見出し画像

ロンドン滞在日記 3日目:木で鼻をエルメス(塩対応という意味のことわざ)

YMSビザで在英中のパートナーに会いにロンドンを訪れた際の、およそ2週間にわたる旅の記録です。コラムともエッセイとも言えないようなただの日記なので、どうぞ気軽に読んでください。
1日目:なんでこんな映画見たんだ
2日目:まだ飛行機に乗っているのか


チェルシーはさながら西麻布?

一人で海外まで来た疲れがどっと出たのか、昨日からさっそく軽いだるさがあり風邪っぽい。こういうのは引きはじめの対処が肝心なので、イギリスの市販の風邪薬をパートナーから分けてもらった。

こちらの市販薬は日本のものと比べて有効成分が3倍近く入っているらしく、服用したらみるみるラクになっていくような気がした。というのも、保険制度の関係でイギリスでは病院に行くということが結構ハードルの高いことらしく、一般庶民はたいていの不調は市販薬で乗り切るのだという。

日本の手厚い国民皆保険制度のありがたさに遠い異国の地で思いを馳せつつ、とはいえ、日本の市販薬ももっと有効成分をぶち込んだストロングスタイルであれかし、とも切に思う。

パートナーの下宿先の家では、全員で食卓を囲む夕飯のとき以外、キッチンにある食材や作り置きの料理は好きに食べていいらしい。実におおらかなシステムだ。今日の1食目は、昨晩の魚介餡をごはんにかけた中華丼もどきをパートナーと2人で食べた。

食べ終えた食器も、流しか食洗機の中に入れておけば、1日おきにやってくるハウスキーパーさんが片付けてくれるのだという。かなり至れり尽くせりである。

昼過ぎからのそのそとでかけ、King's Road沿いをしばらく歩くといわゆるチェルシーと呼ばれる地区になる。「ほーら、チェルシ〜♪ もひとーつ、チェルシ〜♪」の、あのチェルシーだ。

パートナーいわく、ここは都内でいうと「夜遊び要素のない西麻布的な街」とのこと。「チェルシー」という名前のおしゃれイメージが一人歩きしていて有名だが、実体は高級住宅地という側面が大きく、じつは最寄り駅というものが存在しない点も西麻布と似ているのだとか。

確かに、これといって観光地というわけではなく、もちろんバタースカッチキャンディの工場もない。これぞイギリスという家並みが続くなかを、人々が淡々と生活している。

ハロッズ近くの、いかにもロンドンらしい街並み
見るだけで目においしい映えスイーツ。
質実剛健なイメージのあるイギリス食だが、
もちろんこういうのもたくさんある

コインケースだけ見せる暇はない

さらにそこからSloane St.へ進むと、「カドガン・スクエア・ガーデン」という庭園が右手に広がり、そこから先はシャネル、バレンチノ、ドルガバ、ブルガリ、ディオール、グッチ、ルイ・ヴィトン……などなど、あらゆるハイブランドの路面店が立ち並ぶKnights Bridgeというエリアになる。

カドガン・スクエア・ガーデンに佇むシュールな像。
女性に張り倒されて男性が吹っ飛んでいるようにも見える
落ち葉溜まり放題の階段すらなんだか情緒ありげ
(たぶん手付かずのまま誰も掃除してないだけ)

イギリスはブレグジット(EU離脱)のときに免税制度を廃止するという強気の姿勢に転換したので、イギリスでブランド物を買いあさるメリットは特にない。実際、買い物目当ての観光客は多くがフランスやイタリアに流れているようだ。

にもかかわらず、通りを歩くとハイブランドの大きな紙袋を提げている人たちがたくさんいる。つまり彼らは、TAX FREEで得しようなどと思う必要のない、ただただ純粋に欲しいものを欲しいから買うことができるガチの富裕層ということだ。

我われも試しにエルメスに入って、入口の案内係に「コインケースが見たい」と言ってみたものの、待てど暮らせど店員をつけてくれる気配がなく、上客であろう人たちの対応に手いっぱいでなんの案内もされない。

そういえば、コインケースと言ったときの案内係の対応が、心なしか木で鼻をくくるような態度だった気がするし、そう思い始めたが最後、なんだか鼻で笑っていた気すらしてきた。なんだよ、冷やかしで来た庶民はお断りってか?
笑ったり木でくくられたり、この忙しい鼻め!
冷たく無愛想な態度をあらわす「木で鼻をエルメス」ということわざをでっちあげて末代まで語り継いでやる!

……と、すっかり被害妄想モードになったので、何も見ずにすごすご退散した。

エルメスのディスプレイ。
海をモチーフにしていること以外よくわからないし
後ろの建物がバリバリ映っていて邪魔だが、なんかまあかわいい

ピカデリーサーカスはさしずめ渋谷

お次は、そんなハイブランド通りの突き当たり、地下鉄Knights Bridge駅からすぐのところにある「ハーヴェイ・ニコルズ」というデパートへ。

ロンドンのデパートといえば高級デパートの「ハロッズ」が有名だが、ここはハロッズからほど近いところにありながら、それよりはいくぶんカジュアルで規模も小さいので、気軽に回りやすいとのこと。

オリジナルブランドのおみやげも充実しているので、ここで缶のデザインがかわいいお茶やチョコレートなどを複数購入する。上階にあるカフェで紅茶とキャロットケーキを食べて足を休めてから、さらにがんがん歩いていく。

ハーヴェイ・ニコルズで見つけたトンチキな服
オリジナルブランドの変わり種ソース

Knights Bridgeの通りをハロッズとは反対側に歩いていくと、地下鉄Hyde Park Corner駅に到着。「ハイド・パーク」はロンドン市内に8つある王立公園のひとつで、地図で見るだけでも引くほどバカでかいことがわかる。東京にも新宿御苑や代々木公園といった広い公園は存在するが、ロンドンはもっとこう、都市部と緑とがシームレスにつながって共存している気がする。知らんけど。

たぶん今、私は生まれて初めて正しい「知らんけど」の使い方が自然にスッとできた気がする。それも知らんけど。

ハイド・パークのあまりの巨大さにひよったので、ハイド・パークと「バッキングガム宮殿」をつなぐ「グリーンパーク」を少しだけ経由し、ロンドンの中でも中心部にあたるPiccadilly Circus周辺をしばし散策することに。

パートナーいわく、ここは都内でいえば「渋谷みたいな雰囲気」。確かに人の流れが先ほどよりも明らかにゴミゴミしてきたのを感じるし、歩いている者たちからもどこかヤカラ臭がするというか、「兆楽で豚しゃぶチャーハン食ってきた顔」をしている。そして私は、どうせバレないと思って勢いで嘘を書いているのかもしれない。そこら辺はさっぴいて読んでほしい。知らんけど。

観光地ナイズドされたアーケード街や、Centre for British Photographyという写真のギャラリーで開催されていた女性写真家を集めた企画展などを見て回り、さらには「キャス・キッドソン」の旗艦店や、「フォートナム&メイソン」の本店で買い物をした。

装飾品や土産物の店が立ち並ぶアーケード街

鉄砲玉のような旅はもうできない

近くにはナショナル・ギャラリーや王立芸術院、数々の劇場などもあるようだが、今日はまだ街の下見程度に留めておくことにする。そんな余裕ぶっこいた姿勢でいられるのは、2週間という比較的ゆったりとした滞在期間のなせるわざだ。

もうすぐ40歳、嫌いな言葉は「弾丸旅行」である。もう若くないので、そんなヤクザの若い衆がカチコミをかけに行くみたいな血気盛んな旅はしたくない。あと、シンプルに響きがださい。「マンモス大学」とか「電撃入籍」に並ぶ言葉のだささだ。「爆弾低気圧」という言い方もなんとかならなかったのかと思う。仕事の話に「全員野球」って言葉を使う人も大概うっとうしいが、それはまた別の話だ。

しこたま歩いて疲れたので、帰りはバスで帰宅。iPhoneのアプリによると、私は普段は1日平均4000歩程度しか歩いていないそうだが、この日はさすがに1万歩を超えていた。歩け歩け大会のようにひたすら歩いた。パートナーが日本にいるときはよく散歩に出かけていたが、今はその機会が減ってさらに歩数が目減りしているはずだ。1日中家にいて動かない日など、ひどいときは1日100歩に満たないこともあるので、この旅行期間で一気に平均歩数を稼いでおきたいと思う。

そういえば、「歩け歩け大会」もかなりキツい言葉だ。「歩け歩け」と2回繰り返しているのがもうスベッているし、そもそもなんで「歩け」と命令形なのか。「歩こう大会」じゃだめだったのか。「振り込め詐欺」も最初に聞いたときはなぜ「振り込み詐欺」にしないのかと思ったものだが、慣れとは恐ろしいもので今やなんとも思わなくなった。それでも「振り込め振り込め詐欺」とは言わなかった節度を、「歩け歩け大会」は平気で踏み越えてくる。じゃあなんだ、「さけろさけろチーズ」か。「ふえろふえろわかめ」か。私はなんでこんなことで文字数稼ぎをしているのか。

晩御飯は、チキンの丸焼きと野菜のグリル、クレソンのサラダなどが用意されており、これまたおいしい。でかいオーブンがないと成立しないメニューがホイホイ出てくるのは、さすがヨーロッパの立派な家庭のキッチンはスケールが違う。

今日は、ひたすら行った場所を羅列するだけで、あまり面白みのない日記になってしまった。この先も、精力的に出かけた日と、息切れして家にこもっていた日とで、情報量に露骨にムラのある連載になるだろう。そして、情報量の薄さをどうでもいい言葉遊びで埋めることになると思う。「歩け歩け大会」とか言い出したら用心してほしい。(つづく)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?