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ロンドン滞在日記 1日目:なんでこんな映画見たんだ

YMSビザで在英中のパートナーに会いにロンドンを訪れた際の、およそ2週間にわたる旅の記録です。コラムともエッセイとも言えないようなただの日記なので、どうぞ気軽に読んでください。


子泣き爺のような負担を抱えて

とにかく荷物が重い。

白い大きめのスーツケースと、黄土色の小さめのスーツケース、さらに昨年スペインに行ったときアウトレットモールで買ったLONGCHAMPのチーズ柄のトラベルバッグと、JIBというヨットのセイルクロスを材料にしたバッグメーカーのトートバッグ。
しめて4つが、今回の私の旅の荷物だ。明らかに持ちすぎている。

荷造りの際、飛行機の預け入れ荷物であるスーツケース2つを規定の重量内に収めるために、機内への持ち込み手荷物(トラベルバッグとトートバッグ)のほうに重いものを優先して詰め込む、というじつに本末転倒な作業をしていた。
結果、パンパンに膨れ上がった手荷物2つを抱えて機内に持ち込む羽目になってしまった。
肩に斜め掛けすると、鎖骨が折れそうなほど重い。子泣き爺を背負うのってこんな感じかなあ……と、空想に逃避しそうになる。

子泣き爺、あれはおそらく昔の人が、老人介護の負担の重さ、あるいは姥捨の罪悪感を具現化しようと生み出した妖怪だと思ってるんだけど、みなさんはどう思いますか?
私がなぜ子泣き爺に思いを馳せてしまうほど重い荷物を背負っているのか。
それは、海外に2週間の長期滞在をするせいだけではない。

在英中のパートナーに会いに

YMSというワーホリのビザでロンドンに滞在している私のパートナーに会いに行くのが、今回の旅の目的である。
正確に言うと、YMSはいわゆるワーキングホリデーとは異なり、フルタイムの就労が可能なビザで、最長2年間滞在できるものなのだが、ここでは詳しい話は割愛する。
とにかく、毎年ものすごく抽選倍率の高いYMSにパートナーがダメもとで応募したところ、うっかり合格してしまい2年間離れて暮らすことになったのが事の始まりなのだ。

私が遊びに行くことを当てこんで、半年分の荷物しか持っていかなかった彼女のために、春夏の衣服や追加で必要になった日用品、家にあった化粧品、日本からのおみやげ(カップラーメンなど)などの大量の荷物を、私がたんまり持っていく役目を仰せつかったのである。

実は、出発まで仕事が終わらずに昨晩は一睡もしていない。
旅のときはいつもこうだ。余裕を持って準備を終えられたためしがない。
国内旅行なら出発当日の朝に荷造りを慌ててすることもざらにあったし、今回はさすがに事前に入念な荷造りをしていたつもりが、前々日になってどうしたって重量オーバーになることが判明し、冒頭に書いた機内持ち込みを重くするという不毛な詰め替え作業をギリギリまでやる羽目に陥っていたわけだ。

正直、空港に着いた時点でけっこうヘトヘトであった。
1学期終わりのちびまる子ちゃんのような気持ちで、荷物を持て余していた。荷物が重いと、それだけで機動力はもちろん、冷静な判断力や注意力まで奪われてしまうのだが、これって私だけだろうか。

パソコン3台にヘッドマッサージャー、ヨガのフォームローラー、サンダル、
とらやのようかんなどが入った機内持ち込み手荷物。バチクソに重かった。
ぬいぐるみはパートナーが幼少期から持つライナスのスヌちゃん

高所にいる人が見たらいけない映画

今回の旅程は、まず成田から8時間飛んでマレーシアでトランジット、そこで乗り継ぎに6時間待って、そこからロンドンまでさらに14時間のフライトを耐えなければならない。
本来なら即座に寝るべきだが、連載をしている「GINZA」の原稿に書き直しが発生したのでそれに手をつけなければならず、機内では何度もぼーっとしたり、うたた寝を繰り返しながら、なんとか原稿を仕上げた。

その合間、以前に予告を見て何となく気になっていた『FALL』という新作映画がオンデマンドに入っていたので、ながら見をしていた。
恋人をロッククライミング中の落下事故で失った女性とその親友が、なんでか知らんがその傷から立ち直るために2人で地上600mのテレビ塔に登ろうということになり(本当になんでだよ!)、案の定、登頂したところで登ってきた階段が老朽化していて壊れてしまい、2人はてっぺんに取り残されるという、「だから言わんこっちゃない」としか言いようのないサバイバル・パニック映画だ。

1平方メートル程度しかない鉄塔の先で、ただでさえほとんど残されていない打つ手がどんどんなくなっていく息苦しさは、極限のパニックものとしてなかなかに新しかった。
途中、見るのを中断して作業に没頭していたり、寝落ちしてしまったりで要所要所を見逃していたら、終盤になって「え、そういう展開?」という急旋回を見せてあたふたと終わった。
ちゃんと見てたらあのオチに気付けたのかもしれないが、巻き戻して見返す気にもならないのでほったらかしておく。

機内で見る映画なんて、温泉のようになんとなく浸かるように見るもんだ。ほったらかし温泉だ。

とかなんとか言っていたら、モニターに表示されるマレーシアまでの「飛行距離」のカウントダウン表示を、途中までなぜか「高度」の表示だと勘違いしてしまい、「え、なんかみるみる低くなってるけど、これ大丈夫?」と、かなり長いあいだ不安でドキドキしてしまった。
ちょっと考えれば高度じゃないとわかりそうなものだが、たぶん『FALL』を見ていたせいで気が動転したんだと思う。
よくよく考えたら、こんな高いところにいるときに見るような映画じゃなかった。

これが我慢できるなら戦争もやめられる

それにしても、飛行機に乗るたびに思うのは、「機内食ってなんでいつまでたってもおいしく進化しないの?」という素朴な疑問である。

あの独特の近未来感というかディストピアSF感というか、均質に並べられたトレイとアルミ箔が醸し出すインダストリアルな雰囲気に、自分がクローン人間かサイバー囚人になった気がしてしまうのだ。
サイバー囚人ってなに?という疑問はこの際ねじ伏せてほしい。私も適当に言ってるんだから、見逃してくださいよ。

とにかく、機内食ってお世辞にもおいしいとは言えないでしょ。なんか、1000年後の未来に現在の食事を情報として残すために、タイムカプセルに埋めておく用に作った食事、みたいなクオリティでしょ。

でもあれは、大勢にシステマティックに配膳しなきゃいけない、ある程度保存が利かなきゃいけない、高度変化による気圧の影響を受けないものにしなきゃいけない…といった諸々の厳しい条件下、現代の食品加工技術の粋を集めてやっとあのクオリティなんだよね? だからまあ仕方ないよね、と思ってこっちもおとなしくモシャモシャ食べてるわけですよ。

だけど、考えてみたらあれを世界中のどんな人種やどんな気性の人も、文句を言わずおとなしくモシャモシャと食べてるってすごいことじゃないか?
ていうか、あの機内食を我慢して食べられるなら、お前ら戦争とかもやめられるだろ、と思う。

…と、そんなふうに考えていたのだが、どうやら聞くところによると、ファーストクラスでは全然もっといい普通の食事だって出るらしいじゃないですか!
え? じゃあなに? あの機内食って技術的においしく「できない」んじゃなくて、わざとおいしく「してない」ってこと?
上限は決まってるから、ランクをつけるためにわざと下のほうはまずく作ってるってことなのか? もう誰も信じられねえ。

マレーシアのラウンジで日本のコントを見る

機内食の理不尽さに気付いてしまったところで、飛行機は7時間のフライトを経てマレーシアのクアラルンプール国際空港に到着。
現在17:30。ここから乗り換え機が出発する23:30まで、実に6時間やることがない。

でも、私には楽天ゴールドカード会員のプライオリティ・パスがあるため、隣接するホテルのラウンジを無料で使えるのだ。すべてパートナーから言われるがまま取得した受け売りの情報である。
おかげで、ビュッフェスタイルのフリーフードを満喫したり、使っていいのか悪いのかわからない電源タップから電気を拝借してフル充電したり…と快適だった。

とはいえ、早々にすることがなくなったので、コントプロジェクト「画餅」の第2回公演「ホリディ」の配信動画を見るなどして、日本にいるのと変わらない時間を過ごす。

ちなみに「画餅」とは、コントユニット「テニスコート」の神谷圭介さんが、別で立ち上げたコント演劇のソロプロジェクト。公演は3本の短編からなるおよそ90分の上演時間で構成されている。
空港の税関で、海に散骨するために持ち込んだ義母の遺骨を、違法薬物と勘違いされて押収されてしまう…という1本目のスケッチがめちゃくちゃ面白くて、一気に心をつかまれた。
しかも、その設定と登場人物が3本目のコントにも微妙につながっている。
神谷さんは、いつも絶妙な設定を思いつくなあ。

まだロンドンに着かないどころか、マレーシアからも出ていない。
こんな旅日記に果たして需要はあるのだろうか。不安になりながらおずおずと、しかし、おめおめと続けてみたい。(つづく)

クアラルンプール国際空港に隣接するホテルのラウンジ。
「利用は3時間まで」となっていたが、チェックインし直せば
永遠にいられたので、結局6時間居座り続けた
ビュッフェではフリーフードが取り放題。
肉料理からハラルフードまでアジア〜中東の料理が幅広くあるし、
コーヒーやシュウェップス、アイスも食べ放題だった

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