【観劇メモ】星組公演『めぐり会いは再び next genetation―真夜中の依頼人』を観る(前半)

久々に観劇記事を投稿する。私事ながらこの4月からある大学でしばらくお世話になることになり、授業の準備やら何やらで記事を書く余裕がなかった(…と言いながら、この間も観劇には出かけていたのであるが。雪組公演『夢介』を人生初めてSS席で、それも実質最前列で観ることが叶ったり、珠さまのコンサートに参加したりしていた)。

さて、星組公演である。非常に楽しみにしていた公演であったのだけれど、コロナのせいで公演が途中からストップ。観に行く予定だった公演も1つは中止になってしまう。それでも、再開してから何とか2回観劇することができた(チケットを手配してくださった関係者に感謝します)。今回の公演は天寿光希、音波みのり、華雪りらの退団公演でもある。再開できて(そして観劇できて)本当によかった。

『めぐり会いは再び〜』は2011年に星組で初演されたシリーズの第3作。「今より少し遠い昔」にあったかもしれない架空の王国を舞台にしたラブコメ作品である。作・演出の小柳奈穂子の代表作と言ってもいいかもしれない。主演の礼真琴は、10年前のシリーズ第1作では15歳の少年だったルーチェ・ド・オルゴンを、現実の時間軸とシンクロするように、成長した10年後の姿で演じる。トップ娘役の舞空瞳は、第2作に名前だけ登場していたルーチェの恋人アンジェリーク役を演じる。物語は、10年以上付き合っているのにそれ以上の進展がない二人がどうやって結びつくかをめぐって展開される。

と、ここまで書いておいて正直にいうと、私が宝塚を初めて観たのが2013年のことなので、10年前の第1作も翌年の第2作も未見である。そのためシリーズを通しての評価はできない(動画でチラッと観たことはあるが)。しかし、そんな私も含め、多くの人が十分に楽しめるエンターテインメント作品になっていたと思う。細かい筋はおくとして、ここでは私が気づいたことを自由に記していきたい。なお、記事が長くなってしまったので、前半と後半に分けて投稿することにする。

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まず、礼真琴による開演アナウンス(今公演は初舞台を踏む108期生による口上の後に流される)の声が印象的である。前回の大劇場公演では、演じる柳生十兵衛に寄せた、重心の低い暗めの声色であったが、今回はそれと対照的な高く澄んだ大変明るい声である。この後のお芝居で演じる役と芝居自体の内容を先取りしているようで、その辺りにも、礼の役者としての工夫を感じる(同期の柚香光も同様で、いつも開演アナからすでに役に入り込んでいるように思う)。

幕が開くと、ルーチェの母であるオルゴン伯爵夫人がベッドに横たわっている。病を患っており、もはや亡くなる寸前のようだ。最愛の息子であるルーチェに手を握ってほしいと頼む母。しかし、少年ルーチェは部屋の隅っこで縮こまったままで、母の手を握ることができない。そのまま母は死んでしまう。ルーチェはこのことを後年ずっと引きずり、自らが意気地のない人間であると考えてしまう原因となる。

ルーチェの母を演じるのが今回で退団となる華雪である。可憐で美しい娘役の代表であると(勝手ながら)思っており、この役でも若くして死んでいく母親の儚さと美しさが際立っていた。開幕直後、観客を物語世界に引き込む重要な役所である。最後にこうして注目を浴びる役を演じてくれてよかったと思う反面、もっと舞台姿を見たかったなとも思う。華雪はこの後も、芝居の中で仮のプリンセス”仮プリ”を演じるなどで活躍してくれる。

ここからは出演者全員によるオープニングである。主要キャストが次から次へと登場し、ポーズを決める。メインテーマにのせた歌と踊りで舞台・客席ともども一気に盛り上がる。『はいからさん〜』や『God of Stars』のときもそうだったけれど、小柳先生の舞台はオープニング場面がいつも賑やかで楽しい。アニメのオープニングを見ているようで、この後の物語への期待が高まる。

瀬央ゆりあ演じるレグルス・バートルが経営する探偵事務所の場面。レグルスはルーチェの大学時代からの親友で、父親の後を継いで探偵業を営んでいる。大学卒業後も定職を持たないルーチェは、レグルスの事務所に転がり込み、探偵業の手伝いをしていた。レグルスの事務所に屯しているのはルーチェだけでない。女優を目指しているもののオーディションに落ちまくっているティア(有沙瞳)、劇作家であるが筆が遅いのが玉に瑕のセシル(天華えま)、セシルの恋人であり発明家を自認するアニス(水乃ゆり)。彼・彼女らは大学の同級生であり、レグルスは別として、みな卒業後もモラトリアム生活を続けている。

余談であるが、ルーチェらの生活を見ていると、大学卒業後たいした目的意識もないまま大学院に進んだ私自身の境遇と重ねてしまう。共同生活こそしなかったまでも、夜な夜な集まっては酒を飲みながらぐだぐだと、まったく見えない将来への展望(というか現状への不満)を語り合っていた頃を思い出す。

この場面、礼を中心とした5人による5重唱が聞きどころである。モーツァルトのオペラのようなクラシカルな楽曲に乗せて、レグルスの事務所で5人が歌い踊る。歌い終わった後でセシルが「無駄な体力を使ってしまった」というほど本格的な重唱であり、今回の芝居が、専科の歌姫・美穂恵子を擁していることも含めて、かなり歌に比重を置いた音楽劇であることがわかる。

この後、ルーチェはひょんなことから王家の花婿選びのオーディション?に参加させられてしまうことになる。恋人アンジェリークと不本意な形で喧嘩別れしてしまっている彼は、一人銀橋でアンジェリークへの想いを歌う。この場面、アンニュイな雰囲気を醸しながら、キレよく歌って踊る姿がカッコいい。本人も自覚していると思うけれど、まこっつぁんの男役としての魅力はこういう場面で強力に発揮される。

歌の途中で回想シーンが挿入される。アンジェリークがルーチェに、「もしも私がお父様から、そろそろお嫁にいけ」と言われたら止めてくれるかと尋ねる。それに対してルーチェは、自分の立場で「いくななんて言えない」と煮え切らない態度をとる。「だって君の人生だから」と、優しさを示しながらもその実判断を相手に任せるやや無責任な言葉をかける。ルーチェに対して何か言いかけるも「さようなら」と言って去っていくアンジェリーク。

アンジェリークとしては、自分と一緒になってほしくて、その覚悟があるかを確かめたかった。しかし、ルーチェとしては(気持ちは一緒になりたくても)、ちゃんとした職もなくふらふらしている自分では責任が持てないという思いがある。「お父様から」という部分は流石に古いかもしれないが、現代の恋人同士の間でも起こりそうな「あるある」な展開である。

ルーチェはこの場面を含め、現代的な”優しい”男性として描かれているのだけれど、その実、既存の(昭和な?)ジェンダー規範に縛られているところがある。最初の方でレグルスとのやり取りの中で、プロポーズするなら自分で稼いだ金で指輪を買うと言い張るところなどが分かりやすい。ちゃんとした職につかず、親の脛をかじって生きている自分に負い目があり、そのせいでアンジェリークに対しても、自分の気持ちに対しても素直になれないでいる。

つづいてローウェル公爵邸の場面。アンジェリークの”父親”(この後明かされるように、実は本当の父ではない)であるローウェル公爵(輝咲玲央)と甥のフォション(ひろ香祐)、姪のレオニード(音波みのり)、そしてアンジェリークの侍女でボディガードも兼ねるアンヌ(瑠璃花夏)が何やら相談事をしている。ネタバレになるが、アンジェリークは実は王家の娘であり、ある事情から王家と親戚のローウェル公爵が親代わりになって育てていたのだった。公爵らはアンジェリークとルーチェとを、当人たちに内緒で再びくっつけようと計画していた。王家の婿選びにルーチェが参加させられたのも、レオニードの発案によるものだった。

音波演じるレオニードは、血はつながっていないもののアンジェリークとは従姉妹同然という間柄。アンジェリークのことを「まだまだ子供ね」と言っているので、年上のお姉さん的な存在なのだろう。

この場面におけるような、音波のやや誇張されたコミカルな演技が個人的には好きである(かつて演じた『ベルリン、我が愛』でのレニ・リーフェンシュタールや、『ロックオペラ』でのコンスタンツェら姉妹の母親役が思い浮かぶ)。それにしても、癖のあるヒロインのライバルから肝のすわった母親からヒロインまで(最近だと『婆娑羅の玄孫』で轟悠の相手役が印象に残る)、これほど幅広い役を瑞々しさを失わずに演じられる娘役は他にいないのではなかろうか。つくづく退団が惜しまれる。

前半はここまで。後半は後日アップする予定です。

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