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するっと紛れ込むSF─『女子高生、リフトオフ!』

女子高生の森田ゆかりは、16年前ハネムーン先で失踪した父親の消息を求めて、ソロモン諸島・アクシオ島を訪れた。そこで出会った「ソロモン宇宙協会」の所長、那須田と名乗る男は、父親捜しを手伝うかわりに、ゆかりを協会にスカウトする。そこには、軽量化を余儀なくされたロケット打ち上げのため、小柄で体重の軽いゆかりを飛行士に採用しようという協会の思惑があったのだが…。

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野尻抱介氏の作品はあまり読んだことなく『南極点のピアピア動画』くらいなのだが、どちらの作品も現実にするっとSF的要素を紛れ込ませ近未来を表現していて非常に読みやすい。


女子高生といえば、最近では『宇宙よりも遠い場所』が思い出される。
こちらは「宇宙」ではなく「南極」目指す話なのだが、どちらの作品も通例はその場にいない「女子高生」をキーにして話が進む。

『宇宙よりも遠い場所』は女子高生たちが「南極」を目指すために奮闘する部分をドラマチックに描く作品なのだが、本作ではなし崩し的に宇宙飛行士にされたゆかりの葛藤を描く。
とはいっても暗い話ではなく、極端に戯画化されたキャラクターたち(突如として失踪しある部族の酋長となっていた父親や事故の頻発もものともしないマッドサイエンティスト的な研究員など)が軽妙にセリフを掛け合いながらするすると物語が進んでいくのが心地よい。

この作品が書かれたのは1995年。今では民間の宇宙開発が盛んになっている。当時ではあまり考えられなかったことだろう。民間の宇宙開発が進み、本当にこの物語のように一般人だった人たちが晴天の霹靂のごとく宇宙飛行士になる、なんて未来がきてしまうのだろうか。
今だからこそさらにリアリティが増し、想像が膨らむ作品でした。

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