吹上裕樹

社会学の研究をしています。ここでは文楽・宝塚を中心に観劇の感想や考えたことなどを記して…

吹上裕樹

社会学の研究をしています。ここでは文楽・宝塚を中心に観劇の感想や考えたことなどを記していきます。

最近の記事

つづき 星組公演『JAGUAR BEAT』について 〜ショーと芝居の違いをふまえて〜

先の記事で「JAGUAR BEAT」に「よくわからない」ところがあると書いた。そう感じてしまう最大の要因は、ショーにしては珍しくストーリー仕立てになっているにもかかわらず、物語の筋や登場人物のキャラクター(性格や行動の動機)が少なくとも舞台を見ただけはよく理解できないところにある。この点について、芝居とショーの違いを踏まえて検討していく。 一般に、芝居においてはストーリーを通じてある種の思想や理念を伝達することが意図される。たとえば「ディミトリ」であれば、「勇気とは何か?」

    • 【観劇メモ】星組公演『JAGUAR BEAT―ジャガービート』について

      『ディミトリ』の感想を書いてから随分間があいてしまった。先日、東京宝塚劇場での千秋楽公演のLIVE配信を視聴したので、あらためて『ジャガービート』についても記しておきたい。 大劇場で観劇したときは、正直なところ、この作品をどう評価したらよいのかよくわからなかった。しかし、何度かの観劇とテレビや配信での視聴を重ね、この作品との”向き合い方”のようなものがわかってきたように思う。 作・演出の齋藤先生のショーは、こだわりの強さ、クセの強さに定評(?)があり、ファンの間でもかなり

      • 【観劇メモ】星組公演『ディミトリ〜曙光に散る、紫の花〜』を観る

        宝塚大劇場で『ディミトリ』(生田大和脚本・演出)を観た。13世紀ジョージアを舞台とする歴史物である。今回、幸いなことに3回(後で述べるように新人公演を含めると4回)観劇することができた。最初に簡単にあらすじを紹介する。 ***** タマル女王時代に繁栄を極めたジョージア王国。現在はその息子ギオルギが統治している。ルスダンはギオルギの妹にあたる。主役のディミトリはイスラム教国であるルーム・セルジュークの第4皇子であるが、「人質」として少年の頃からジョージアに預けられていた。

        • 私の記憶が確かなら〜宝塚歌劇と私〜

          今回は、私が宝塚歌劇に魅了されるようになった理由について書いてみたい。宝塚を観はじめて約10年になる。ただ、本格的にハマりだしたのは、後でも書くように当時星組2番手だった紅さん(紅ゆずる)に出会ってからなので、“宝塚ファン”としての経験はまだまだ浅い。以下に記すことは、あまりに個人的な、ほとんどの人にとってどうでもよい話である。けれど、どんな作品であれ観たものへの評価は観た人のそれまでの経験(経歴)と切り離せない。作品への評価を公表する以上、どんな人間によって評価がなされてい

        つづき 星組公演『JAGUAR BEAT』について 〜ショーと芝居の違いをふまえて〜

          宙組公演『High&Low The Prequel』(観劇メモ)

          宙組公演の『High&Low』を見た。とても面白かったので、ひと言感想を記しておきたい。『High&Low』は原作含めほとんど予備知識がなかった。しかもこの日は、2階奥のB席で遠目からの観劇だったため、誰が何の役をやっているかも、あとからパンフを買って確かめるまでほとんどわからなかった。それでもこの作品の世界観はビシバシ伝わってきた。 物語というか「設定」について最初に少し触れておく。およそ架空の都市(しかし東京の下町風ではある)において、5組の不良グループが覇権をめぐり競

          宙組公演『High&Low The Prequel』(観劇メモ)

          【観劇メモ】星組公演『めぐり会いは再び next genetation―真夜中の依頼人』を観る(前半)

          久々に観劇記事を投稿する。私事ながらこの4月からある大学でしばらくお世話になることになり、授業の準備やら何やらで記事を書く余裕がなかった(…と言いながら、この間も観劇には出かけていたのであるが。雪組公演『夢介』を人生初めてSS席で、それも実質最前列で観ることが叶ったり、珠さまのコンサートに参加したりしていた)。 さて、星組公演である。非常に楽しみにしていた公演であったのだけれど、コロナのせいで公演が途中からストップ。観に行く予定だった公演も1つは中止になってしまう。それでも

          【観劇メモ】星組公演『めぐり会いは再び next genetation―真夜中の依頼人』を観る(前半)

          【観劇メモ】月組公演『FULL SWING!』を観る

           先に書いた『今夜ロマンス劇場で』の記事につづき、同じ日に観たショー『Full Swing!』(三木章雄作・演出)について記したい。三木先生の作品を大劇場で観劇するのは初めてだと思う(近年では早霧せいな・咲妃みゆのお披露目公演を手がけているが、私は録画でしか観ていない)。ベテラン作家による作品であり、やや食傷気味というファンもいるかもしれない。私も一度みただけではピンとこない場面もあった。しかし、3回の観劇を経て、見れば見るほど味わいが増す、独特の魅力をもったショーであること

          【観劇メモ】月組公演『FULL SWING!』を観る

          【観劇メモ】月組公演『今夜、ロマンス劇場で』を観る

          1月15日の午後と22日のやはり午後の公演を観劇することができた。月城かなと・海乃美月のトップコンビ大劇場お披露目公演である。前回の花組公演からお披露目が続いている。今回は年始のお正月公演でもあり、おめでたい気持ちがいっそう高まる。 15日の公演では、開演前のトップスターによる「あけましておめでとうございます」から始まるアナウンスを初めて聞くことができた。調べると、年始から松の内の期間のみ聞くことができるそうだ(今回は、15日の公演が最後だったよう)。そういうことを知らなか

          【観劇メモ】月組公演『今夜、ロマンス劇場で』を観る

          【観劇メモ】『The Fascination!』を観る

          2021年11月19日と26日、宝塚大劇場で観劇する。先に『元禄バロックロック』の感想を書いてからずいぶんと時間が経ってしまった。忘れてしまったところも多く、印象に残っている場面を中心にざっくりした感想を書いておこうと思う。 「花組誕生100周年 そして未来へ」とサブタイトルがあるように、2021年は花組と月組が誕生してちょうど100年に当たる記念の年だという。メインタイトルの「fascination」は「魅力」や「魅惑するもの」を意味する英語である。タイトル通り、過去の花

          【観劇メモ】『The Fascination!』を観る

          【観劇メモ】『元禄バロックロック』を観る

          2021年11月19日と26日に宝塚大劇場で花組公演を観る。1回目・2回目ともに秋晴れの宝塚。行きの阪急電車の窓から色づいた山々を観ることができた。 さて、久しぶりの花組公演。柚香光と星風まどかのトップコンビによる大劇場お披露目公演である。脚本・演出の谷貴矢にとっても大劇場での演出家デビュー作である。今回、ポスターの出来が素晴らしく、初日の幕が開く前から、ネット上などで評判になっていたが、舞台そのものも期待を裏切ることのない出来だった。 物語の舞台は架空の時間軸に存在する

          【観劇メモ】『元禄バロックロック』を観る

          【観劇メモ】星組公演『柳生忍法帖』を観る

          『モアー・ダンディズム!』の観劇メモを先にあげてから時間が経ってしまった。その間に2回、3回、4回と観劇を重ねてしまう。初見の時は緊急事態宣言下のため、大劇場の食堂、カフェ等はすべて営業休止中であったが、その後は食堂やカフェが営業を再開し、劇場に以前の活気が戻ってきた。 余談だが、入口付近の「フルール」から漏れる食堂の匂いが、初観劇時からの私の宝塚大劇場の印象を決定づけている。この匂いがすると劇場に来たという感じがする(こんな風に食堂の匂いが迎え入れてくれる劇場が他にあるだ

          【観劇メモ】星組公演『柳生忍法帖』を観る

          【観劇メモ】『近松心中物語』を観る

          長塚圭史演出の『近松心中物語』を兵庫県立芸術文化センターでみる(2021年10月8日/10月10日)。『冥途の飛脚』をはじめとした、近松門左衛門のいくつかの心中物をもとに、秋元松代がつくりあげた戯曲である。昨年(2020年1月)同じ作者による『常陸坊海尊』を、やはり長塚の演出でみて、強い印象を受けた。このときはじめて秋元の作品に触れたのだが、長塚の演出も素晴らしく、同じ作者、同じ演出家ということで、今回の上演が発表されたときから期待していたのである。 開演とともに舞台奥に設

          【観劇メモ】『近松心中物語』を観る

          【観劇メモ】『モアー・ダンディズム!』を観る

           宝塚大劇場で上演中の星組公演『柳生忍法帖』と『モアー・ダンディズム』を観た。9月24日と10月5日の2回の観劇をもとに感想を記す。『柳生』の方も感想をアップする予定であるが、こちらの方がとにかく早く書いてしまいたかった。  本当に美しいショーで、夢中になってみてしまった(ので、途中で記憶が飛んでいるところもある)。私がこれまでみてきたショーの中でほとんどベストワンである(ほとんどというのは、紅ゆずる退団公演の『エクレール・ブリアン』が私の中で殿堂入りしているからで、これだ

          【観劇メモ】『モアー・ダンディズム!』を観る

          【観劇メモ】第24回 文楽素浄瑠璃の会を観る

          2021年8月21日、国立文楽劇場で「素浄瑠璃の会」を観る。「素浄瑠璃の会」を観るのは2回目である。文楽は2016年から観るようになっていたが、素浄瑠璃は敷居が高い気がして、なかなか観にいく決心がつかなかった。人形の芝居がつかないので、太夫の語る言葉と三味線の演奏だけを頼りに物語を追うことになるわけで、まだまだ(今でもだが)文楽に慣れていない身としては、退屈してしまうかもしれないと恐れていたのだ。 その後、思い切って2018年にはじめて参加した。その時のパンフレットが残って

          【観劇メモ】第24回 文楽素浄瑠璃の会を観る

          宝塚だから許されないのか、宝塚だから許されるのか

          先に投稿した観劇メモで『シティハンター』と『Fire Fever !』の一部に引っかかるところ、残念なところがあると書いた。ここではその点について述べたいと思う。 まず、『シティハンター』についてである。一部の直接的な表現は差し替えられているとはいえ、宝塚版でも主人公・冴羽獠の数々のセクハラ行為(好みの女性をみると見境なくお尻を触ったり抱きついたりする)がほぼそのまま演じられている。しかし、獠によるセクハラ行為の描写については、この演目がコミック作品の舞台化であること、80

          宝塚だから許されないのか、宝塚だから許されるのか

          【観劇メモ】雪組大劇場公演「シティハンター」「Fire Fever !」を観る

          新トップコンビ・彩風咲奈と朝月希和の大劇場お披露目公演である。『シティハンター』を中心に観劇の感想を記していく(2021年8月14日15時公演)。 停滞する前線の影響で地域によっては朝から交通機関に影響が出ているようだった。宝塚についた頃にはすでに雨は小降りになっていて、劇場は客で溢れかえっていた(雨でテラスが使えなかったためもあるかもしれない)。最初の演目『シティハンター』は、人気コミック/アニメ作品の舞台化ということで話題を呼んでいる。土曜日ということもあるかもしれない

          【観劇メモ】雪組大劇場公演「シティハンター」「Fire Fever !」を観る