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143 やさしい温度で

冬の朝のさむさは特別です。
太陽が出ればやわらぐさむさ。
ブルーとホワイトが混ざったような美しいさむさ。
冬が一所懸命冬らしさを出そうとしているような。
やや不安定でさらさらしたさむさです。

心がさわさわと揺らぐときがあります。
このままでいいのだろうか。という思い。
後悔ばかりだな。という反省に似せたセンチメンタル。
どうして生きているのだろう。という問い。

答えはどこにもないことはわかっているのにぼんやりと考えてしまいます。
生産性のない考えはやめよう。
と思ったそばから、また答えのでない思いがふわふわと漂います。

いつの間にか荷物をたくさん背負って、一歩足を出すのにも苦労している。
これはきっと誰にでもあることだし、自分の中でも定期的に起こるものです。
ちっともめずらしいことではありません。
それでも、生まれては消える問いたちが不安をあおるのはたしかなのです。

こういうときはハーブティーをいれましょう。
ジャーマンカモミールとリンデンを多めに、ラベンダーを少しポットに入れます。
黄色、淡いスモークグリーン、やさしい茶色、紫色。
ポットの中が野原のようです。
あつあつのお湯を注いだとたん、ポットの中はさらに美しい色で満たされます。
茶葉が花のようにふわりと開いていく姿が愛らしくて、思わず微笑みます。
その間も豊かな香りがひらひらひらと空間に舞い、冷えた空気をやわらげてくれます。

ふたをして数分。
目を閉じてみると、さっきまでそこにいた不安な雲が減っていることに気がつきます。

ハーブティーができあがりました。
かぐわしい湯気がたつマグカップを両手で包めば、指先からあたたまります。
目で手で鼻で口で心で味わいます。
この時、私は氷をひとつかふたつ入れます。
猫舌だけど、冷めるまで待てないからです。
実家でお茶を飲むとき、母は必ず氷を入れてくれました。
「やけどせんようにね」
と言って。氷はお茶の中でくるくるとまわりながら小さくなり、あっという間に消えました。
そっと口をあてると、熱すぎずぬるすぎない温度になっているのです。
たったひとつの氷は、やさしい温度にするための母の思いやりでした。

そんなことを思いながらハーブティーを飲んでいると、体も心もぽかぽか。
部屋に陽がさしてぽかぽか。いつの間にか猫がひざに乗ってきてぽかぽか。
不安が完全に消えることは、もしかしたらないかもしれないけれど、休憩しながら上手に付き合っていきましょ。厳しい冬の寒さの中にも暖かい陽が降り注ぐ日もあります。

息をつくリズムを取り戻しました。
さぁ、歩き出す前にもう一杯いただきましょう。


今回も最後まで読んでくださって、ありがとうございました。


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