【観劇メモ】星組公演『JAGUAR BEAT―ジャガービート』について

『ディミトリ』の感想を書いてから随分間があいてしまった。先日、東京宝塚劇場での千秋楽公演のLIVE配信を視聴したので、あらためて『ジャガービート』についても記しておきたい。

大劇場で観劇したときは、正直なところ、この作品をどう評価したらよいのかよくわからなかった。しかし、何度かの観劇とテレビや配信での視聴を重ね、この作品との”向き合い方”のようなものがわかってきたように思う。

作・演出の齋藤先生のショーは、こだわりの強さ、クセの強さに定評(?)があり、ファンの間でもかなり好みが分かれるのではないかと思う。ただ、熱量が高くスピード感あふれる舞台を作り上げる手腕は多くの人が認めるところだろう。本作も期待に違わず、まこっつぁんをはじめとする星組生たちの熱演もあり、初見の時から圧倒的な熱量が舞台から伝わってきた。

冒頭からテンポ感がものすごい。G線上のアリアのテクノ風アレンジに乗せて、マーリンこと暁千星を中心としたメンバーが踊りまくる。最初に宝塚で見たときは、客席が置いていかれるくらい早かった。ジャガー(礼)が登場(誕生)してからの主題歌(「JAGUAR BEAT」)もすてきだ。「Beat! Beat! Beat! 」のテーマがクセになり、見終わった後何度も脳内で再生されてしまう(「花よ…月よ…教えておくれ」のところもさりげなく全組網羅されていて心にくい)。

「Paradise Jungle」はジャングルにあるクラブという設定。白スーツにオールバックのロングヘアで決めたバッファローこと瀬央ゆりあが目立ちまくっている。いったい何をイメージしたスタイルなのか?(私は勝手に若い頃のスティーブン・セガールを思い出してしまった。こういうかなり振り切れた扮装が楽しめるのも、星組ないし齋藤先生のショーならではだと思う。)バッファローとの賭けに勝利して翼を取り返したクリスタ。だが喜びも束の間、翼はすぐに何者かに奪い去られてしまう。ジャガーがクリスタを見つけ誘いかけるが、傷心のクリスタは心ここに在らず。ジャガーを無視してどこかに行ってしまう。ここの場面、しばしばアドリブが入る。たまたま遭遇したまこっつぁんの誕生日のときは、「ジャガー、今日誕生日なのに……(大意)」と呟いていた。

つづく「Machine Girl」のシーンで印象に残るのは、クピドに扮する小桜ほのかののびやかな歌唱と、マシーンガール・詩ちづるの渾身のロボット演技だろうか。

中詰めの「Crystal Fantasy」はこれまでと印象がガラッと変わり、アステカ神話に想を得た神話的世界が描かれる。この場面、今回のショーの白眉と言える。「マジ! マジ! マジック!…」のテーマをスターたちが次々と歌い継いでいく。同じテーマがくどいくらいに繰り返されるのだが、逆にそれぞれのスターたちの個性が際立つために飽きることがない。なかでも天華えまのパフォーマンスがとりわけ印象に残る。よく響く歌唱も魅力的だが、銀橋で舞台中央の幕を引き払うようにかがみ込む仕草がたいへん粋である(ディミトリにおけるナサウィーもそうだが、男役としては少しなよっとしたところがありそれが魅力でもあるのだが、きめるところではビシッときめられる力の持ち主である)。

ありちゃん(暁)と極美くんが活躍する耽美的な「Narkissos」を経て、つづく「The Purple Commando」では、クリスタが車椅子にのって迫り上がってくる。何やら病を抱えているようだ。そこに翼の形をしたブーケを持ってジャガーが会いにくる。ブーケを受け取るクリスタ。するとあら不思議、車椅子から立ち上がり軽やかに踊り出す(アオザイ風の透明感のある衣装が素敵だ)。ところがすぐ、ジャガーを捕らえようとしてやってきたバッファローが放った銃弾に撃たれクリスタは死んでしまう。悲しみに暮れるジャガー……。

このあたりの演出、ほとんど意図不明である。体を悪くしていることを表すならわざわざ車椅子を用意する必要はないし、立ち上がることである種の”奇跡”を表したかったのかもしれないが、表現がなんとも陳腐である(「クララが立った!」みたいなのをイメージしているのだろうか?)。ジャガーを庇ってクリスタが死ぬのも、「女の自己犠牲によって男が救われる」という旧弊な型をなぞっているだけに思える。そして(お決まりの)「天国での再会」……。こちらもありきたりな設定ではあるが、G線上のアリアと「JAGUAR BEAT」のテーマをミックスした楽曲を背景に踊るクリスタとジャガーは優美そのもの。「天国での再会」ということで、二人が踊るこの場面は、どうしても「ロミジュリ」の最後を思い出してしまう。

フィナーレは極美くんから。Twitterで知ったのだがプロレスのジャガー横田のテーマ曲だそう。プロレスと宝塚。こういうふつうでは”ありえない”組み合わせを持ってくるのが齋藤先生の才であり、さらにどんなジャンルでも取り込んでしまう宝塚という形式の懐の深さでもある。つづくせおっち中心のナンバーも西城秀樹の「ジャガー」から。「ジャガ〜♪」のコーラスに合わせて娘役らがジャガーのポーズ(腕を上げながら手を鉤爪のように曲げる)をとる振りがかわいらしい。演じてる生徒らも楽しそう。

つづくまこっつぁん中心の男役群舞(袖をまくったかわり燕尾姿で踊る)がまたかっこいい。基本的な振りは決まっているのだろうけれど腕の動かし方がみな自由で面白い。一人ひとりの個性が感じられるとともに、全体として見たときにも星男たちのギラギラした感じがよく表れていてゾクゾクする。今回で退団となる遥斗勇帆がセンターで歌い、まこっつぁんらと絡むシーンも感動的だ。その後、舞空が歌う中、礼、瀬央、暁が踊る贅沢な場面がつづく。最後は礼と舞空が残って再びデュエットを踊り、パレードとなる。

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刺激的で、何度見ても飽きないショーである。ただ、冒頭に書いたように「よくわからない」と感じるところがあるのも事実だ。最大の原因はストーリー仕立てになっているにもかかわらず、舞台を見ただけはそのストーリーがよく把握できないためである(この点については長くなったので別稿にゆずる)。しかし、何度か見るうちにその点はあまり気にならなくなった(というか気にしても仕方ないとわかった)し、何より現在の星組生たちの個性が引き出された、ファンにはたまらないショーである。

加えて今回のショーは、初日に近い頃に見たときと、しばらくあけてから見たのでは印象がかなり違っていた。席の違いによるところもあるが、まずはっきりと音響に手を入れたことがわかる。最初の頃は、わざとなのか耳をつんざくようなハウリング音が響き渡っていたが、その後はかなり抑えられていた。テンポも最初の頃は拍手を入れる間もないくらいだったのが、少し間を開けるようになった気がする。東京公演の収録を見ると、洗練度合いがさらに進んでいたように思う。中詰めの途中でジャガーが閉じ込められた鏡を割るシーンがあるが、大劇場だと何をやっているかわからないまま、”ガシャン”という大きな音だけが響いていたが、東京では”ビューン”と何かを投げる音が追加されていた。これだけでも理解の助けになる。まこっつぁんの髪型もところどころ変わっていた。東京の方がややふつうの髪型になっていた(私としては紅さんの「キラー・ルージュ」を受け継いだかのような大劇場での尖ったヘアスタイルが好みであったのだが)。

何度も見る中で観る側も作品の見方がわかってくるし、作品の側も進化していく。ただ、洗練された東京の舞台もよいのだけれど、最初に宝塚で見た、何だかよくわからない、ゴチャゴチャ、ガチャガチャした舞台の方が齋藤先生らしい気がするし、星組らしさも際立っていたように思う。



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