都市開発事業と運営・エリアマネジメント─『202X URBAN VISIONARY Vol.3』

三井不動産、森ビル、三菱地所、東急など一度は名を聞いたことであろう大手デベロッパーが一堂に会するイベント「202X URBAN VISIONARY Vol.3」を聞いてきたので、簡単にメモをば。
イベント概要は下記より

モデレータ・MCは
ライゾマティクス・アーキテクチャー主宰の齋藤精一氏
noiz 共同主宰/gluon 共同主宰の豊田啓介氏
日経 xTECH・日経アーキテクチュア編集委員の山本恵久氏
春蒔プロジェクト株式会社 代表取締役/co-lab企画運営代表の田中陽明氏

齋藤氏が長年温めていたという本企画は

●世紀の東京大改造中!→全体像、どうあるべきか、見えない。
開発事業を横断した共創の場が必要
●VISIONARY=妄想
クリエイターの妄想力は現状打破する力があるのでは?
この妄想力で未来の都市ビジョンを構想
→都市を俯瞰した新しい軸が見えるのでは!

という主旨のもと、シリーズの企画として開催されています。

第3回となる今回のテーマは「都市開発事業と運営・エリアマネジメント」
近年多く聞こえるようになってきた「エリアマネジメント」。それぞれの取り組みを聞き、なぜ都市開発事業者自身がエリマネを行うのか、都市を運営するとはどういうことなのかが議論されました。

※筆者解釈の個人的・断片的メモなので,事実誤認等ありましたらご指摘ください


それぞれのエリアマネジメント

まずはフリーセッションに入る前に各デベロッパーがそれぞれどのようなエリアマネジメントの試みをしているのか語られた。さくっと紹介。

─三井不動産の場合(日本橋)

日本橋で進めているエリアマネジメントの説明。
まず大きな目的としての「地域価値と企業価値のwinwinな関係」。
2004年「COREDO日本橋」開業から進めている日本橋の街づくり「日本橋再生計画」は第3ステージへ。「共感・共創・共発」の3つに重点を置いて、「豊かな水辺の再生」「新たな産業の創造」「世界と繋がる国際イベントの開催」に取り組んでいるとのこと。


─森ビルの場合(六本木・虎ノ門)

森ビルは六本木ヒルズのような「街全体」をすべて管理している企業とも言える。そこで、同企業は「タウンマネジメント」という表現を使ってきた。街づくりの理想、都市のグランドデザイン、街のコンセプトを定めながらハードとソフトをどちらも動かしていくことで「街の鮮度」を保ってきたのが森ビルである。
そして、タウンマネジメントによって培ったブランディングのノウハウを広げていくことでエリアマネジメントに繋げていくとのこと(虎ノ門・麻布台プロジェクト)。


─三菱地所の場合(大丸有)

大丸有地区の1/3あまりのエリアを保有している同社はいわば130年前からエリアを意識したまちづくりを行ってきた。
その大きな枠組みとしてビジョン、ルール、手法の策定を行うまちづくり懇談会とまちづくり3団体(地権者の集まりであるまちづくり協議会、ソフト面を推進するNPO法人・リガーレ、R&D的な役割を担うエコッツェリア協会)があり、それらによって強固な基盤、実働的な運営能力、新規テーマのチャレンジ力を備えた総合的なエリアマネジメントを推進しているとのこと。
つい先日には「丸の内NEXTステージ」が発表されている。


─東急の場合(渋谷)

渋谷の開発が目覚ましい東急はエリアマネジメント組織「SHIBUYA +FUN PROJECT」を紹介。生活文化の発信拠点として「遊び心」を大切に実践を行っているという。
ここでは民間主導で広告のあり方や道路空間の利用、サインの統一、Wi-fiの整備などさまざまな実践に取り組んでいる。また、広告によって得た収益を還元する、東口地下広場の運営など、仕組みの面でもさまざまな取り組みを進めているとのこと。後発である渋谷は上述の各社が取り組んできた事例を参考にしながらエリアマネジメントを進めているらしい。


これらの発表を受け田中氏はクリエイターが都市運営に関わることの重要性を語る。そして、そのためには「用途間連携によるエリアブランディング」「コワーキングがエリマネのエンジンに」「開発企画段階からクリエイターが運営に関わる」ことが必要であり、それによって個性ある街ができるのではないかと語る。

齋藤氏はトヨタが街をつくることを発表したようにさまざまなセクターの境界があいまいになっているが、その中心には人間とは何か?幸せとは何か?と言ったヒューマンセンターな部分に思想が戻ってきていると話す。また、THE SHEDのようなドネーションベースのプロジェクトが日本ではなぜできないのか、モントリオールのようなクリエイティブ特区が日本ではなぜできないのか、事例をあげながら日本だからこそできるエリマネのあり方について問い、フリーセッションへ。


フリーセッション

─エリマネは囲い込み型からシステム型へ、単体から全体へ、地域の課題解決から価値創造へ

まず司会の豊田氏はそもそもなぜエリアマネジメントが近年話題に上がるようになったのか、歴史的な経緯を問う。

エリアマネジメントはもともとはデベロッパーにとっては不動産の価値を上げるための囲い込み戦略であったと言える。そもそもこの言葉は和製英語であり、海外では使われていない。そして、この言葉が一般的になったのもここ3,4年の話だと各社から語られる。
特に2008年の国土交通省によるエリアマネジメント推進マニュアルの策定、などをきっかけとして広まっていったとのこと。また、2002年にエリマネ組織を立ち上げた三菱地所の藤井氏は、その大きな要因として規制緩和をあげる。それにより道路が具体的に使えることが大きな変化だったそう。
また、エリアマネジメントに注目が集まる背景としてオフィスビル自体がコモディティ化していることがあると語る。すでに標準のスペックはほとんどのビルで担保されてしまっており、顧客はビルの商品性ではなく機会があること、つまりアクティビティに価値を求めるようになってきたのも大きな変化と言える。

こうした変化はひとつの建物に閉じるだけだったのものからスケールが広がり、システムをつくる、また地域の課題解決から価値創造に移行してきているのではないかと分析される。
一方で、エリマネ自体はビジネスにならないのではないか?その持続可能性はどのように担保されるべきかが話される。


─エリマネの効果測定が必要ではないか?

たとえば、エリアマネジメントによってそのあたりの不動産の価値が上がったのか、そうした因果関係は測ることはできていない。また、欧米のBIDでもそうしたKPIの証明はできておらず、来場者が何人だったなどの事実ベースの報告がほとんどとのこと。そのために会社内のアテンションを上げるためには他社がどんなことをやっているかがベースになるという。
かつては不動産という分かりやすい受益があった中で、不動産会社がやることに対しての受益者は離散化している。しかし、先述のように定量分析になじまないエリマネで受益がどこにあるのかを明らかにするのは難しい。
そこで、コスト部門とプロフィット部門を分けるなど、各社はさまざまな方策を取ることでエリアマネジメントを成立させている(森ビルはソフトの運営だけでも事業を回せるように収支のバランスを取っているそうだが)。

●エリアの価値を測る仕組みの開発の必要性
そうした状況に対し、斎藤氏はエリアの価値を測る仕組みを開発した方がいいのではないかと語る。
そもそも日本は効果測定がめちゃくちゃ下手(どころかしてない。PDCAのPDCで止まってる)。それに加え、既得権益が定量化することで明らかになってしまうのを嫌がる。そんなことブレーキがかかるのはもったいない。
エストニアやバルセロナ、インドなど成功事例として扱われるところは効果測定をきちんとやって、既得権益をクリアにしている。また、そこにクリエイティブな人が介在し、ゆらぎを取れるような仕組みを設けることが必要。
そのために必要なのは、

・クライテリアをしっかりつくること
・小さくてもいいからまずデータを取ること、そして分析の仕組みを開発するR&Dの機能が必要
→エビラボのような事例があるので、ライトなことから取り組み始め、広域に繋げる方法もある

であると話す。


─インセンティブは何を?

これまでは「税金・補助金・容積」が重要視されてきた不動産業界。
特に2002年の都市再生特別措置法に関連した公共貢献による容積率緩和などは定番のメニューとなっている。しかし、これからの時代に容積率だけがインセンティブになるのだろうか?それぞれがどういうインセンティブをもらえるといいのか語られた。


日本橋では「ライフサイエンス」という新しい領域・産業を取り入れることで東京の構造図を変えるのに繋がりそうなマーケットの違いが見えてきているという。
もともと薬問屋の街であった日本橋にはアステラス製薬などの大企業が集約している。そこに三井不動産はドライラボとしてさまざまな薬系の事業者を集めた。その結果、低レベルであれば試験管での実験が行えるようなウェットラボもできるようになってきているという。しかし、用途地域の問題でウェットラボが許容するレベルにも限界がある。ライフサイエンスの拠点が集積し、安全性を担保できるのであれば、そうした用途の制限を取り外すことで、エリアとしてのさらなるアップデートが期待できるだろう。


大手町と言えば金融。三菱地所は大手町ビルなどの既存のビルを利用して、海外のフィンテックカンパニーを呼び寄せている(FINOLAB)。

また、そこには日本のメガバンクの拠点も置かれるほか、メーカーテック系の企業が入居する「Inspired.Lab」を設置。

さらにはMICEの誘致、日本最大のフィンテック&レグテック カンファレンス「FIN/SUM」をサポートすることで、SXSWのような街を挙げた活動を行なっている。

やはりそうした時には既存の都市開発諸制度や画一的な用途の振り方が枷になるという。また運用していく中での変化にすぐ対応できるようなランニングで効いてくるインセンティブのあり方も必要だと語る。

他にも道路的なものをつくることで、「道路」をつくることが免除できる(「道路」となることで運用開始後の利用のハードルが上がってしまうため)など、かなり現実的な面から「さまざまな」インセンティブのあり方の必要性が話された。

これらを実現するには行政的な仕組みの変革が何かしら必要になってくるのだろう。豊田氏も行政と民間がシームレスになっていくことについて触れた。これについては『次世代ガバメント』を参照できる。


●コンテンツの強さがエリマネに繋がる、そして連携させることの重要性
齋藤氏は改めてクリエイティブな人が関わっていくことが大事だと語る。
たとえば、森ビルがチームラボと企画したボーダーレスは入場客のかなりの人数がインバウンドであり、その場所を目的としている。

そうした場所の魅力をつくるひとつのきっかけとしてコンテンツが存在している。そして、そのコンテンツがエリマネに繋がる。
たとえば、コンテンツが揃ってくれば時期を合わせて東京全体で連動したイベントをやることができる。そうした連携は東京全体のブランディングの向上にも繋がるだろう。
やはりそのためには各社同士の強い連携が必要なのだろう。


感想

筆者は仕事柄、再開発の案件などを取材することはありますが、そうした時にエリアマネジメントの評価は非常に難しいと感じています。
まず、エリアにはエリアごとの課題があるので、単純比較は難しいです。また、多様なステークホルダーを集めていること自体に価値を見出し、そこで終わってしまっているエリマネも少なからず見受けられるように感じます。
そうした時に齋藤氏が問うような「エリマネの効果測定」は非常に重要な視点です。この効果測定さえ実現すれば、そうしたエリアごとの違いをスキップした本質的な部分でのノウハウの共有にも繋がるのではないかと思います。

また、質疑応答で「それぞれの経験や知見を交換する場があるのは良いことだが、過去の知見がそれぞれの企業内で整理されていない、または閉じた情報のままになっているのではないか」という意見が上げられました。
確かに今回のイベントでは(時間の制約もあると思いますが)、現在取り組んでいる事例が紹介されたに過ぎず、それぞれの企業が積み重ねてきた知見はあまり見えてこなかったことは否めません。高度経済成長期において、現在の都市の地盤をつくってきた先達の話をストックしてフローすることは確かに重要なことだと思いました。

このレクチャーはシリーズものであることが重要かと思いますので、継続的な議論がなされるのが醍醐味。次回も勉強させていただきます!

この記事が参加している募集

イベントレポ

コンテンツ会議

サポートして頂いたものは書籍購入などにあて,学びをアウトプットしていきたいと思います!