わたしの笑顔は鬼の顔 〜赤面症について知ってほしいこと〜 (2023.9.1)
人と話すことが好きです。
ですが大勢の前で発表することが嫌いです。
緊張します。震えます。その何よりも一番嫌なことは、わたしの顔が鬼のように真っ赤になることです。
幼い時から、わたしはこの『個性』に悩まされてきました。
日記を書きましょう。
学校の特別授業で、英語でのプレゼンテーションがありました。
今回は本番ではなく練習で、全20グループ中、くじ引きで選ばれた4グループが発表する形です。わたしたちのグループは見事発表権を引き当てました。
嘘でしょ? とわたしは思いました。
嘘ではありません。
わたしは視聴覚室の前方に立たされました。
担任教師たち。ALT。国際科生徒。そしてこのために特別にきてくださったプレゼンテーションの講師の方。
合計90名近くが、わたしの視界に広がります。
そしてみんな、わたしのことを見ています。
痛い、とわたしは思いました。
視線が、とにかくひりひりする。
この生徒たちは、以前わたしが話したことのある知り合いたち。仲のいい人も大勢います。中には知らない人や話したことのない人もいないわけではないですが、基本はみな仲間のはずです。
でも、わたしにはその視線が痛い。
あ、これは。
顔が赤くなりそうだな、とわたしは思いました。
そう思った途端、顔の辺りに熱気を感じました。
顎から耳元、額にかけて、顔が火傷をしたように痛いのです。
汗をかいたわけでもないのに、服の中がムシムシとします。感じたことのないゾワゾワが表皮を覆って気持ちが悪いです。
そんな状態で行われたわたしのプレゼンは、もちろんうまくいくはずもありませんでした。
全員がわたしの顔を見ている。わたしのことを、あ、この人めちゃくちゃ緊張してるんだなと思っている。他の人と比べられている。呆れられている。見放されている。
わたしの頭は真っ白になり、言おうと思っていたセリフは何もかも消えてしまいました。
違う、違うんです。
わたしは別に、極度の緊張しぃというわけではないんです。
そりゃ、全員の前で発表をするんですから、緊張くらいはしますけれど、でも別に人一倍に張り詰めてしまうわけではありません。
この赤い顔は、緊張の結果発現するものではないのです。
過去の経験に基づき、「あ、このシチュエーション、わたし顔赤くなりそうだな」という瞬間はなんとなくわかります。
それで、「頼むから赤くならないでくれ」と思った瞬間に、それを裏切るかのように、わたしの肉体は発熱してしまうのです。
わたしの意に反して、わたしの予想のままに、顔は赤くなります。
その顔を見られるのが、本当に、嫌いだ。
それが、怖いのです。
発表することは恥ずかしくないはずなのに、感情に関係なく赤面が訪れる。それを見られるのが嫌で、パニックに陥ってしまう。
原理的な話をしましょう。
あくまで推測に過ぎませんが。
わたしは昔からほとんど汗をかかない体質で、体温調節の機能がまるでなく、体に熱を内包してしまいます。
そのため、運動した時には焼け爛れたように赤面してしまいますし、冬に暖かい部屋に入った時にも焦がれたように赤面します。また、焦った時にも爆発したかのように赤くなります。
ふつうの人がかくらしい『冷や汗』という現象も、わたしは経験したことがありません。
その汗は体内で暴発し、内出血のような熱を引き起こすだけです。
それが赤面です。
しかしこれは単なるきっかけでしかありません。
幼い頃のわたしには、このせいで、「自分は顔が赤くなりやすい人だ」という自認がありました。それから次第に、「赤い顔を他人に見せたくない」と思うようにもなりました。
その結果、教室で手を挙げて発表する時や、自分がなんらかのミスをした時など、自分が赤面しそうなシチュエーションをなんとなくわかるようになってきました。
そこで、「赤面したくない」と思います。
赤面します。
どうして?
さあ、知りません。
何も知らない人たちは、わたしの顔を見て、「なんでそんなに顔が赤くなるの?」と指摘してきます。理解できないようです。
わたしも理解できません。なぜこの人たちがそんなに顔が赤くならないのかが。
いえ、やっぱり理解できます。
あなたたちも理解してください。
これは、体質なんですよ。
ふつうの人が100恥ずかしポイントで顔が紅潮するのなら、わたしは5恥ずかしポイントで真っ赤になる、それだけのことなのです。
たとえ恥ずかしくなくても、顔だけで損をする体質なんです。
勘違いされたくないのですが、むしろわたしは、目立つのが好きです。顔が赤くならなければ。
クラスの人気者のように、もっとワイワイと騒ぎたいと思う、そんな年頃なのです。顔が赤くならなければ。
去年、高校一年生の前半から中盤にかけて、わたしにもそんな時期がありました。
ですが、どうしても大勢から注目されることが無理でしたね。恥ずかしくはならない。でも、赤面するのが怖くて赤面をする。
今では教室でひとりですよ。
重ね重ね言いますが、わたしは人付き合いが苦手なわけではないのです。
クラスでお弁当を食べる友達もいますし、一緒に登下校をする友達もいます。遊びに行く友達もいますし、気軽に冗談が言い合える友達もいます。困った時に悩みを相談しようと思える親友もちゃんといます。
女子とも男子とも、知らない人とも、話すのは苦痛ではありません。
人を好きになったこともありますし、好きになってくれたひともいます。ありがたいことに。
でも、この顔を理解してくれた人はいません。
誰も原理を理解しません。
生まれてから何度も繰り返してきた会話。
顔赤っ!
…………。
なんでそんなに顔赤いの?
体質です。
何がそんなに恥ずかしいの?
違うんですよ、恥ずかしいとかじゃなくて、これこれこういう理由があって……。
ああ、そうなんだ。じゃあ「顔が赤くならないでくれ」とか思わなければいいじゃん。そんなこと念じてる人いないよ?
違うんです。
全部体が悪いだけなのに。
どうして誰も理解してくれない?
心配してくれる人や、優しい言葉を投げかけてくれる人、そんな人には今まで一度も会ったことがありません。
あなたもそうですか?
これがただの甘えだって思いますか?
今回のわたしの大失敗には、仲のいい人たちも、みんな内心呆れていることでしょう。
情けないやつだな。
なんであんなに恥ずかしがるんだ
違うんです、と言っても無駄ですね。
悪いのはわたしです。
他人事なんですから他人事で当たり前でしょう。わたしの病気は、わたしが努力をして治すべきなんですから。
小学生の頃から、本やインターネットを使って対処法を調べてみました。
信頼できそうなソースから信頼できなさそうなネットの壁の落書きまで、ありとあらゆる情報を試してきました。
でも、一向に改善の兆しは見えません。
にたくなりますよ、本当。
普段結構ポジティブなわたしでさえそう思うくらいです。
でも、それほどの悩みだって言ったら、それはそれでみなさん笑うのでしょうね。
どれだけくだらないことで悩んでるんだって。
子 生の は いですよ?
ビ から げ した身 と じくらい。
ぺ ゃ こに れて ま ます。
困ります。
このままじゃ来月の修学旅行、シンガポールで行う本番のプレゼンテーションを突破できるわけがないじゃないですか。
将来の大きな失敗も、今から見えてきます。
面接なんてマジで にますね。
対処法、自分で試してだめなら、しかるべき機関を受診するべきでしょうか。
ネットで調べていろんな手段を試してみたと言いましたけれど、私はまだ、信頼できるプロの大人にご相談するということをしたことありませんでした。
こういうのって精神科じゃないんですよね。
たしか、心療内科でしたっけ?
それとも、どこか民間のカウンセラーさんに相談するべきなんでしょうか。いずれにせよ、わたしの経済状況では受診できそうにありませんが……。
できれば、両親にはバレたくありませんので。
それこそ顔から火が吹き上がるくらい恥ずかしくなります。
帰国子女の友達は、アメリカじゃちょっと悩みがあればみんな気軽にカウンセリングを受けていると言っていましたけれど、日本にはそんなのないですもんね。認識も精度も。
本気で心配されてしまいます。本気で心配するのはわたしだけで充分です。
両親を困らせたくはありません。
いえ、それよりも、そうだ、わたしは高校生。
スクールカウンセラーさんを受診してみましょう。
たしか無料ですし、わたしの友達にも利用者がいます。どのような方かは存じませんが……プロなんですし、信頼できる大人でしょう。
何とかこの鬼のような顔を直してくれると良いのですけれど。
まあそれを期待して、今日からの新生活に臨みましょうか。
他人の目を気にしながら。後ろ指を差されながら。
誰にも理解されない、泣いた赤鬼のような生活を。
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