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ものかきのおかしみと哀しみ

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2019年11月の記事一覧

羊とヤギをめぐる冒険(八重洲地下街2019)

羊とヤギをめぐる冒険(八重洲地下街2019)

朝、起きたらヤギになっていた。

これが12月のある朝なら、ちょっとした短編小説のはじまりにもなる。だけどそれは11月の終わりのある朝で、残念なことに12月にはまだ少し早かった。やれやれ。

11月の終わりのヤギは物哀しい。人々はウールのリブ編みセーターなんかを着はじめる。街には少しずつ羊たちが増える。けれどもヤギの姿は見当たらない。

でもまあヤギはそういうのに慣れてる。とくに何も思わず、指定さ

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細胞と歩く

細胞と歩く

僕という人間が歩く。呼吸をして、細胞のひとつひとつをこぼさないように引き連れて歩く。

ときどき、僕は立ち止まる。細胞のひとつひとつを僕はのぞきこむ。

眠ったままの細胞や、日差しを浴びてすっかり寛いでいる細胞やこんなにいい天気なのに、なにか考え事をしたまま難しい顔をしているやつまで、いろいろだ。

歩きながら僕は思う。

僕みたいな人間のところで暮らさなくても、他にもっといい場所なんていっぱいあ

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成功が終わる

成功が終わる

本を書く仕事してると、世の中の大きな流れがなんとなく見える。というか感じる。

目の前はこんな感じだけど、全体の大きな方向性としてはこっちに向かってるなというもの。いわゆる大局観とか呼ばれるやつ。

素早い流れはウェブメディアなんかに関わってるほうがつかめる。書籍メディアにスピード感はそこまでない。

その代わり、ゆっくりでも確実にこういう方向に向かってるなというのはよくわかる。

書籍の世界はす

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いつだって大事なことがある

いつだって大事なことがある

朝起きて、あ、きょうは学校より大事なことがある。直感的にそう思う日があった。中高生の頃の話。

学校なんか行くよりカメラを持って歩きたかった。

その日その時にしかない光と風を捕まえたかった。うまく言えないんだけど。

べつに学校が嫌いなのでもない。好きでもなかったけど。

ただただ根源的なところから、いまこれを感じてたい、できれば捕まえたいと思ったのだ。本当は捕まえるなんてできないのもわ

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裸の王様になりたい誰かのはなし

裸の王様になりたい誰かのはなし

何かがどうにかなって権力者と呼ばれる人たちを取材することがある。稀にだけど。

どんな世界のどういう権力者なのかはオープンには書けないのだけど、まあそういうこと。

で、べつにその「権力」にあまり興味はない。だから僕なんかのところに話がくるのかもしれない。

それも、僕が出会うことが多いのは晩年の権力者だ。いろんな意味で。

権力の絶頂にいるときには僕クラスの人間なんて遥か下なのだから出会わなくて

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この時代に紙の手帳をあえて買う理由

この時代に紙の手帳をあえて買う理由

来年の手帳を買った。

この時代に紙の手帳? と思う人もいるかもしれない。

自分でもあえてだよなぁと思わないでもない。けど白熊書店から毎年出ている『ライター手帳』が便利でずっと愛用してるのだ。

何文字書いたかのバーチカル記録、締め切り逆算カレンダーとかの使い勝手がよくて手放せない。ページをめくると白熊がスケートしてるパラパラ漫画になってるのもかわいい。

というのは妄想でそんな手帳ないしあった

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山崎まさよしと彷徨う街

山崎まさよしと彷徨う街

歌詞に出てくる地名が好きだ。それも、あまり出て来なさそうな地名だと胸にくる。

そんな、エモい歌詞でもなくてただの地名だよ? そう思われるかもしれない。それに、地名が出てくる歌なんて珍しくないし(演歌って地名多いよね)、どこに好きポイントがあるんだろう。自分でもよくわからない。

たぶん、地名のスケールが大きすぎないほうがいい。「東京23区」や「首都圏」とか大きな地名を歌詞で言われてもそんなに響か

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何かはじめる前の憂鬱

何かはじめる前の憂鬱

なんだってそうなのだ。何かはじめる前は気が重い。

べつに大したこととか嫌なことじゃなくても、やり慣れたことでもいまからこれをやるのかと思うと少し憂鬱になる。

じゃあ、やりたくないのかと言えばそうではない。本当に心の底からやりたくないことなら、そもそも「はじめる」リストにも入らない。

やりたい、やってもいいこと、なんならわりと楽しみにしてることでも「はじめる前」は楽しみよりも「重た

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寄り道したいだとか

寄り道したいだとか

寄り道が好きだ。ある場所からある場所へ。最短距離がわかっていても、どこかで逸れて寄り道したくなる。

おかしいなと思う。せっかく近道を探したのに。いや近道を確認できてるからこそ安心して寄り道したいのかもしれない。

この前も期せずして寄り道をしてしまった。隣町に用事があって車で走っていたらいつもの近道が通行止になっていた。台風被害で橋が落ちたのだ。

知ってはいたけど、たしかすぐ側に迂回路があった

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人の顔を覚えられなくて、こんなことになってる話

人の顔を覚えられなくて、こんなことになってる話

なんてやつだと思われるかもしれない。けど、ほんとにそうなのだ。

初対面の人の顔を覚えられない。すごく自覚があったわけでもなく、そういえばそうだよなというレベルで。

だからって開き直ってるわけでも、困ったと深刻に悩んでるのでもなく、ただただ事実としてそうなのだ。

一度だけどこかで会ってあいさつとかしてるはずの人でも55%ぐらいの確率で覚えられない。ひどい。

2度目なのに「はじめまして!」を発

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つまみ食いの人生

つまみ食いの人生

ずっと原稿とばかり向き合ってると、ときどきダウナーがふわっと被さってくることがある。ほんと、不意にだけど。

べつに仕事が進まないとか、書く気が起きないとかではなく。いや、なんなら原稿は順調に進んでたりする。体力的にはそこそこ消耗はしてるけどそこは問題じゃない。

原稿がちゃんと進んでいて、仕事としても問題ないレベルをクリアしている。傍目には何も問題なさそうな状態。なのに、なんでだろうと自分でも思

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税務署でパーティーすること

税務署でパーティーすること

カクテルパーティー効果と呼ばれるものがある。雑然と騒がしい空間でも、誰かが自分の噂話をしてたり、興味のある話題をしてると、そこにピタッと指向性が向いて自然に話が聞き取れてしまうっていうやつ。

あるよなぁ、とは思う。ただカクテルパーティーって何なんだ? とも思うけど。「今度カクテルパーティーあるんだけど」みたいな話は聞いたことがない。

まあでも僕に縁がないだけで巷ではそこら中でやってるんだろうな

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仕事だけして生きられるのか問題

仕事だけして生きられるのか問題

東京は仕事に最適化された街だよね。誰が言ってたか忘れたけど、そんな言葉を聞いたことがある。

そうだよな。自分も東京にいたときはそれやってた。

端的に言えば、仕事はものすごおおおくしていたけど「生活」がなかった。生活がないってどういうことか。「サンマ」がないのだ。

サンマというのは、もちろんあのサンマ。秋になると(もう秋終わるけど)脂がのってじゅうじゅうと焼かれて殿さまが所望する、あのサンマが

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☆note365日更新続けても何も変わらなかった話

☆note365日更新続けても何も変わらなかった話

noteのボーナスステージは終わった。

この記事を読んで悲しい気分になる人もいるかもしれないけど、あまり書いてる人もいないので書いておきたい。

もちろんこれは僕個人の、それも影響力「スダチ3個分」程度のただのライターごときが「そう思って」「そう感じた」だけなので読み飛ばしてもらっても全然構わないのだけど。

一時期noteを毎日更新続ける勢がなんかフォーカスされてるというのがあった。

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