【観劇メモ】雪組大劇場公演「シティハンター」「Fire Fever !」を観る

新トップコンビ・彩風咲奈と朝月希和の大劇場お披露目公演である。『シティハンター』を中心に観劇の感想を記していく(2021年8月14日15時公演)。

停滞する前線の影響で地域によっては朝から交通機関に影響が出ているようだった。宝塚についた頃にはすでに雨は小降りになっていて、劇場は客で溢れかえっていた(雨でテラスが使えなかったためもあるかもしれない)。最初の演目『シティハンター』は、人気コミック/アニメ作品の舞台化ということで話題を呼んでいる。土曜日ということもあるかもしれないが、いつもより男性客が多い印象を受けた。男女のカップルに限らず、複数人の男性グループも見かけたので、今回の上演作のために初めて来場した人も多くいたのではないかと思う。

『シティハンター』は私も小さい頃アニメ(再放送だったか?)でみていたので、作品の雰囲気はある程度知っている(でもストーリーはほとんど忘れてしまった)。初日が開ける前から、主人公の「品性に欠ける」ところのある振る舞いを、どう宝塚の範囲内で処理できるかに注目が集まっていた。

一方、私としてはこの作品が宝塚として上演されることに納得がいくところもあった。主人公・冴羽獠のハードボイルドな面は文句なしにカッコよい。また彼は、一見女にだらしないとみえる(というか事実そうである)が、パートナーの槇村香に対しては、プラトニックな「純愛」に近い関係性を大事にしている。そうした獠の多面性をうまく描くことができれば、宝塚にとってふさわしい魅力的な作品になるかもしれないと思った。

実際に観てどうだったか。一回の観劇の感想であるが、生徒らの役作りの努力のためもあり、およそ見応えのある作品に仕上がっていたと思う。

彩風は手足がスラッと長く、2次元のキャラクターでも違和感なく再現してしまう。ただ、冴羽獠はコスチュームにそれほど特徴がないので、以前演じたことのある『ルパン三世』のときの次元大介、『るろうに剣心』のときの斎藤一に比べ、パッと見た目だけでそのキャラクターだと思わせる説得力には欠けていたかもしれない。その分、動きや表情で冴羽獠らしさを出そうと工夫していたように思う。槇村香を演じた相手役の朝月も同様に見た目だけで寄せるのは難しいため、セリフと動き、そして「最凶」の100tハンマーを(文字通り)武器にして役になりきっていた。

ミック・エンジェルの朝美絢は美しく、銀橋を渡るたびに目が引かれた。よく響く歌声も魅力に感じた。彩みちる演じる野上冴子は香役の朝月とは好対照のセクシーさを強調した役作りで、獠を手玉にとる様子が面白かった。役として一番ハマっていたのはおそらく海坊主を演じた縣千である。見た目の特徴がわかりやすいので得をしていると思うが、元々のしっかりした身体つきが海坊主のコスチュームとキャラクターにピッタリだった。コミカルな場面でもしっかり笑いを取っていた。

一方、脚本・構成には工夫の余地があると思った。原作コミックを読んでいないせいもあるかもしれないが、話が入り組んでいてどこに焦点があるのかがわかりにくかった。大劇場公演であるので、各生徒に役を与え、それぞれに見せ場を用意することが必要なのは理解できる(比較的若い生徒たちにも目立つ役が与えられ彼女らの魅力を伝えていた点はよかったと思う)。脚本を書いた斎藤は原作へのリスペクトが強く、個々のキャラクターのもつ背景などストーリーの細部へのこだわりがあったのだろう。しかし、一回の舞台で描ける範囲には限界がある。今回の物語で伝えたい部分はここだというのがもう少し伝わるように工夫してほしかった。

物語の終わりの方で、獠が香に対して、(一方的に香を守るのではなく)「いっしょに戦うパートナーだ」というようなセリフがある。これから共に戦っていくトップコンビに向けたエールになっていて、お披露目にふさわしい演出だった。

では「品性」についてはどうだったか? 原作にあるような直接的な表現は差し替えられていたために、「上品」とは言えないまでも多くの宝塚ファンに受け入れられる仕上がりになっていたとは思う(その点、つづく『Fire Fever !』の方がよっぽど問題のある演出・表現があった)。ただし、一部引っかかりを感じるところもあった。これについては長くなるので別の論考で詳しく述べたい。

休憩を挟み『Fire Fever !』である。ダンスと音楽が魅力的な、ダイナミックでテンポのよいラテン・ショーという印象だった。プロローグから、太鼓(ティンパニ?)が連打される情熱的でノリのよい曲にのって雪組生が踊りまくる。

一番の見所は、ほぼ組子全員によるロケットだろう。トップの彩風以外は上級生の男役まで含めて、みなダルマを着て挑んでいるのが珍しい。

新生雪組を印象づけるべく、やはりダンスが見所といえる演目だったと思う。主演の彩風はのびやかに踊っていて、芝居でもそう思ったが、これまでよりずっと自由にはじけているように感じた。二番手時代に比べいい意味で肩の力が抜け、トップとしての余裕を感じさせる。

私の印象では、彩風・朝月のトップコンビは、それほど個性が際立つタイプではない(決して悪い意味で言っていない)。その分、今回の公演を見て感じたのが、雪組のチーム力である。上級生から下級生まで、それぞれが自分の役目を果たし、チーム全体として一つのものを作り上げていく。あるいは、そうやってチームの一人ひとりが活躍できる土台になることができるのが、彩風らのトップとしての器の大きさであるのかもしれない。

実は、このショーの『Fire Fever !』の一部の場面において、非常に残念な演出・表現があった(生徒たちには責任はない)。先に記した『シティハンター』における「引っかかり」とともに、稿を改め論じたい。

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