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ロンドン滞在日記 4日目:犬が苦手な人はいないことになっている

YMSビザで在英中のパートナーに会いにロンドンを訪れた際の、およそ2週間にわたる旅の記録です。コラムともエッセイとも言えないようなただの日記なので、どうぞ気軽に読んでください。
1日目:なんでこんな映画見たんだ
2日目:まだ飛行機に乗っているのか
3日目:木で鼻をエルメス(塩対応という意味のことわざ)


ぴょんこぴょんこと駆ける犬

朝の9時、今日は下宿先の犬・モモ(シベリアンハスキーとシェパードとラブラドールのミックス)の散歩担当の日だ。パートナーが下宿するに当たって与えられた数少ない条件が、週に何日かモモを散歩に連れていくことだからだ。前日に買っておいたスコーンとクロテッドクリーム、ジャムをコートのポケットにねじ込み、モモにハーネスを着けてまだ肌寒い外へ出る。

Battersea Bridgeの上から見たテムズ河沿岸の風景
テムズ河でよく見かけた家と船が一体となったハウスボート。
住宅難民やAirbnbでの貸し出し、近年は
高学歴なミレニアルズの利用も増えているとか

この日の散歩は、旅行者である私の観光も兼ねて普段は行かないエリアへ行き、テムズ川沿いの遊歩道のようなところでボール遊びをすることに。モモはこのボール遊びが大好きらしく、我われが放り投げたボールを追いかけてキャッチしては、戻ってきて得意げにドロップする、というのを飽きもせず繰り返し、尻尾をぶん回している。

ボールを投げられるのを今か今かと待つあまり、
投げる前からすでにもう走り出している犬。
ちなみにパートナーはムスリムなわけではなく、寒すぎるのでこの格好

一緒に走ってあげるとさらにご機嫌で、「ぴょんこぴょんこ」というオノマトペがよく似合う駆けまわり方をする。口を開けてハッハッと言っているときが笑顔に見えてかわいい。

散歩を終えていったん帰宅した後、14時頃から再びモモを連れてお出かけ。Battersea Parkというこれまた広大な公園に行ってみる。

ここロンドンでは、犬は盲導犬や介助犬でなくてもバスに乗ることができる。モモはバスが好きらしく、いつもおとなしく揺られている。

ロンドンを走る2階建てのバス。犬も一緒に乗れる
2階建てバスからの眺め。
わざわざ屋根のない観光バスに乗らなくても
公共のバスで十分”2階建てバス欲”は満たせてしまう

それに、公園や遊歩道ではハーネスからロープを外して放し飼いにしても問題ないくらい、モモはお行儀がいい。ダダーッと駆け出すことはあるが、しばらくするとこちらを振り返って行きすぎないように待っているし(かわいい)、他の犬がしたおしっこの匂いに気を取られても、こちらが無視して歩いていると置いてかれないように必死で追いかけてくる(かわいい)。他の犬にちょっかいをかけて吠えたりしないし、知らない人間にもほとんど警戒せずされるがまま撫でられている。

その従順な感じは非常に愛らしいが、言い換えればそれだけ厳しくしつけられているということでもある。

身の丈に合ってない大きすぎる枝をくわえて離さない犬。
歯が折れたり顎が外れたりしそうで
見ているこちらが心配になるが、本人は至ってご機嫌

犬への信頼が優先される国、不安が尊重される国

モモが犬の中で特別おりこうさんかといったら決してそんなことはない。ご飯の選り好みは激しいし、トイレは家人の誰かにアピールして中庭に出してもらわないとできないし、一人で留守番もさせられない(そのために下宿人を募集しているふしすらある)。

朝ごはんのカリカリの餌をあまり食べたがらずに残す悪い犬。
一家の主・Pさんが甘やかして人間用の肉を
食卓からよく与えるので、贅沢な子に育ってしまった

夫のPさんが溺愛しているせいもあり、どちらかといえばかなり甘やかされているほうの犬だ。そのモモでさえ、ロープなしでも安心して放しておけるくらいには、「人間の言いつけは絶対」の教えが染み付いているのだ。

その軍隊を思わせる規律主義、主人との上下関係を徹底する家父長制気質に、若干引いてしまう自分もいる。野生の犬の性質がもともとそうなのだから仕方ないのだが、猫くらい気ままでいてくれた方がこちらとしてもラクだなと、猫派の私としてはそぞろに思うのである。

これは完全なる憶測だけど、日本人って私のような「猫飼いマインド」の人が多いせいで、犬のしつけがやや甘いところがある気がする。だって、日本の公道で犬を放し飼いにしてたらそっちのほうがマナー違反で、放し飼いに不安や恐怖を覚える人の気持ちが尊重される傾向にあるだろう。それって根底にあるのは「とはいえ犬って、無駄に吠えたり、うっかり人を噛んだりするでしょ?」という犬のしつけに対する不信感だと思うわけ。

一方、少なくともここロンドンでは、犬というのは当然厳格にしつけられてあるものだ、という信用がベースにあるため、放し飼いが当たり前のムードが漂っている。特に何のことわりもなく犬連れOKの飲食店は多いし、街行く人々もかなり無警戒に犬に声をかけたり撫でたりしてくる。

もちろん、アラブ系やアフリカ系の人の中には、宗教上の理由もあって露骨に犬を怖がったり嫌がったりする人もいる。しかし、基本的には社会全体がドッグフレンドリーで、犬が苦手な人の権利があんまり尊重されてない感じがするのである。

きちんとしつけられた犬への信頼のほうが優先されるイギリスと、しつけの甘い犬への不信感のほうが尊重される日本。この違いが何か重要な国民性の違いを象徴している気がしてならないのだが、いまいち言語化できずにいる。

猫にそっくりな飼い主のペアを見つける神経衰弱

Battersea Parkのそのまた先に、Battersea Power Stationという元は発電所だったのを改築した商業施設があり、そこは犬連れOKなのでモモと一緒にショッピングを続行する。

発電所だった建物の外観をそのまま生かしたショッピングモール
中はこんな感じ

海外で書店を見かけると、つい立ち寄りたくなる。ヒットしている本のラインナップはもちろん、カバーのデザインから何から日本とはまるで違うので、見ているだけで楽しいのだ。日本人作家の小説が翻訳されていたり、コミック売り場を日本の漫画が占めていたりすると「へえ、こんな人が」と興味深い。

だが、いかんせん英語が読めない。もちろん時間をかけて辞書を引きながらであれば読めるのだろうが、「ざっと店を流し見する」程度では、並んでいる本が何についてのどんな本で、どんな読まれ方・売れ方をしていて、どんな雰囲気なのかといった、いわゆる「書店の空気」をぱっと把握することができないのだ。

そこで畢竟、英語が大して読めなくても直感的に理解できる子供向けの絵本や、仕掛けのあるアートブック、カードゲームなどばかり見てしまうことになる。その中に、さまざまな品種の猫と、そのビジュアルにそっくりな飼い主のペアを見つける、神経衰弱の要領で遊ぶ絵合わせゲーム「DO YOU LOOK LIKE YOUR CAT?」を見つけて、面白そうだったので購入してみた。

書店の一角に必ずある、さまざまなカードゲームのコーナー。
神経衰弱の要領で絵合わせをする「メモリーゲーム」と呼ばれるジャンルが多く、
猫と飼い主以外にも、犬と飼い主、犬とその幼犬、動物とその足跡など多くの種類があった

いったいぜんたいどんな人たちを集めたパーティーのときにこのカードゲームで遊べばいいのか皆目見当がつかないが、カードゲームとは得てしてそのセンスのよさ、アイテムとしての珍しさを見せびらかすために持つものであって、実際に遊ぶかどうかはさして重要ではないのだ。

うちの本棚にはすでに、「ムー公認オカルトかるた」や、世田谷にある福祉事業所のメンバーが自分たちの精神障害の症状をかるたにした「幻聴・妄想かるた」、エドワード・ゴーリーの猫の「メモリーゲーム」、同じくゴーリーが不吉なタロットカードばかりを描いた「不安な箱」などがある。今回買った「猫と飼い主の神経衰弱ゲーム」も、きっとうちの本棚を潤してくれるだろう。

モモは、ショッピングモールの中でも機嫌よくいい子にしていた

いただきの そのまたいただき チョコエッグ

帰宅してモモを置いてから今度はチェルシーへ行き、いくつかのスーパーを巡ることに。街は来たるイースター(復活祭)に向けて盛り上がっているらしく、どこのスーパーやデパートに行っても必ずイースターコーナーが設けられ、チョコエッグやウサギ型のチョコが売られていた。

イギリスの高級スーパーPartridgesのイースターコーナー。
日本でいうと成城石井的なところらしい。
チョコエッグがでかいったらない

いま「チョコエッグ」と書いて思ったのは、日本でチョコエッグといえばそれはフルタ製菓のチョコエッグであって、これって本場イースターのチョコエッグとは無関係なのだろうか?という疑問だ。調べてみたら、そもそも欧米にイースターのチョコエッグをモデルにした「キンダーサプライズ」という中におもちゃの入った卵型のチョコがあり、フルタ製菓はそれをパク…もとい参考に「チョコエッグ」を生み出したらしい。

面白いのはそこからで、フルタ製菓はあの海洋堂と組んで動物コレクションなどノンキャラクター(無版権)のフィギュアを作っていたんだけど、あるときフルタ製菓が満を持してディズニーキャラクターの版権を獲得し得意満面になっていたところ、「無版権にこだわって成功してきたプライドと矜持を売り渡したんかてめえ」と反発した海洋堂が、フルタ製菓と決裂して契約を解消。それ以降、海洋堂の動物コレクションはタカラの「チョコQ」に引き継がれた…という経緯があったのだとか。

まあ、長々とウィキペディアで読んで得た聞きかじりの情報を流用してしまったが、結局それってイースターのチョコエッグからのいただきの、そのまたいただきじゃないか、という印象は禁じ得ない。もともとある国の伝統行事の一環としてあったものを、まったく関係ない別の国が、そのままの名前で形だけを借りてしれっと売り出してるものなんか他に例があるだろうか。

ベトナムに、エビとパクチーとビーフンを海苔巻きにした「エホウマキ」があるだろうか。イタリアに、ナスやきゅうりでフェラーリのスポーツカーを作り、死者を最速でお迎えする「ムカエボン」があるだろうか。アメリカに、おはぎにお線香を享年の数だけ差した「デスデー・ケーキ」が……って、もういいか。わざと的外れな例えを言うのがシュールで面白いと思ってしまうのは、私の感覚がずれているのだろうか。

ともあれ、他の伝統行事に比べて特にキリスト教色が強いイースターは、ハロウィンとは異なり日本でイベントとして定着するハードルは高そうだ。職場で「義理チョコエッグ」が配られるとか、恋人同士がうさぎグッズを送り合うとか……まあ、あながちやらないとも限らないから日本は恐ろしい。

これを混ぜて焼けばブラウニーができますよ、という「Brownie Baking Mix」。
イモムシを食品のキャラクターにするのは日本にはない発想だが、
ここMarks&Spencer(イギリスの高級スーパーのひとつ。日本でいうといかりスーパーか)では
イモムシ型のチョコロールケーキが名物らしい

晩ご飯は、下宿先のA子さんが作ってくれた、トマトソースパスタの上にナスのオーブン焼きが乗ったもの。おいしいが、おかわりを勧められてたらふく食べてしまい、マジで動けなくなった。(つづく)

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