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148 星の下、風のなか

新年早々、仕事に追われてしまいました。
一瞬で暗くなる一日。走るように過ぎていく日々。
家に帰っても、くたくたな状態のまま仕事の調べものをしたり、情報収集をしたり。
今日はお休みだから午前中だけ、と思っても、気がついたら夕方…。
そんな風に過ごしていたら、ある日、仕事中に激しい頭痛に襲われました。
肩や首のこりからくる頭痛だとわかったのですが、鎮痛剤をのむ気にもなれず…。
結局、その日は残業をせずに帰ることにしました。

電車の中で鞄を開けようとしましたが、手が動きませんでした。
どうしても、仕事の資料に目を通す気になれなかったのです。
かと言って、ずきずきする頭を抱えたまま読書をする気にもなれません。

それならばと、窓の外をぼんやりとながめていました。
しっかりと夜の景色。落ち着いた色のコートを着た人々。
通勤時間にのんびりしたのは久しぶりかもしれなません。
外は紺色の空気の中を電飾が彩りながらすぎていきます。
今、外はどんな気温なのだろう…。

忙しすぎて、ここ最近の天気すら思い出せなくなっていました。

電車から降りて歩くと、冷たい風がひらひらと吹いています。
空はすっかり夜色。月はふっくらしていました。

なんだか走りたいな…。
こんな思いが浮かんで、おかしくなりました。
へとへとにくたびれているのに、頭も痛いのに、走りたいなんて。

おかしくなりながらも、家に帰ったら運動できる格好に着替えました。
念入りに準備体操をして、スニーカーを履いたら体は軽くなっていました。

川まで早歩きで向かいます。周りの家は数軒に一軒しか電気がついていません。
人も猫もいない、静かな夜です。
川に着いたら水の流れに沿って走り始めました。
一歩足を前に出して蹴る。その間にもう一方の足を出す。
スピードがでてくると、風が生まれました。
前へ前へ。紺色の風とともに進みます。

だんだん息が苦しくなりながらも、どこか俯瞰している自分も感じます。
それは、不思議な心地よさでした。

手も足も久しぶりに自分の意思で動かしている感じ。
今走っているのは、生徒や保護者から見た「先生」でもなく、上司から見た「部下」でもなく、後輩から見た「先輩」でもなく、兄からみた「妹」でも猫から見た「飼い主」でもない。ただ一人の私という人間。

性別すらどうでも良くなるほど、自由な一人の人間という感覚。
広い広い空の下、冷たい風を切りながら、たった一人で素敵な孤独を抱えながら全身で走りました。

そのうち、いくつか気づくことがありました。
それは、走るということは前を見続けるということ。
走りながら上を向くことはできるけれど、下を向くと苦しいのです。
それから、思っているよりも速さを維持することはできないこと。
急いだら息切れしてしまいます。程よくがんばれる自分のペースで前を向き続けることの大切さを感じました。

それでも日頃の運動不足から息が上がって足を止めると、やっぱり夜が広がっていました。
街中でも意外と星が見えるものです。暗くても雲が動いていること。人工的な光はあたたかく、星の光はつめたいこと。でも、どちらも美しいこと。

その中で生きている私はなんて幸せなんだろう。
足も手もふわふわと軽く、心臓の音がよく聞こえます。

冬の空気は川を渡ってきりりと肌を冷やし、その川には住宅や街灯の明かりをしっとりと写しています。

疲れて自分が自分じゃないような気がしていたけれど、どんなときも空は、風は、水は、世界は私を包んでくれていたことを思い出しました。

きっと、また明日もがんばれるね。
月も星も冷えて輝く素晴らしい夜でした。

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おまけ

ちなみに、私は足が遅いです。
学生のときの50メートル走は11秒くらいだったかと思います。
当然学校のリレー選手に選ばれるはずもなく、運動会では玉入れに一生懸命取り組みました。走ること自体は好きで、会社でも休日でも急いでいる時はよく走っています。

しかし、ある日会社にいるパートさんに仕事の関係で
「ごめんなさい、走ったけど間に合わなかった」と話すと
「あれ、走っていたの?」とびっくりされました。

と、いうことは、私は走っているつもりだけれど、他の人からは走っているように見えないのでしょうか。そういえば、走っている姿なんて自分で見たことがありません。では、どうやって走り方を確認したら良いのでしょうか。
頭がはてなでいっぱいになっていると、そのパートさんから
「いえ、あの走っているのはわかるんですけどね。なんと言ったらいいか…そりゃ間に合わないよね、っていう走り方だよね」
と言われました。

みんなと同じように走っているつもりだったので、この言葉はかなりショックでした。
自分で言うのも何ですが、私はわりと真面目なので習ったことはその通りにします。
漢字の書き順はまず正しいと思いますし、自転車の乗り方および交通ルールの把握、クロールの仕方(ただし息継ぎは今も習得できていません)…。しかし、走り方は習った覚えがありません。

これは、もしかして習わなくても生き物の本能で自然とできてしまうことなのでしょうか。
そう思うと、どんどん自分が情けなくなってしまいますね…。習わない理由は考えないようにしましょう。きっと、私が通っていた学校だけがたまたま教えなかったのかもしれませんし、走りを教わるときに私が欠席していたのかもしれません。

正しい走り方っていつ習うんでしょうね。

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