です。 ------------------- 小学生のとき、祖母が紺色のベストを編んでくれました。 網柄はないシンプルな

144 1センチずつ時を重ねる

12月になり、空が青くて心地よい日が続いています。 昨日やその前の年はどうだったの、と言われても覚えていないのですが。 でも、今年は昨年よりも空を味わうことができていると思います。 もし、神さまがいるとしたら、きっと青色が好きなのでしょうね。 空、海、川…天然のブルーがあちこちにあります。 ある昼下がり。 頬杖をついて考えごとをしていました。 ふと、肩まである自分の髪を見ると、一本だけ長い髪があります。 軽く引っ張ってみると、するするすると出てきました。 どうやら、抜けてし

143 やさしい温度で

冬の朝のさむさは特別です。 太陽が出ればやわらぐさむさ。 ブルーとホワイトが混ざったような美しいさむさ。 冬が一所懸命冬らしさを出そうとしているような。 やや不安定でさらさらしたさむさです。 心がさわさわと揺らぐときがあります。 このままでいいのだろうか。という思い。 後悔ばかりだな。という反省に似せたセンチメンタル。 どうして生きているのだろう。という問い。 答えはどこにもないことはわかっているのにぼんやりと考えてしまいます。 生産性のない考えはやめよう。 と思ったそば

141 思い悩む自由を持っていること

よく晴れた休日の朝。 古い洗濯機が今にも動き出しそうな音を立てながら、平日がんばった衣類を洗っています。 太陽は部屋に味方してくれているようで、家具も壁もすみずみまで明るくしてくれています。 見慣れた椅子、カーテン。少しだけミルクティが残っているコップ。 自分の場所があることは、なんてうれしいことでしょう。 先日、緊張の糸が切れて涙してしまいました。 3か月ほど前から発症した皮膚炎は、数度の検査でも原因がわからず、さまざまな薬を試しては良くなったり悪くなったりを繰り返して