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ものかきのおかしみと哀しみ

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すれ違った人たち
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2019年5月の記事一覧

刺激を減らしたほうが退屈しないんじゃないか

刺激を減らしたほうが退屈しないんじゃないか

「ゴールデンウィーク、やることなくて退屈ですよ」そんな声がちらりと聞こえてきた。そうか、退屈なのか。

どうも、世の中的には「退屈」は良くないものみたいだ。退屈な自分は早々に消し去って、何かでリア充させないといけないし、退屈な場所に人は近づかないように気を付けている。

もう少し大きな意味でも退屈は何かとネガティブな扱いを受ける。退屈な人生とか、一緒にいても退屈な人とか、田舎は退屈じゃないの? と

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好きです、この街

好きです、この街

日本人は(壮大すぎる主語)羞恥心が強いとか、思っていても口には出さないとか、ステレオタイプな論があるけどそんなことはない。

むしろ「言葉」に関しては割と恥ずかしいことも平気なんじゃないかと思う。愛の告白だってそうだ。

この前も、ある街を歩いていて目の前に《好きです、この街》とだけ描かれた看板が現れた。いきなりの公衆の面前で愛の告白。いくらなんでも大胆すぎる。誰がそんなに想いを募らせたのだろうか

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作者の気持ちを作者は答えられるのか?

作者の気持ちを作者は答えられるのか?

「君たちはそれぞれの鼻毛に背負わせすぎなんだ」

武田砂鉄さんのエッセイに出てくる名文。2018年末の『タモリ倶楽部』の企画「作者の気持ちを作者は解けるか?」で、現代文の入試問題を解く中で出題されてバズってました。

この文章がいまだに僕の中ではじわってて。

鼻毛を伸ばしっぱなしの友人と作者(鼻毛を切る側の人)とのやりとりから生まれた「鼻毛に背負わせすぎ発言」について入試問題では、発言の意味とし

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ヘブライ語の中の彼女

ヘブライ語の中の彼女

「思うんだけど、人生をヘブライ語の辞書か何かのように考えてない?」

ヘブライ語? 僕は驚いて彼女の顔を見る。

「たとえばの話」

彼女は、つまらなさそうにそう言うと、道端の小石をぽーんと蹴ってまた歩き始める。

遥か上空をいく飛行機のくぐもった音が、彼女を追い越すように聞こえてくる。

「なんかさ、あなたといるとすごく難しい問題を解かないといけない気がしてくるの。重たいのよ。こんなふうに言うの

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ショコラティエは名前が高い

ショコラティエは名前が高い

「チョコってなんであんなに値段高いんだろね」

地下鉄に乗ってたら、溜池山王から乗ってきた女性3人組のひとりが突然、そんな会話を始めた。

「そうだよねー。高いよね」

他のふたりも同調している。それにしても突然だなと思いながら、なんとなく気になってしまう。

「伊勢丹のなんだっけ、チョコがタイルみたいに敷き詰められてる店」
「あるよね、あるある」
「ゴージャスなとこ」

僕も脳内で伊勢丹(たぶん

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裏テーマを持つ

裏テーマを持つ

仕事でも個人的なことでもそうだけど「やることは決まってる」のに気持ちがうまく乗ってこないときってある。ないですか?

能力が努力がなんて話じゃなく、どんなレイヤーのどんなレベルの人だってあると思う。僕だってあるし、これまで話を聞かせてもらった様々な分野の「何か成し遂げた人」だってそれぞれあった。

ただ、それでも物事を前に進められる人と、うまくスイッチが入らないままになってしまう人は何は違うのか。

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耳なし芳一スーツ

耳なし芳一スーツ

ある仕事の絡みでスーツ販売店に行くことになった。よくあるセレクト系のプライスラインが固定された店のひとつだ。

その店は新業態のテストケースとして、店内で体形を三次元測定し、そのデータを工場に送って「本当に体形に合ったスーツ」を数日で届けるサービスをするのだという。

まあ、べつにすごく目新しいわけではない。ゾゾスーツみたいなものなんだろう。それでも、なぜかその店に出向いて体験してほしいと言われた

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僕の荷物は滑り続ける

僕の荷物は滑り続ける

ここはどこだろうと思ったら、大型トラックが引っ張るトレーラーコンテナの中だった。

コンテナの積荷は空になっている。僕は旅をしているのだろう。バックパックしてきた荷物(といっても、使い込んだリュックサックがひとつだけだ)を背中から下ろしてコンテナに無造作に置き、僕はそのままどこかへ行ってしまう。

トレーラーの運転手の姿も見えない。僕は、もうすぐ大型トレーラーがどこかへ(恐らくは次のターミナルに荷

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