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長らく、お待たせしました。

14:46。長めのサイレンが響き渡る。
そびえ立つ白い壁の向こう側に、
どんよりとした空と、穏やかな山田湾。

親子のように浮かぶ、大島、小島と対話するように
町の職員と遺族の方々が、遠くのほうへ祈りを捧げていた。

2022.03.11 14:46  御蔵山より


いつもより少し、のんびりとした朝。
「今日は、3.11だな。」
寝起きの状態そのままに、誰もいない実家のソファーに身体をあずけ、
流れているテレビをそれとなく聞きながら、スマホで「3.11」を検索する。
テレビ、Yahoo!ニュース、YouTube・・・

慌ただしい日常に埋もれたあの日の記憶を
無理やり探しに行くかのように、
次から次へと流れる動画を、ただただ見続けた。

時計の針がいつもより速く感じる。
11年前のその時間が、刻一刻と近づいている。


「・・・よしっ」
いろんな感情を詰めこんだ頭を覚ますかのように
重たい腰に鞭を打って、ようやっと起き上がるかのごとく。

少しの緊張と静かな決意を胸に、
新調した背広に腕をとおし、お気に入りの革靴のひもをきつく縛った。




今日は、「地元で迎える」初めての3.11だ。



震災当時は北海道。
社会人になってからは、東京、高知、香川、山梨。
一度も、地元「山田」でこの日を過ごすことがなかった。

今日は少し肌寒い。
ここ数日続いた、少しあたたかな雲ひとつない空は
いったいどこへいったのだろうか。

画面の向こう側でしか見たことのない
あの日の山田の空色に、どこか似た今日の街中を

一歩一歩、「鎮魂の鐘」があるあの小山へ、
流れた年月を確かめるように進んでいく。

頬にさす冷たい風。
コンビニで買った1杯のコーヒーを片手に小山へ上ると、
もうすでに、1人2人と、
ベンチに座って、その時を待っていた。

街の真ん中にポツンとあるこの山(御蔵山)は、
漁師町の日々の営みをぐるりと見渡すことができる。

国道45号線を走る車、犬の散歩をする人、
自転車に乗った子は、、、下校途中の学生だろうか。

時間まで、あと10分。
いつもと変わらぬ、街の景色。
今この瞬間も、街の営みは途絶えることなく生きている。

あと3分。
多くの人が、海を眺め、その時を1秒、1秒、ただただ待っていた。
街も、心なしか静けさに包まれていく。


14:46。黙祷。

祈りの空間。ひとりひとり、それぞれに。


静かに目を開けると、
皆、心の中になにかを誓ったような、
また、新たな何かが始まるような、
どこか清々しい顔で、足早にこの山を去っていった。


この震災も、気づけば11年前。
月日というのは、あっという間に流れるものだ。

一人ひとりの心の中に、
それぞれに、様々な記憶で、あの日が刻まれている。

もはや、11歳を迎えるの子どもたちは、
刻まれた記憶ではなく、
伝えられた記憶に変わっている。

人生には、いろんな出来事が待っているのだと
最近ひしひしと感じる。

この10年でも、全国各地で起こる災害や世界的コロナの大流行、
海の向こうでは、ウクライナとロシアの戦争。

この世の中は、常に新しい出来事を送り込んでくる。

その時代に生まれたのは、何か意味があるのだろう。
大きな時代の流れの中に、
一人ひとり、主役の人生を生きている。

この時代に生まれた自分は、どう生きていくのか。

先の時代を生きた先輩方の歴史をたどり、
この時代に生きる自分のいまと照らし合わせる。

そこに何か、自分の生きるヒントが隠されているはずだ。

世の中に、○○が起こったとき、
自分は、どう考え、どう意思決定し、どう生きていくのか。

変化の激しいこの世の中で、
後悔しない人生を生き抜くために、
毎年訪れるこの時を、
生き方、考え方をアップデートする、ひとつのきっかけに。

震災で焼け落ちた旧山田駅の時計

前職をやめて、もう2ヶ月ちょっと。

帰省する機会がなかなか取れないだろうからと、
一月下旬から、地元に戻ってきて日常を送っている。

久しぶりに会う人から
初めてお話しさせていただく先輩方まで
毎日、毎日、いろんな刺激に出会いながら、
充実した時間を過ごさせてもらっている。

もうすぐ仕事をするために、山梨にもどる。

でも、たぶん
すぐに山田に帰ってくるような気がする。
なぜなら、、、



「私は、山田が好きだから。」

この町で過ごして改めて感じた、この気持ち。

いつか帰る、いつか山田に貢献する。
酒に酔った私の、定番の口ぐせ。

そう言いふらして、もう10年が過ぎた。
というより、すでに次の10年が始まっている。

「いつやるのか?」
その問いに、ずっと答えを持ち越していた自分がいる。

今日、11年目の3.11を迎えた。
毎年、この日に、自分の人生を振り返り、自分自身に問いかける。

今度こそは、胸を張って言える。
もう一度、自分に問いかけてほしい。


「いつ、やるの?」



・・・

・・・・・

・・・・・・・・



「長らく、お待たせしました。
 いまから、やります。
 みんなで力を合わせて
 素敵な町を作っていきましょう。
 みなさん、応援をよろしくお願いいたします。」


2022.3.11 遠藤 史哉

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